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入学式
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「いっくーん!早く行こうよー!」
「ちょっと待ってー!」
桜が咲き乱れる4月。高山樹は前を走る双子の兄、克樹を追って走り出した。
今日は高校の入学式だ。
新しい制服は、少し大きくてなんだか動きづらいし、初めて履く革靴は固くて、すでに足が痛い。
それでもワクワクするのは、春の陽気のせいだけではない。
今日から始まる新しい学校生活に期待が膨らんでいるからだ。春休みの間、いや、もっと前からずっとこの日を楽しみにしていた。
ザアっと強い暖かい風が吹く。桜の花びらが樹の周りを舞った。
(着いた…)
樹は目の前の光景を見て息を呑んだ。
広い校舎がそびえている。
ここにずっと来たかったのだ。
前に来たときは受験の時で、今のような余裕はとてもなかった。
「いっくん、これから頑張ろうな」
いつの間にか隣にいた克樹に肩を叩かれた。
克樹とは双子のはずなのだが、身長が違いすぎる。そのせいか間違われることは少ない。
樹は克樹を見上げる。
「かっちゃんもね」
「あぁ!早速行こう」
克樹に手を掴まれて引っ張られる。
二人は学校の敷地内に足を踏み入れた。
中に入ると、新入生と見られる生徒が沢山いる。
「いっくんは1Aだって」
背の高い克樹が人だかりの中からクラス分けの表を確認してくれた。
こんな時、自分の身長の低さが嫌になってしまう。
「かっちゃんは?」
「俺は1Bだね。俺も遊びに行くから、いっくんも遊びに来てね!」
「うん!楽しみだなあ」
樹がにこにこしていると、克樹が大きくため息をついた。
「どうしたの?かっちゃん」
「ううん、なんでもないよ。いっくん可愛いから、また虫の駆除が大変だなーって思っただけ」
「ナニソレー。虫?」
「そ、虫。でも無視はできないし」
「?」
結局真意が分からないまま、克樹と別れて、樹は自分のクラスに向かった。
教室は既に騒がしい。
樹は大人しい性格だ。それにはとても加われないと諦める。
そっと静かに教室の中に入り、自分の席を探す。
ようやく見つけて、席に着いた。
(俺、本当にここの生徒になったんだ)
樹は教室を見渡しながら改めて実感していた。
この学校、私立夢プロミス学園(通称:夢プロ)に通うことを目標にしたのは中学生になった時だ。
樹は幼い頃から、なによりアイドルが好きだった。
樹にとってアイドルとは、キラキラして華やかで、自分には持っていないものを持っている人達だ。
そしていつの間にか、自分もなにかアイドルと関われる仕事に就きたいと思うようになっていった。
自分自身がアイドルになるという考えは始めからなかったので、子供ながらに色々考えた。
樹なりに考えた結果、プロデューサーを目指すことを決意したのだ。
作詞や作曲の勉強を始めたのもこの頃だ。
だが、やはり独学では厳しいと感じた。
そこで、どうにか出来ないかと中学校に設置されていたパソコンからインターネットで探した結果、この学校、夢プロが都内にあることを知った。
設立されてまだ10年足らずの学校だが、実績は確かで、樹は絶対にここに通う、とその時に決意したのだ。
克樹も誘ってみたら、案外ノリノリで付いてきてくれた。
夢プロに入るには、まずは書類選考を通過しなければならない。その後に厳しい学科試験も控えている。
その時、中学校ニ年生だった二人は教師の手を借りながら、苦心して書類を作り、無事に審査を通過した。
それからは学科試験の為に、二人で励まし合いながら毎日勉強した。
そのお陰で、中学校生活の思い出のほとんどは勉強で埋まっている。
だが悔いはなかった。
それもいい思い出だったと今の樹なら言える。
両親もそんな二人に協力してくれたのは大きかった。塾や夏期講習の送迎に始まり、毎日のように夜食を作ってもらった。
合格が分かった時、樹は思わず泣いてしまった。
だが、ここからがスタートだと父親に頭を撫でられながら言われた。
(俺、絶対頑張るから)
時計が午前九時を指す。チャイムが鳴り始めた。
「はーい、始めますよー!みんな、席に着いてねー!」
スタスタと小柄な女性が歩いてくる。
先程まで騒いでいた生徒たちは、とたんに静まり、それぞれの席に戻った。樹は彼女を見て、あ、と思わず声を漏らしてしまった。彼女は有名現役アイドルである。
「あたしがこのクラスの担任の牡丹よ!
みんなも知ってると思うけど、この学校は厳しいからね!ビシバシ行くからちゃんと付いてきてね!」
(すごい、本物だ…!)
樹は静かに感動していた。目の前に本物の芸能人がいる。しかもそんな人が自分の担任なのだ。
「じゃあこれから体育館で入学式だからね!
みんな、並んで!」
牡丹の指示に従って樹達はぞろぞろと並んだ。
体育館に入ると、隅の方で大きな暖房が動いている。お陰で暖かい。
体育館に入ると保護者らと在校生が、すでに席に着いていた。これから入学式が始まるのだと樹は再び感動した。
(入学式が終わったらオリエンテーションか。
頑張るぞ!)
