ぼくが風になるまえに――

まめ

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14 さあ、寝ようか

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 フロルはダレンと共に自分の部屋に向かった。
 今朝までセージと一緒に寝てもらっていたのに、相手がダレンとなるとなんだか緊張する。
 二人でベッドに腰かけたら、先を想像してしまい、恥ずかしさで頭に血が上ってくらくらした。

「どうした? フロル?」

「ううっ、やっぱりダレンと寝るの無理。眠れる気がしない!」

「なにもしないから、ぎゅっとするだけだよ。ね。」

 フロルが添い寝を望んだはずなのに、いつのまにか主導権がダレンに移っている。今日泣きべそをかいていたかわいいダレンは、どこへ行ったんだろう。
 フロルは、目の前で自分に手を差し出す自信たっぷりのイケメンを見て、悔しいと思った。なんだか人との距離の詰め方に、自分とは大きな差を感じた。
 そういえばダレンは誰とでも自然に打ち解けてしまう、人たらしなのだった。前世の自分なら、なるべく距離を取っていたような陽キャが――自分の恋人なのである。
 フロルは、なんでこんなことになったのか考え始め、かなり過去、前世まで記憶をさかのぼっていた。
 ダレンは、一人ベッドに寝そべって、大きな伸びをした。フロルが考え込むと、自分の世界に行ってしまうのはいつものことで、あまり気にならないし、今日はいろんなことがありすぎて疲れていた。眠いのだ。ぐう。

 フロルは陰キャの呪文「リア充爆発しろ!」まで思い出して、くすくすと笑い、ダレンをほったらかしにしていたのを思い出した。
 後ろを振り向くと、ダレンは、体を丸めて、くうくうと深い眠りに落ちていた。
 ちょうど胸のあたりに潜り込めそうな空間を見つけると、フロルは、ベッドに上がり、ダレンの腕の間に、ぐいぐいと自分の頭を押し込んだ。うまく体まで入りきると、そこはとても居心地がよかった。
 腕の長さ、よし。腕の重さ、とてもよし。ダレンの胸に背中を預けると、ぴったりフィットする。自分より少し高いダレンの体温は、ぬくぬくしてちょうどよいし、彼のシダーのような匂いもとても落ち着いた。
 フロルは、ダレンを自分の専用寝床にすることに決めた。こんないい空間は、もう手放せない。ちい兄には悪いけど。
 さみしくてすうすうと風が吹いていた胸の穴が、修復されていくような気がした。
 
◇◇◇
 
 朝、ダレンが目覚めたとき、ベッドには自分だけだった。
 フロルはどこに行ったのだろう。隣に並んだ枕は使われた形跡すらなかった。
 もしかして、自分が先に寝てしまい、ご希望のぎゅっをしなかったから、セージのところに行ったのかもしれない。せっかく思い切り抱き着く権利を手にしたのに、一日でお払い箱かもしれない。
 眠い目をこすりながら、顔を洗い、食堂まで行くと、フロルは片手で器用にゆでたまごの殻をむいていた。

「おはよう、ダレン!ぐっすり寝てたね!」

「おはよう、フロル。寝ちゃってごめん」

「いいよ。勝手に腕の間に潜り込んで寝たから。ダレン、とってもいい匂いしてた」

「はぁっ?」

 ダレンは、フロルが自分の腕の中にすっぽりはまって、匂いをすんすんするところを想像した。かわいい。うれしい。とても見たかった。もったいないことをしてしまった。今夜こそ、フロルを抱きしめて寝るんだと、自分に誓った。

 その間も、フロルはせっせと大量のゆでたまごをむき続け、ボウルにいっぱいになると、細かく刻み始めた。

「たまごサンド作ろうと思って……」

 フロルが作るたまごサンドは、ダレンの大好物だった。覚えていてくれた喜びで、踊り出したい気分だった。
 マヨネーズ作りは、いつもダレンの担当だった。この喜びを、マヨネーズに全力で込めよう。ダレンは渾身の攪拌をした。今回のマヨネーズは今までで一二の出来なのではないだろうか。
 
 出来上がった大量のたまごサンドをバスケットに詰めて、ダレンとフロルは、屋敷や畑を練り歩いた。

「たまごサンドどうぞー」
「この人ダレンっていうの、しばらく屋敷にいるから」
「たまごサンド食べます?」
「覚えてる?ダレンがまた遊びに来てくれたよ」

 二人は、たまごサンドを配りながら、顔見知りの使用人や、近くの領民の間を練り歩いた。
 小さい頃から、セルフィーユ領で夏を過ごしていたダレンを覚えている領民もいたし、久しぶりのフロル――風守の元気な姿に、涙する者もいた。
 使用人たちは、フロルが悲しみにうちひしがれて帰郷したのは、まだ記憶に新しい。それでも、元のようになかよくよりそう二人を見て、うれしく思う者がほとんどだった。
 玉子サンドは、おすそわけを兼ねた挨拶まわり。ダレンの立場が悪くならないように、フロルなりの心配りだった。
 そもそも今の彼の立場は、元婚約者なのか、まだ婚約者なのか。親同士の話し合いはよく知らないけど、肩書きなんて、どっちでもよかった。

◇◇◇
 
 そんなのんびりした一日も終わりを迎え、今日もおやすみの時間が訪れた。
 ベッドに腰かけると、ダレンは有無を言わさずフロルを抱きしめた。

「フロル……キスしてもいい?」

「……ぅぅぅ、……うん」

 今までくっつくことは日常茶飯事だったが、唇と唇を合わせたことは無かった。フロルが恥ずかしがって逃げてしまうせいなのだが。
 そうして、二人は初めてのキスをした。

 フロルは、前世の観念が残っているせいで、男同士のキスって不思議な感じだと思った。ダレンの唇は、思いのほか力強かった。

 ダレンは、ぽーっとしているフロルを見て、くすぐったい気分になった。フロルの唇はぷるんとやわらかくて、思っていたより温かかった。もっとしたいが、最初からがっついては、また逃げられてしまう。

 今日はここまで――ダレンは、フロルを胸に抱き寄せ、ぎゅっとしながら幸せな眠りに落ちた。

 
 
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