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第一章
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しおりを挟む「熱が引いてよかったわ。やっぱりルークの薬はよく効くわね」
部屋に訪れた60代くらいに見える女性が、僕の額に手を当てて安心したように微笑んだ。本当に僕のこと心配してくれていたようだ。その傍らに同じくらいの年に見える男性が立っている。丈の長い黒い服を着ているから、おそらくこの人が司祭なのだろう。
「お腹すいてない?待ってて。すぐに身体に優しい食事をもってくるから」
僕が返事をするのを待たずに、女性は足早に部屋を出て行った。司祭と二人っきりになって、ちょっと気まずくなる。そんな空気を感じ取ったのか、司祭は椅子に腰かけて話し始めた。
「私はシグルド。この教会の司祭を務めている。さっきの女性は私の妻のルーシーだ。君の名前を教えてくれるかな?」
ルーシーさんと同じく、僕を安心させるように優しくシグルドさんが尋ねてきた。
「えっと……結、といいます」
「ユイか……。ここにはどうやって来たのか、覚えているかい?」
「……いいえ」
僕は確かに橋の上から身を投げたはずだ。あんな急流に落ちて、生きていたなんて考えられない。なのに、なんで僕は──?
「君は森で倒れていたところを、ルークに背負われてここに運ばれてきた。しかもここ数日雨も降っていないのに、全身ずぶ濡れ状態で」
「森で…、ずぶ濡れ……ですか?」
「ああ。熱も出ていてね。勝手ながら服を着替えさせて薬を飲ませた」
「……何から何まで、ありがとうございます」
「気にすることはない。誰にでも等しく手を差し伸べるのが、教会の役目でもあるからね」
そう言ってシグルドさんは、目尻に皺をつくって優しく微笑んだ。
「それで、君はどうして森にいたんだい?」
「…分かりません……」
下手に嘘をついても見透かされる。シグルドさんの僕を真っ直ぐ見据える目を見て、そんな気がした。
「どうして森にいたのか、どうやってここまで来たのかも……」
「──ふむ、なるほど。では、自分の家や家族のことは?」
「家のこともよく分かりません。でも両親は、もう……」
「そうか………。すまない、不躾な質問だったね」
「いえ、……大丈夫です」
両親のことは、伯母夫婦や理人さんのおかげで受け入れられた。それでも、気持ちが沈まずにはいられなかった。シグルドさんから目を逸らして俯いていると、ノックが響いてドアが開いた。
「お話し中すみません、司祭様。院長に頼まれて彼の食事を持ってきたのですが……」
入ってきたのは、目覚めたときに傍にいた銀髪の少年だった。彼が持ってきた食事からいい香りが漂ってきて、自分が空腹だったことに気づく。
「あぁ、ありがとう。そうだユイ、紹介しよう。彼が君をここまで運んでくれたルークだ。まだ15歳だが、なかなか聡明な子でね。君のお世話をすると申し出てくれた」
3つも年下だったんだ。てっきり同じくらいかと……。
シグルドさんに紹介されると、ルークは僕に視線を移してふわりと笑った。
「──よろしく、ユイ」
「あっ、うん……。こちらこそ、よろしく」
彼が去り際に発した言葉を思い出して、また顔が熱くなった。
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