ヒメ様が賊にさらわれました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
4 / 85

どたばたデイズ!

しおりを挟む
「ヒメリ兄ちゃん、洗濯物干し終わったよ」

「ありがとう、スバル。朝ご飯の用意が出来てるから先に食べていて?」

ヒメリは今日も一人、パン生地と格闘している。

「うん、分かった」

七人の共同生活が始まって既に一週間が経過している。スバルとオリオの父親はアルコール中毒で病院に入院しており、子供たちの面倒を見るのは困難だと国から判断された。
母親は行方知らずらしい。

ヒメリは一時的にだが、スバルとオリオの保護者になった。本来であれば、実際に子供を育てた経験の有無など、厳しい審査がある。
だが、スバルたちたっての希望もあり、無事審査を通過することが出来たのだった。
ヒメリは町にある役所へバンを走らせ、子供たちが学校に行けるよう手筈を整えた。
彼らに必要なのは彼らを守ってくれる環境である。二人は読み書きすら怪しかったので、年齢より少し下の学年に入れるようにした。
これで安心だ。スバルもオリオも元は優しい子だ。すぐに友達だって出来るだろう。


パンの成形がようやく終わり、ホイロに寝かせる。しばらく経ったら焼きの作業だ。
ヒメリは朝食を食べるため生活スペースに向かった。
オリオとスバルが一心不乱に麺をすすっている。今日は米粉で出来た麺料理らしい。
出汁のいい香りが鼻をくすぐる。最近はこうして賑やかく過ごせるのがとても楽しい。

「お疲れ、ヒメリ。お前の分もすぐ出来る。座ってろ」

キッチンに立っていたのは小人の一人とクロードだった。
彼の今までの経歴を聞いたところ、プロの料理人らしい。ふらり、と外国に出掛けては美味いものをひたすら探す。
もし気に入った料理があれば、それをとことん調べ尽くし、必要があれば、その店に頼み込んで働くのだそうだ。根無し草だとクロードは笑った。もちろん中には治安の悪い国もある。
クロードはそれに対処するため、護身術を学んだとも言っていた。だからあんなに強いのかとヒメリは納得した。

彼がこの店に来た理由、それはやはり美味いパンが食べられると聞いたかららしい。
ヒメリは今日、彼にパンを味見してもらおうと思った。幾多ある料理を食べてきたクロードが満足するかは分からない。少し緊張するが、ヒメリは自分のパンの正確な評価が聞きたかった。

「ヒメリ、出来たぞ」

どん、と器が目の前に置かれる。細切りになっている青野菜の上に焼き目のついた鶏肉がどさっと載っていた。その上にはタレがかかっている。

「いただきます」

ヒメリは箸を手に取った。幼い頃、箸の使い方や食事の作法をみっちり教え込まれた。ヒメリが麺をすするとつるりと口の中を潤してくれる。

「わ、美味い」

「美味いか?」

クロードがヒメリの目の前に座る。ヒメリは頬が熱くなるのを感じた。
この感情にヒメリは戸惑いを隠せない。
クロードのことを自分は特別視している。初めて感じるこの気持ちがなんなのか、ヒメリにはよく分からなかった。

「ヒメリ、お前猫舌か?」

ずっと麺をふぅふぅしていたら心配そうにクロードに尋ねられた。

「あ!えーと、そう…かな」

「今度は熱々にしないようにする」

クロードが決意したように言う。ヒメリはそれに余計顔が熱くなってしまう。
ふと、頭の中に「好きだな」という言葉が思い浮かんだ。
自分はクロードに惚れてしまっているのだ。ヒメリはなんとか麺を啜った。今は考え込んでいる場合ではない。これから大事なパンを焼くのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Nova | 大人気アイドル×男前マネージャー

むぎしま
BL
大人気アイドル・櫻井来夢が恋をしたのは、 ライバル事務所のマネージャー・本郷ルカだった。 強く、知的で、頼れる大人の男。 その背中に憧れ、来夢は彼を追いかける。 ──仕事のできる色男・本郷ルカは、女にモテた。 「かっこいい」「頼りたい」「守ってほしい」 そんな言葉には、もう慣れていた。 けれど本当の心は、 守られたい。愛されたい。 そして、可愛いと思われたい。 その本心に気づいてしまった来夢は、 本郷を口説き、甘やかし、溺愛する。 これは、 愛されることを知った男と、 そのすべてを抱きしめたアイドルの、 とても幸せな恋の話。 独占欲強めな年下アイドル (櫻井 来夢)   × 愛に飢えた有能マネージャー (本郷 ルカ) ーー 完結しました! 来週以降、後日談・番外編を更新予定です。

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...