【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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第二章

53

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『あなたが見ていたのは俺じゃない。リヒトって人だ』

 あの日以来、何度もルークが夢に現れて、僕にそう言い続けた。

 まるで、僕は"理人さん"以外を愛せないとでも言うように………。




 街に着いてアランの荷下ろしを手伝ったあと、王都方面に向かう乗合馬車や経路について教えてもらった。

「変な奴に目ぇ付けられるかもしれないから、道中はできるだけフードを被っとけよ」
「うん、わかった」
「いつでも帰ってこい。…なんなら、俺が嫁にもらってやるから」
「ふふっ、ありがとう。でもアランのお嫁さんは、競争率が高そうだな」

 寂しそうに笑いながら、別れ際に力強く抱きしめてきた。最後の最後まで励ましの言葉をかけてくれたアランに、僕は感謝の気持ちを込めて抱き返した。

「……元気でな」
「うん。…アランも」

 彼の優しさに、僕は何度救われただろう…。
 その腕の温かさに、ほんの少し名残惜しさを感じながら、僕はアランと別れて乗合馬車に乗り込んだ。


 途中、馬車の調整や天候の関係で足止めにもあったが、旅路に大きな問題も起こらず、村を出て10日目に王都に到着した。できるだけ出費を抑えるために、経由する街や村では、利用する宿屋や併設された食堂で給仕の仕事をした。ヘトヘトになる時もあったけど、そのおかげでぐっすり眠れて嫌な夢を見ずに済んだし、多少の仕事経験も得られた。

 そして、村を出て12日、王都に来て2日が経った今、僕は早くも途方に暮れていた。

 王都は王宮を中心に、東西南北の四つの地区に分けて管理されている。各地区には王宮に近い場所から、貴族のタウンハウスのある貴族街、飲食店や装飾品店、工房などがひしめく商業街、平民の居住区である平民街の三区画に分けられている。他国との交流も盛んなようで、乗合馬車で城門前に到着した時には、日の出前にも関わらず、門前には既に長蛇の列ができていた。
 僕がいた村は王都から見て西側に位置していたため、西の城門から王都に入った。でも、王都に入るための都市税が思いのほか高額で、せっかく節約していたのに銀貨7枚も取られた。
 王都に到着するまでに経由した街では、都市税を取られる所もあった。でも、支払うのはせいぜい銅貨2、3枚で、大きな出費ではなかった。王都に入る時にもそれを覚悟していたが、銅貨7、8枚くらいだろうと高を括っていた。
 平民街にある噴水広場のベンチに腰かけて、僕は空をぼんやり眺めながら溜息をついた。

「銀貨7枚もあったら、安宿で5日は泊まれるのに…」

 ひとまず平民街で見つけた宿で部屋を取ると、案内板を頼りに司祭様が書いてくれた紹介状を持って数か所の教会を訪ねてみた。しかし、どこも人手が足りているようで、奉仕はできても住み込みではできないという所ばかりだった。

「どこか、いい働き口ないかなぁ…」

 良心的な値段といっても、このまま宿暮らしを続けると、司祭様や院長に貰ったお金がすぐに底をついてしまう。そうなる前に仕事を見つけて、生活の拠点となる部屋を確保しなければ。
 そんなことを考えていると、隣から何かが落ちるような「ドサッ」という音が聞こえた。音のした方に目をやると、男性がお腹を抱えるようにベンチで蹲っていた。足元にはリンゴやオレンジといった果物が、籠からこぼれ落ちて散乱している。

「あの、大丈夫ですか?」
「はい…。ちょっとお腹が…、痛くて…っ」

 男性は苦しそうに顔をしかめて、痛みに耐えている。見たところ20代後半くらいで、抱え込んでいるお腹は大きく膨らんでいる。

 もしかして………。

「妊娠、されているんですね」
「はい…。でも、予定日まで、まだ1カ月以上は──」

 この国では同性婚も認められているし、魔法具を使えば同性同士でも子を成せると、以前ルークに教えてもらった。でも、村には同性婚をしているカップルはおらず、そのことを聞いても僕はどこか遠い世界の話のようにしか感じなかった。だから今はそんな場合じゃないと分かっていても、目の前に妊夫さんがいることに、僕はほんの少し感動を覚えた。

「大丈夫です…。少し休めば…、きっと治まります…」
「無理しないでくださいね。僕がそばにいますから、何かあれば言ってください」

 僕は妊夫さんの背中に手を添えて、できるだけ彼を落ち着かせるようと声をかけると、彼は安心したような笑みを見せてくれた。そうしてしばらく付き添っていると、妊夫さんはお腹の痛みが落ち着いたようで、徐々に表情を和らげていった。

「ありがとうございます…。だいぶ落ち着いてきました」

 その言葉に、僕はホッと胸を撫で下ろした。

「よかった。ところで、どなたか付き添いの方は?もし一人なら、僕がご自宅までお送りします」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……」

 僕は散らばった荷物を拾い上げ、彼の歩調に合わせながら、噴水広場を後にした。


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