樹はぎゅっと拳を握った。
今日から自分は夢に向かってようやく一歩踏み出せるのだ。
「ちょっと待ってー!」
桜が咲き乱れる4月。高山樹は前を走る双子の兄、克樹を追って走り出した。
今日は高校の入学式だ。
新しい制服は、少し大きくてなんだか動きづらいし、初めて履く革靴は固くて、すでに足が痛い。
それでもワクワクするのは、春の陽気のせいだけではない。
今日から始まる新しい学校生活に期待が膨らんでいるからだ。春休みの間、いや、もっと前からずっとこの日を楽しみにしていた。
ザアっと強い暖かい風が吹く。桜の花びらが樹の周りを舞った。
(着いた…)
樹は目の前の光景を見て息を呑んだ。
広い校舎がそびえている。
ここにずっと来たかったのだ。
前に来たときは受験の時で、今のような余裕はとてもなかった。
「いっくん、これから頑張ろうな」
いつの間にか隣にいた克樹に肩を叩かれた。
克樹とは双子のはずなのだが、身長が違いすぎる。そのせいか間違われることは少ない。
樹は克樹を見上げる。
「かっちゃんもね」
「あぁ!早速行こう」
克樹に手を掴まれて引っ張られる。
二人は学校の敷地内に足を踏み入れた。
中に入ると、新入生と見られる生徒が沢山いる。
「いっくんは1Aだって」
背の高い克樹が人だかりの中からクラス分けの表を確認してくれた。
こんな時、自分の身長の低さが嫌になってしまう。
「かっちゃんは?」
「俺は1Bだね。俺も遊びに行くから、いっくんも遊びに来てね!」
「うん!楽しみだなあ」
樹がにこにこしていると、克樹が大きくため息をついた。
「どうしたの?かっちゃん」
「ううん、なんでもないよ。いっくん可愛いから、また虫の駆除が大変だなーって思っただけ」
「ナニソレー。虫?」
「そ、虫。でも無視はできないし」
「?」
結局真意が分からないまま、克樹と別れて、樹は自分のクラスに向かった。
教室は既に騒がしい。
樹は大人しい性格だ。それにはとても加われないと諦める。
そっと静かに教室の中に入り、自分の席を探す。
ようやく見つけて、席に着いた。
(俺、本当にここの生徒になったんだ)
樹は教室を見渡しながら改めて実感していた。
この学校、私立夢プロミス学園(通称:夢プロ)に通うことを目標にしたのは中学生になった時だ。
樹は幼い頃から、なによりアイドルが好きだった。
樹にとってアイドルとは、キラキラして華やかで、自分には持っていないものを持っている人達だ。
そしていつの間にか、自分もなにかアイドルと関われる仕事に就きたいと思うようになっていった。
自分自身がアイドルになるという考えは始めからなかったので、子供ながらに色々考えた。
樹なりに考えた結果、プロデューサーを目指すことを決意したのだ。
作詞や作曲の勉強を始めたのもこの頃だ。
だが、やはり独学では厳しいと感じた。
そこで、どうにか出来ないかと中学校に設置されていたパソコンからインターネットで探した結果、この学校、夢プロが都内にあることを知った。
設立されてまだ10年足らずの学校だが、実績は確かで、樹は絶対にここに通う、とその時に決意したのだ。
克樹も誘ってみたら、案外ノリノリで付いてきてくれた。
夢プロに入るには、まずは書類選考を通過しなければならない。その後に厳しい学科試験も控えている。
その時、中学校ニ年生だった二人は教師の手を借りながら、苦心して書類を作り、無事に審査を通過した。
それからは学科試験の為に、二人で励まし合いながら毎日勉強した。
そのお陰で、中学校生活の思い出のほとんどは勉強で埋まっている。
だが悔いはなかった。
それもいい思い出だったと今の樹なら言える。
両親もそんな二人に協力してくれたのは大きかった。塾や夏期講習の送迎に始まり、毎日のように夜食を作ってもらった。
合格が分かった時、樹は思わず泣いてしまった。
だが、ここからがスタートだと父親に頭を撫でられながら言われた。
(俺、絶対頑張るから)
時計が午前九時を指す。チャイムが鳴り始めた。
「はーい、始めますよー!みんな、席に着いてねー!」
スタスタと小柄な女性が歩いてくる。
先程まで騒いでいた生徒たちは、とたんに静まり、それぞれの席に戻った。樹は彼女を見て、あ、と思わず声を漏らしてしまった。彼女は有名現役アイドルである。
「あたしがこのクラスの担任の牡丹よ!
みんなも知ってると思うけど、この学校は厳しいからね!ビシバシ行くからちゃんと付いてきてね!」
(すごい、本物だ…!)
樹は静かに感動していた。目の前に本物の芸能人がいる。しかもそんな人が自分の担任なのだ。
「じゃあこれから体育館で入学式だからね!
みんな、並んで!」
牡丹の指示に従って樹達はぞろぞろと並んだ。
体育館に入ると、隅の方で大きな暖房が動いている。お陰で暖かい。
体育館に入ると保護者らと在校生が、すでに席に着いていた。これから入学式が始まるのだと樹は再び感動した。
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