異世界転生ファミリー

くろねこ教授

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第6話 アリスの夕方

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 バトルロミオは調理場を追い出されていた。

「あの人、なにかと大声で叫んで怖いですわ~」
「はい、アリス様。
 バトルロミオ料理長、すまないが今日の料理は彼女に任せる事に決まっているんだ。
 これは本部の決定だ。
 支店のマネージャーである私には覆す事は出来ない。
 キミは出ていてくれないか」

 アリスと呼ばれた女はヒヨコの絵が入ったエプロンを身に着けていた。後ろで締めるとエプロンのウエスト部分が締まり、女のウエストが細い事が分かる。とゆー事はすなわちその上の部分との差異がハッキリするのである。ボン、キュっである事が明白になるのである。

「どうした、バトルロミオ料理長。
 狂暴猪《マッドボア》に似てるキミだが……
 現在は発情した狂暴猪《マッドボア》みたいだぞ」
「そんな顔してねーよ!
 そのハナシもういーよ!!」
 
 そんな訳でバトルロミオは調理場の外から様子を伺っていた。調理の手伝いだけでなく接客も行う若手の一人を呼び寄せる。ロイヤルジョナゼリア・アディスアメーバ店には別の料理店からバトルロミオが連れて来た若手が数人いるのである。

「オマエ頼みがある」
「どうしたんです、バトルロミオ料理長。
 発情した狂暴猪《マッドボア》みたいな顔をなさって」

「オマエまでかよ!
 発情した狂暴猪《マッドボア》ってどんなだよ!!
 オマエ発情した狂暴猪《マッドボア》見たコトあんのかよ!!!」

 あの女、包丁の手際は良かったが。所詮家庭料理だろう。そんなモノを貴族の席にだして、出して…………もしも評判が良かったりしたら……
 バトルロミオの料理長の座はどうなるのだ。老舗料理店を出て、この店に来たと言うのに。

「違う、違う、違う――――!!!」

 もとい、所詮家庭料理だろう。そんなモノを貴族の席にだして、出して…………もしも貴族を怒らせでもしたらどうするのだ?!
 本日の客はこの地方で昔から高名なパラマウント伯爵、現在勢力を増してきているやり手のサニー子爵なのである。ロイヤルジョナゼリア・アディスアメーバ支店が潰される事すらあり得る。


「キサマ、これをあの女に気付かれないよう料理に混ぜろ」
「そ、それは……」

「別に毒では無い。
 ヒドイ便秘を起こしたモノの便通をちょっとばかり良くする薬だ。
 貴族にはストレスを抱えた方も多い。
 俺は良く知っているが便秘に悩む方もいらっしゃるのさ」
「しかし……普通の方が吞んだなら……
 これは即時に下痢を起こされるのでは……」

「この店に傷んだ食材など有るモノか。
 もしもあったとしたならば……
 それは変な女が持ち込んだのだろう」
「…………!……」


 そんな企みが進行してるとは誰も知らず、時間は流れる。
 ディナーの時間も近づきロイヤルジョナゼリア・アディスアメーバ店の前には馬車が停まる。マネージャーがすぐさま出迎えるのである。
 降りて来たのは金髪の若い娘であった。

「これが……確かに店の造り自体は立派なようですが。
 やはりワタシ庶民の方と一緒に食事なんてムリです。
 とても耐えられそうにありません」

 店の一階を見回しパラマウント伯爵の一人娘メリーは言わずにはいられない。
 周囲には普通の人々、一人用のテーブルでパスタを頬張るモノ、ピザを分け合うカップル。
 メリーにとってはあり得ない程狭い空間に人が詰め込まれているのだ。

「うむ、しかし、サニー子爵の息子ピーター君は新しいモノ好きでな。
 この店を見分したいと言うのだ。
 確かにこの店はおそろしく評判が良いらしいぞ」

 立派な体格に顎髭、紳士服の男。パラマウント伯爵はそうは言ったが、一階の様子に自身も嫌悪の表情が隠せていない。


「お客様の席は別でございます」

 と、マネージャーが案内し入り口横のなにやら狭い部屋にメリーは案内される。メリーの足元には不思議な浮遊感、一瞬は体が浮き上がりそうな感触すら覚える。
 狭い空間から出るとそこは何故か別の空間であった。

「お二階でございます」

 何故、ワタシは階段など昇っていない!
 と、呆然とするメリーなのである。

 すでにサニー子爵は席に着いていた。格下が先に席に着いて待っているのが基本的礼儀と言うモノなのだ。

「昇降阪に近いモノでしょう」

 若い男が口を出す。メリーが不思議そうな顔をしているのが面白かったのか、軽く口元には笑みを浮かべる。
 すでにメリーは肖像画で知っている顔、サニー子爵の息子ピーターである。

「建築の現場で見た事はある。
 建材を滑車の要領で吊り上げる仕組みか」
「御明察です、パラマウント侯爵。
 それを人を載せて、不快に思わない程揺れを抑え、音も抑えた。
 なかなかの出来ですね」

「あなたがピーター?
 人の顔を見て笑うなんて失礼だわ」
「これは申し訳ない、メリー様。
 貴方の顔を見て笑った訳では無いのです。
 ただ、この店が興味深くて楽しい気分になったのですよ」

「この店が、ワタシにはあまり興味の持てない店だわ」

 メリー・パラマウントは生粋の貴族。現在では力が衰えているとは言え、家系図を辿れば王族の血すら混じった事のある家系なのだ。
 歴史の無いレストランに興味など持てはしない。

 伯爵と子爵は目を合わせる。なかなかに彼らの思惑通り若い世代は上手く結び付いてくれそうに無い。

 そんな様子を見てほくそ笑む男がいる事には気付いていない。

 ククク、生意気そうな貴族の娘。
 これから貴様は……
 ピーゴロゴロな地獄の苦しみを味わう事になるのだ。
 フッフッフ。

「アレ、バトルロミオ料理長じゃないですか。
 今日はもうお帰りになったのかと……
 どうしたんですか、狂暴猪《マッドボア》が悪だくみしてるような顔をしてますよ」
「一瞬ホントに狂暴猪《マッドボア》が悪だくみしてるのかと思いましたよ」

 料理を運んできた若手がそんな男に声をかけるのである。

「なんでだよ!
 狂暴猪《マッドボア》が悪だくみしてる顔ってどんなだよっ!!
 狂暴猪《マッドボア》って狂暴で突進するだけのモンスターだろ!
 そんなのが悪だくみしねーだろ!!
 悪い企みなんか考えてたら、それもう狂暴猪《マッドボア》じゃねーよっ!!!!」
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