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第5話 アリスの午後
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バラマウント伯爵はこのアディスアメーバシティに近い鉱山の利権を独占していた大貴族であった。が、血筋至上主義を抑え、能力有る者が台頭すべきと言う近年の王国の方針によって利権争いに敗れつつある。名前こそ鳴り響く大貴族だが、最も重要な鉱山のほとんどを失い、その販路に関しても失いつつある。
サニー子爵はその真逆と言って良い。準貴族の男爵に過ぎなかったが商人としての才覚がズバ抜けていた。王国の方針を受け、瞬く間にその勢力を増やし、子爵に爵位を上げている。
サニー子爵の提案により両者は協力関係を進めつつあった。
パラマウントは鉱山の利権を徐々に取り戻し、その販路をサニー側が握る。
その協力関係をより信頼出来るものとすべく、伯爵の娘メリーとサニー子爵の息子ピーターの婚約が計画されたのだ。
そして。
この二人の見合いの場に選ばれたのこそがっ!
ロイヤルジョナゼリア・アディスアメーバ店なのであった。
そんな貴族様のための特別ディナーを俺が作らなくてどうするんだ、とバトルロミオ料理長は怒っているのである。
モンスターに似た相貌を怒らせて、牙が突き出て髭が逆立つ様子は正に狂暴猪《マッドボア》そのものなのである。
「いや、もうその話いいだろ!
俺が狂暴猪《マッドボア》に似てるってハナシ、要らないだろ!
もう前回で終わったハナシだろ!!!!」
しかし、そんなバトルロミオを無視して女が調理場に入り込んでくるのである。
「キサマ、何者だ!
調理場は神聖な場所。
女人は立ち入り禁止だぞ」
「バトルロミオ料理長!
この方は良いんだ。
失礼しました。
どうぞ、お入りください」
「はい~。
あ、その木箱を運んでくださる~」
女はブラウンの髪、整った顔立ちには笑顔を浮かべている。少女のような雰囲気だが、そのプロポーションは育っている。
バトルロミオはついその胸に視線を引き付けられてしまう。
ちなみにバトルロミオは独身なのである。
「カンケー無い!
俺が独身であって何が悪い!
料理一筋に生きて来たんだよっ!」
俺は女を何者なのか観察していただけであって。胸がイイカタチしてやがるぜゲヘヘ、等とは一切考えていない。女が歩くときに一瞬胸がたゆんと揺れたなー等と思ったりしていない。考えていないと言ったら考えていないのだ。
声に出さず胸の中で断じるバトルロミオなのである。
「重いですね。
一体何を運んで来たんですか?」
見ればマネージャーともあろう者が、女の言いなりに荷箱を運んでいるのだ。
木で覆われた箱は確かに重みがありそうである。
「食材ですよ~。
ここに何が有るのか分からないから調味料も含めて全部持ってきちゃったの。
ホラ慣れてるのが一番いいじゃない」
「何を愚かな。
この店に届けられてる食材は全て超一流。
近隣の農家組合、漁師組合に言って最も良いモノを届けさせているのだ。
何を持ち込んだか知らないが、そこらへんで採れたモノと比べ物になるか…………」
マネージャーが木箱を開けた途端、バトルロミオは言葉を失っていた。
色とりどりの野菜。全てが輝いていた。
「これは……さすが……
このような光り輝く食材初めて見ました」
「はい~。
もぎたて新鮮ですのよ。
自信のお野菜ちゃん達です」
衝撃から自分を取り戻し、バトルロミオは木箱の中身を手に取っていた。
これはトマト。表面に水気を湛えて、確かに今しがたまで茎から水分が補給されていたのであろうと思わせる。この赤さは、ヘタの緑まで神々しいじゃないか。中身が詰まっている事が持っただけで分かる重量。
玉ねぎにホウレン草。一本たりとも水気を失いしおれた物は無い。
「これは確かに良いオニオンだ。
しかしこれでは使えんぞ」
「何を言い出すんだ?
