診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ

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第17章 夏輝・人気と自由と……

328話 タワマン・入居

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あれから1か月。

 夏が「もう準備が整ったから入居できるよ」と言ってくれた。

莉子が「夏、ありがとうね!」と感謝して抱きついていた。
──そんなに感激したんだ。ふっ。

まあ、桃香を一番に考えてくれたからさ。
俺も本当に心から感謝している。

ああ~でも、塾の先生には相談しないといけないな。
これから先のことを、早めに伝えておいた方がいいかもしれない。

まだSS学園を受けるというだけで、合格だと決まったわけではない。
念のため、もう一校も受ける予定だ。

ただ、そっちは電車を乗り換えて、着くまでに30分かかるんだよね。
とにかく、みんなでSS学園って決めてかかってる。面白いね。

桃香、頑張れよ。
なんか国語の試験が難しいらしいけど……、インター育ちで大丈夫か?

今週末の土曜日に入居することにした。
夏は、このマンション用に車を購入した。

万が一の時には、駐車場で車を乗り換えるんだって。
──へえ~、規模が違うよね(笑)

でも、買った車は高級車ではない。
むしろどこにでもあるような、周囲に溶け込む普通の車。
それは、いたずらされないため。
高級車だと菜の花に停めると目立つからだって。──頭いいなあ。



さあ、土曜日。引っ越しの日だ。
俺の車にも荷物がぎっしり。──まるで夜逃げだな。

シャトルバスにもお願いして、小さな台車と残りの段ボール箱も乗せた。
寝具類は、今夜マンションにまとめて届く予定。

桐生さんと村瀬さんが手伝いに来てくれた。
二人はシャトルバスに一緒に乗って来る。

村瀬「もう、わくわくですねえ~。俺が引っ越す気分ですよ」
──ノリノリだった。

桐生さんはくすくす笑っていた。
このマンションの場所は、今日運転してくれたドライバーと山野課長、

そして桐生さんと村瀬さんだけが知っている。

部屋に入ると、莉子が「うわ~すごい!カッコいいねえ。最高!」と喜んでいた。

村瀬さんも桐生さんも「これは最高の景色ですねえ。夜景がきれいそうだあ」と、感想はみんな同じ。
──俺たちも同じだよ。

クールなのは夏だけ。
マイペースで、自分の部屋の片づけをしていた。

──まったく、セレブなんだから。こういうのに慣れてるのかな?
とりあえず、全部運び終えて、1回で終了。

二人は帰っていった。
あとは、俺たちで細かい片づけだ。

「莉子、夜は寝具類の他に何か届くものある?」

莉子「家電があるよ。掃除機とトースターと炊飯器とウォーターサーバー、卓上IH、ホットプレートも来るし……あとなんだっけ?もう忘れた」

「まあ、テレビは壁に取り付けてあるし、照明器具もナイトテーブルもあるしね。もう他にはないんじゃない?」
「桃香、どう?なんか欲しいものある?」

桃香が、背の低い仕切りからそっと顔を出した。

桃香「パパ、これ面白いよ。壁からベッドを引っ張り出すと、バタンって出てくるんだよ。すごいねえ!」

「うん、すごいアイデアだよね。机も組み込んであるし、それも棚の中にしまえるんだよ」

桃香「もう机、出しててもいいの?」
「うん、いいよ。ベッドも出したままでいいよ」

桃香「いえ~い!」──桃香も大喜びだった。

「莉子、お昼はどうする?何か持ってきた?」

莉子「今日はお弁当頼んでないから、近くのコンビニで夜の分も買ってこようよ」

「そうだね。お米はあるの?」

莉子「あるけど、炊飯器が届くのが夜だよ」

「じゃあ、先に買い物に行こうよ。疲れると行きたくなくなるからさ」

夏は「行かない」と言ったので、みんなで先に出かけることにした。

──そうだよね。夏は、自分の顔がこの辺で広まると困るから、我慢してるんだよね。

スターって、なんて不自由な毎日を送ってるんだろう。
失うものが大きすぎる。

──自由こそ、素晴らしいって、あらためて思う。

あれ、もしかして俺も行かない方がいいのか?

「莉子、ごめん。俺も出歩かない方がいいかも。俺の顔って、結構知られてるよね?」

莉子「そうね、間違いないわ。いいよ、私と桃香で行ってくるよ」

──うっかり忘れていた。

俺も、案外“有名人”なのかもしれない。
夏の写真集に結構写ってるしな。

やばい‥‥‥。
俺がうろついてれば、夏がそばにいると思われてもしょうがないよな。

我慢だ。スターでもないのに……。

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