【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

文字の大きさ
31 / 128
第一章

29 -ルークside- ⑧

しおりを挟む


<秘密基地>の外観を見たときのユイは、面白いくらい表情が固まっていた。無理もない。木々に囲まれた薄暗い場所にあって、壁一面が蔦だらけの建物は、見るからに不気味だ。だが、俺が手を引くと、ユイは素直についてきてくれた。

中に入って工房を目にした途端、ユイの瞳が輝いた。魔法薬や魔法具を作る器具が並び、時間を気にせず作業できるように魔石が放つ光を照明にした空間は、異世界から来た人には幻想的に見えるかもしれない。
工房を一しきり見せたあと、奥の居住スペースに案内した。暖炉に火は付けていなかったが、十分な暖かさのある部屋だ。服を乾かす時間はそんなにかからないから、一時的にブランケットを羽織るだけになっても問題ないだろう。

「脱いで」

そのつもりで言った言葉だったが、またしても俺の発言はユイの表情を固まらせた。急いで釈明してタオルを渡すと、ユイは納得して服を脱ぎ始めた。
その間に、温かい飲み物を準備して気を紛らわせる。ユイが服を脱ぐところに居合わせるのは初めてじゃないのに、あの時とは比べ物にならないくらい動悸がした。


お茶を淹れてそっと振り返ると、服を脱ぎ終えたユイはブランケットにくるまって、ソファに座っていた。椅子に掛けられた服を魔法で手早く乾かし、テーブルの上に置くと、ユイの隣に座りながらカップを渡した。

「どうぞ。温まるよ」
「ありがとう」

膝を抱えて座っているユイを見て抱きしめたくなったが、寸前でその欲求を抑え込んだ。そして、なぜあの泉にいたのか聞くと、俺を探していたところを偶然見つけたとのことだった。

「……昨日のこと、謝りたくて。感情的になって…あんなこと言って、本当にごめん……」

顔を伏せていて表情はよく見えなかったが、悔いている気持ちは伝わってきた。


……俺も、自分の気持ちを伝えないと。


「………ユイが俺を通して別の誰かを見ているのは、前から分かってた。けど拒絶されるのが恐くて、結局、言葉では何も伝えられなかった……」



このまま何も言わないうちに、ユイが別のヤツものになったら………?



「でも……だからって、ユイが他のヤツの方を見るのは、もっと嫌だ」



そんなの…、冗談じゃない。



「……ユイ。俺自身を見なくてもいい……。けど、俺だけを見ていて」





もし、ユイが俺じゃなく、別のヤツを選んだら。その時は───





「それでも、俺じゃダメなら………、どうか、………拒んで?」








───俺の手で、めちゃくちゃにしてやる……。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥
BL
異世界に転生する直前、天貴(てんき)が選べた“持ち物”は三つ── だが、彼はひとつしか持たなかった。 残されたのは部屋と、布団と、そして──忠犬。 「クータンを頼む」。それが、最後の言葉だった。 ぽつんと現代に残された玄太は、天貴の部屋で布団にくるまりながら泣いていた。 でも、捨てられたわけじゃなかった。 天貴が“本当に”持っていきたかったのは、玄太だったのだ。 その事実を知った瞬間、忠犬は立ち上がる。 天貴の武器を手に、異世界転送の手はずを整え、 天貴が今どんな敵と向き合い、何に苦しんでいるのかを知った玄太は、叫ぶ。 ──忘れ物はおれ!…届けに行くっすから! これは、異世界に送られた大好きな先輩を追って、 “忠犬男子”が次元を越えて追いかける、少しおかしくてちょっと泣ける物語。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿
BL
夢を追い求める三男坊×無気力なひとりっ子 孤独な幼少期を過ごしていたルイ。虫や花だけが友だちで、同年代とは縁がない。王国の一人っ子として立派になろうと努力を続けた、そんな彼が隣国への「嫁入り」を言いつけられる。理不尽な運命を受けたせいで胸にぽっかりと穴を空けたまま、失意のうちに18歳で故郷を離れることになる。 行き着いた隣国で待っていたのは、まさかの10歳の夫となる王子だった、、、、 8歳差。※性描写は成長してから(およそ35、36話目から)となります

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

処理中です...