バトルロミオ料理長」
「確かに良い野菜だが……サイズが揃っていない。
食材としては致命的だ。
煮込むにしろ、炒めるにしろモノによって火の通り具合に差が出てしまう。
この店に届けられているのは野菜の一本、魚のサイズまで均一の物だけなのだ」
「それこそ料理人の腕の見せ所ですわ~」
「ほざいたな、小娘」
バトルロミオがモンスターそっくりの顔で脅すのを、余裕の笑みで躱すアリス・マーティンなのである。
「俺の顔がモンスターに似てるってハナシはもういいよっ!」
「そちらの木箱の中身、冷やしておきたいんですの」
と女は別の箱から取り出している。こちらの箱にはどうやら肉が詰まっている様だ。
「これは牛肉ですか?」
何かと思えば野牛か。野牛は捕りやすいし肉の量も多い。だが全般に固い部位が多く一般客向けならともかく貴族のような特別客向けにはそれほど向かない。
そしてここはアディスアメーバシティ。山脈や海が近く平野は少ない。平野に多い野牛を持って来れば輸送の間に傷んでしまうのだ。
痛まないために火を通せば固くなるし、調理の方法も限られる。
「あ、その部位は冷蔵庫に入れて冷やしておいて。
そこはすぐ調理するからいいわ~」
ところが女の取り出す肉は全て新鮮そのもの。黒くなった処の全く見当たらないピンク色の肉なのだ。
そしてこの女、何故かロイヤルジョナゼリアの秘密まで知っている!
「何故だ?!
なにゆえ冷蔵庫の使い方まで熟知しているっ!」
そこら辺の料理店をロイヤルジョナゼリアが瞬く間に追い落とした秘密こそがこの冷蔵庫にあった。
魔法に関して知っている者なら周知の事実だが、魔水晶には発動させた魔法を溜めておける力がある。
これを応用して王族などは護衛《ガード》の魔法をかけた魔水晶をアクセサリーとして持ち歩いていると言うのだ。
外気を遮断する箱の中に氷魔法の力を溜めた魔水晶を入れておくのだ。それで気温の上がる日中でさえも食材を冷やしておくことが可能となる。
そんな貴重な品を食材を冷やすためだけに使う。
正に発想の転換!
バトルロミオの様な料理人には幾ら考えても思いつかない奇想であるし、同時に不可能でもある。
魔水晶など簡単に手に入るものでは無い。ロイヤルファミリーや強大な貴族でさえも好きなように手に入る品では無いのだ。
ところがどの様なツテで手に入れたのかバトルロミオには見当もつかないが、ロイヤルジョナゼリアには氷魔法の力を溜めた魔水晶が全ての店に支給されているのだ。
「驚けよっ!
箱の中が冷えてるんだぞ!!
ビックリだろっ?!
俺なんか初めて見た日は衝撃のあまり眠れなかったよ。
オマエはなんでフツーに冷蔵庫使ってんだよ。
冷静に手際よくウシ肉詰めてんだよ」
声を枯らすほどに叫んでしまうバトルロミオなのである。
サニー子爵はその真逆と言って良い。準貴族の男爵に過ぎなかったが商人としての才覚がズバ抜けていた。王国の方針を受け、瞬く間にその勢力を増やし、子爵に爵位を上げている。
サニー子爵の提案により両者は協力関係を進めつつあった。
パラマウントは鉱山の利権を徐々に取り戻し、その販路をサニー側が握る。
その協力関係をより信頼出来るものとすべく、伯爵の娘メリーとサニー子爵の息子ピーターの婚約が計画されたのだ。
そして。
この二人の見合いの場に選ばれたのこそがっ!
ロイヤルジョナゼリア・アディスアメーバ店なのであった。
そんな貴族様のための特別ディナーを俺が作らなくてどうするんだ、とバトルロミオ料理長は怒っているのである。
モンスターに似た相貌を怒らせて、牙が突き出て髭が逆立つ様子は正に狂暴猪《マッドボア》そのものなのである。
「いや、もうその話いいだろ!
俺が狂暴猪《マッドボア》に似てるってハナシ、要らないだろ!
もう前回で終わったハナシだろ!!!!」
しかし、そんなバトルロミオを無視して女が調理場に入り込んでくるのである。
「キサマ、何者だ!
調理場は神聖な場所。
女人は立ち入り禁止だぞ」
「バトルロミオ料理長!
この方は良いんだ。
失礼しました。
どうぞ、お入りください」
「はい~。
あ、その木箱を運んでくださる~」
女はブラウンの髪、整った顔立ちには笑顔を浮かべている。少女のような雰囲気だが、そのプロポーションは育っている。
バトルロミオはついその胸に視線を引き付けられてしまう。
ちなみにバトルロミオは独身なのである。
「カンケー無い!
俺が独身であって何が悪い!
