【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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最終章

<閑話> ③

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 庭園に吹く冷たい夜風に心地よさを感じていると、ルークの口づけに濃厚さがさらに増し、僕は足の力が入らなくなった。そんな僕を、ルークは抱き上げてガゼボまで運び、そのまま自分の膝の上に跨るように座らせた。そして、渇望するかのうように一度離れた唇を再び重ね、舌を絡ませてきた。

「っん…ふ…ねぇ、ルーク…。そろそろ……」

 僕はお腹の奥に甘い疼きを覚え始め、自身をこれ以上刺激させないよう唇を離して静かに言った。しかし、距離を取ろうにも今はルークの膝の上で、抱きしめる力も緩まらない。僕はルークの腕の中に、完全に閉じ込められていた。身体を密着させているせいで、お互いに昂ぶっているのが分かる。

「だめ、まだ足りない。もっと…」
「んんっ…」

 ルークは僕の唇を塞ぎながら、僕のお尻に手を回してゆっくり上下に揺すってきた。服越しとはいえ、お互いのモノが擦れ合う感覚に快感が増していく。
 ルークは唇を離したかと思ったら、今度は首筋や鎖骨に口づけし、やがてそれは寝間着を隔てた胸の頂に及んでいった。

「っんぁ…あっ…ルークっ。こらっ…!」
「ん?いくらでもキスしていいんだよね?」

 すっかり不安が紛れたようで、ルークはしれっとした口調で言った。でも、だからといって、今の状況を止めないのはよくない。
 片手が服の中に侵入してきた時、僕はすぅっと息を吸って意識を集中し、そっと囁くように<言霊>を発動させた。

「〝ルーク、だめ。〟」

 僕の言葉を聞くとルークはピタリと手を止め、唇を胸元からゆっくり離した。スキルの効果は出たようだが、僕を見つめてくる瞳が潤んでいるように見えて、少し罪悪感を感じてしまう。

「…っ、明日の朝には出発だから、もう休まないと。それに、ルークも疲れた顔してる」

 頭を撫でながら、子どもに言い聞かせるような言い方をしてしまったが、気を悪くしただろうか。しかし、近くで見るルークの顔は本当に疲れているみたいで、暗がりのせいかもしれないが目の下にクマができているようにも見えた。せっかくの綺麗な顔が台無しだ。

「最近、ゆっくり休めていなかったんじゃない?早く、帰った方が…」
「ユイがそばにいないのに、ゆっくり休めるはずない」

 それは…、嬉しいような、申し訳ないような……。

 寂しそうに言うルークに何と返したらいいのか分らず、僕は思わず彼を胸の中に抱き込んだ。すると、ルークも甘えるように胸に擦り寄ってきた。そういう姿を見ると、ルークが年下だということを実感する。

「それに大司教から、ユイのそばにいてほしいって言われた」
「そう…なんだ?」
「うん。だから、今夜はユイと一緒にいる」

 一晩一緒にいたら、明日の朝別れるのが辛くなりそうだ。ルークがこんなふうに甘えてくることも滅多にないから、余計にそう思ってしまう。
 でも、一番心配なのは──。

「──何もしない?」
「何もって、なに?」
「だから…その……」

 ルークはキョトンとした顔で首を傾げているが、僕が何を言いたいのか分っているのは明らかだ。それでも言わせようとするなんて、意地が悪い。

「え……えっ…ち…な、こと…とか?」

 ルークの思惑が分っているのに、それでもバカ正直に言っている自分が恥ずかしくなった。でも、言葉で伝えることがいかに大事か思い知ったばかりだ。『えっち』という言葉が通じるのかも疑問だけど。何より、大事の前にをするのも不謹慎な気がする。
 ルークから背けた視線をちらりと向けると、俯いて必死に笑いをかみ殺すように肩を震わせていた。

 …これは、絶対にバカにしてるよね。

「…別々の部屋で寝る」
「いやだ、ごめんなさい。何もしないから一緒がいい」

 僕の言葉を聞いたルークは、すかさず胸に縋りついてきた。今のやり取りは、傍からはイチャイチャしているように見えるんだろうなと思う。
 結局僕の方が先に折れて、この日の夜は共寝することにした。ついさっきまであんな濃厚なキスをしていたから、同じベッドに入って我慢できるのか不安だ。特にルークには、これまで相当我慢させてきた自覚があるし…。
 
ルークと一緒に部屋に戻ると、そこには一着の寝間着が準備されていた。僕が入浴を済ませていることは、メアリさんが知っているはずだ。ということは、これは……。

「今夜は、俺もここで寝るって思われてるようだね」
「……そうみたい」

 僕の意思は度外視されているようだが、お世話になっている身だから、文句を言うわけにもいかない。

「ルーク。お風呂に入っておいでよ」

 メアリさんは僕がいつでも入浴できるように、使用後もすぐに清掃して、新しいお湯を浴槽に張ってくれている。客人用の寝間着を用意してくれていたということは、お風呂の準備も万端だろう。

「ユイも一緒に入ろう?長時間外にいて、身体が冷えてるよ」
「僕は大丈──っくしゅっ」

 思わずくしゃみが出て、ぶるっと身震いした。僕の様子を見たルークは、「ほら見ろ」と言わんばかりの表情をしている。

「明日出発なのに、風邪ひいたら大変だよ?」
「メアリさんに、温かいお茶をお願いする。それに……」

 次の言葉を言うべきか、一瞬悩んだ。しかし、明日からまた離れ離れになることを思うと、言えることは言っておきたい。

「……一緒にお風呂に入ったら、僕がガマン…できなくなっちゃう…から」

 本心を言えば、僕だってルークと…したい。でもそれは、<最後の救済>に願いを叶えてもらい、自分の想いをもう一度ちゃんと伝えてからだ。口にするのは恥ずかしいけど、ルークにも僕にがあることを知っておいてほしかった。

「──わかった。眠くなったら、気にせず先に寝てて」

 ルークはそれ以上食い下がらず、僕の額に軽くキスをしたら浴室に入っていった。額をさすりながらそれを見届けると、僕はベルを鳴らし、メアリさんにお茶をお願いした。彼女が準備してくれたのはカモミールティーで、リンゴのような甘い香りとまろやかな味は、二日酔いの僕にルーシー院長が淹れてくれた時のことを思い出させた。

 そういえば、告白されたのもその時だったな。ルークを探して森に入って、<秘密基地>に連れて行ってもらって、それから──。

 その後に起こったことを思い出して、顔に熱が集まった。お茶を少しずつ飲みながら気持ちを落ち着かせていると、ルークが入浴を終えて浴室から出てきた。

「いい香りだね」
「うん。ルークも飲む?」
「いただこうかな」

 カップにお茶を注ぐと再び爽やかな香りが周囲に立ち込め、気持ちが落ち着いていくのが分かった。同じタイミングでお茶を飲み終えると、ルークは僕の手を取りベッドへといざなった。

 西方辺境伯領に行く前に、ルークと会えて良かった。

 ルークは腕の中に閉じ込るように僕を抱きしめ、足を絡めてきた。彼の温かさに、明日への不安が薄れていくようだ。
 ルークから香るお茶の香りが眠気を誘い、だんだん瞼が重くなっていく。

「おやすみ、ユイ」

「おやすみ、ルーク…。…帰ってきたら、いっぱい……シようね」


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