料理一筋に生きて来たんだよっ!」
俺は女を何者なのか観察していただけであって。胸がイイカタチしてやがるぜゲヘヘ、等とは一切考えていない。女が歩くときに一瞬胸がたゆんと揺れたなー等と思ったりしていない。考えていないと言ったら考えていないのだ。
声に出さず胸の中で断じるバトルロミオなのである。
「重いですね。
一体何を運んで来たんですか?」
見ればマネージャーともあろう者が、女の言いなりに荷箱を運んでいるのだ。
木で覆われた箱は確かに重みがありそうである。
「食材ですよ~。
ここに何が有るのか分からないから調味料も含めて全部持ってきちゃったの。
ホラ慣れてるのが一番いいじゃない」
「何を愚かな。
この店に届けられてる食材は全て超一流。
近隣の農家組合、漁師組合に言って最も良いモノを届けさせているのだ。
何を持ち込んだか知らないが、そこらへんで採れたモノと比べ物になるか…………」
マネージャーが木箱を開けた途端、バトルロミオは言葉を失っていた。
色とりどりの野菜。全てが輝いていた。
「これは……さすが……
このような光り輝く食材初めて見ました」
「はい~。
もぎたて新鮮ですのよ。
自信のお野菜ちゃん達です」
衝撃から自分を取り戻し、バトルロミオは木箱の中身を手に取っていた。
これはトマト。表面に水気を湛えて、確かに今しがたまで茎から水分が補給されていたのであろうと思わせる。この赤さは、ヘタの緑まで神々しいじゃないか。中身が詰まっている事が持っただけで分かる重量。
玉ねぎにホウレン草。一本たりとも水気を失いしおれた物は無い。
「これは確かに良いオニオンだ。
しかしこれでは使えんぞ」
「何を言い出すんだ?
バトルロミオ料理長」
「確かに良い野菜だが……サイズが揃っていない。
食材としては致命的だ。
煮込むにしろ、炒めるにしろモノによって火の通り具合に差が出てしまう。
この店に届けられているのは野菜の一本、魚のサイズまで均一の物だけなのだ」
「それこそ料理人の腕の見せ所ですわ~」
「ほざいたな、小娘」
バトルロミオがモンスターそっくりの顔で脅すのを、余裕の笑みで躱すアリス・マーティンなのである。
「俺の顔がモンスターに似てるってハナシはもういいよっ!」
「そちらの木箱の中身、冷やしておきたいんですの」
と女は別の箱から取り出している。こちらの箱にはどうやら肉が詰まっている様だ。
「これは牛肉ですか?」
何かと思えば野牛か。野牛は捕りやすいし肉の量も多い。だが全般に固い部位が多く一般客向けならともかく貴族のような特別客向けにはそれほど向かない。
そしてここはアディスアメーバシティ。山脈や海が近く平野は少ない。平野に多い野牛を持って来れば輸送の間に傷んでしまうのだ。
痛まないために火を通せば固くなるし、調理の方法も限られる。
「あ、その部位は冷蔵庫に入れて冷やしておいて。
そこはすぐ調理するからいいわ~」
ところが女の取り出す肉は全て新鮮そのもの。黒くなった処の全く見当たらないピンク色の肉なのだ。
そしてこの女、何故かロイヤルジョナゼリアの秘密まで知っている!
「何故だ?!
なにゆえ冷蔵庫の使い方まで熟知しているっ!」
そこら辺の料理店をロイヤルジョナゼリアが瞬く間に追い落とした秘密こそがこの冷蔵庫にあった。
魔法に関して知っている者なら周知の事実だが、魔水晶には発動させた魔法を溜めておける力がある。
これを応用して王族などは護衛《ガード》の魔法をかけた魔水晶をアクセサリーとして持ち歩いていると言うのだ。
外気を遮断する箱の中に氷魔法の力を溜めた魔水晶を入れておくのだ。それで気温の上がる日中でさえも食材を冷やしておくことが可能となる。
そんな貴重な品を食材を冷やすためだけに使う。
正に発想の転換!
バトルロミオの様な料理人には幾ら考えても思いつかない奇想であるし、同時に不可能でもある。
魔水晶など簡単に手に入るものでは無い。ロイヤルファミリーや強大な貴族でさえも好きなように手に入る品では無いのだ。
ところがどの様なツテで手に入れたのかバトルロミオには見当もつかないが、ロイヤルジョナゼリアには氷魔法の力を溜めた魔水晶が全ての店に支給されているのだ。
「驚けよっ!
箱の中が冷えてるんだぞ!!
ビックリだろっ?!
俺なんか初めて見た日は衝撃のあまり眠れなかったよ。
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