異世界で王城生活~陛下の隣で~

文字の大きさ
52 / 57

42魔石の不安

しおりを挟む
 キャンちゃんで二人の時間を過ごしたシリウスは心身ともにリフレッシュが出来たようで王としての仕事をいつもよりスムーズにこなしていた。

「やっぱりユリカ殿効果は大きいですな」

「ええ、たっぷりとユリカ嬢を補充したようですからね」

 部屋の片隅で宰相であるドミニクとキャステルがひそひそと小声で話している。

「聞こえておる」
 シリウスは書類から目を話すことなく言葉を放つと二人は顔を見合わせ肩を竦める。

「何とでも言え。それよりこの案件だが……」

 「「はい」」と仕事モードに入った二人はシリウスが提示した書類を覗き込み、

「ああ、ユリカ殿のですね。平民の為の教育施設は少しずつ進行しておりますが、託児所というものに関してはまだ手が付けられずにおります」

「託児所か」

「何でも井戸端会議で、もうじき出産でやめる下女が、子供を産んだ後もまた城の仕事に就きたいが両親もいないために、赤子を見てくれるものがいないと嘆いていたというのを耳にしてのことらしいのですが」
 ドミニクの言葉にキャステルが頷きながら補足していく。

「ユリカ殿の案ではまず城内に作ってみてはどうかというものでしたね」

「ええ、下働きの下女たちが出産後も安心して働けるようにしてはどうかというものでしたが、流石に城内に子供を入れるのはと議会で反対されまして」

「城外、あー、民たちはどのようにしているのだ?」

「庶民はやはり共稼ぎが多いですな。両親がいる家は問題がありませんが、近所の知り合いに預けたりとかしているようです」

「出産で稼ぎ手が一人減るのに家族は一人増える訳ですから亭主の稼ぎだけでは生活もままならない家庭もありますわな」

「うむ。難しいものだな。もう少し検討してみよう」




「託児所の件、検討してくれているんだ」

「はい」

 友梨香は部屋に訪れたキャステルから報告を聞き嬉しそうにうに笑顔を向けた。

「でも城内には難しいのね。なら街中に作っては?孤児院とかもあるのよね、そこの一部を間借りするとか。あっ、でも子供を見てくれる人材も必要か」

「そうですね。孤児院の職員だけでは手が回りません」

「だったら子育て経験者を雇用してはどう?ベビーシッターの経験がある人もいるだろうし、まだまだ身体を動かせるおばあちゃんなんかも良いかもよ」

「なるほど」

「私のいた世界では保母さん、保育士という職業があって国の試験に合格した人達がその仕事を担っていたの」

「国が認めたですか」

「うん。だって人様の子供預かるのよ。知識のない者に任せられないでしょう?」

「確かにそうですね」

「託児所や保育園を作る前にまずその人材を育てるのが先ね。先生、手本となる人かぁー」

「でしたら貴族の家で乳母を経験した者とかどうでしょう?私の乳母も今は孫も大きくなり暇を持て余して、せいぜい教会にボランティアに行く事ぐらいしかないと言っていましたよ」
 メアリーアンがお茶を入れ替えながら遠慮がちに声を掛けて来た。

「なるほどーそれ、いいかも」

「そうですね、そういった方にお願いしてみるのも良いかもしれません」

「アン、その乳母さんに声掛けをして見てくれるかな?」

「はい、早々に」

「うん、よろしくね」

 このような感じでいつの間にか行政にも携わっていく友梨香であった。




 そして年が明けて新年の祝賀会が行われた。
 今年は国王であるシリウスと婚約者である友梨香との婚儀が秋に行われるとあって国中がいつにも増して喜びに満ちた年明けとなった。
 着飾った貴族たちが次々に国王陛下へと挨拶に参じる。
 国王シリウスの隣には当然友梨香の姿があった。
 異世界から来たという友梨香はこの国の女性の平均身長より低く小柄で、今年22歳になると聞けば誰しもが驚いた。
 しかし、顔は幼く見えるが女性らしいメリハリのあるからだと黒い瞳が何とも言えない色香を醸し出していた。
 あいさつのための長い行列がやっと引け、小さくため息をつく。
 マクベス女官長が見ていたら後で叱られる所作である。

「疲れたであろう」

 そんな友梨香の様子を見てシリウスが労いの声を掛けて来た。

「うん、あっ!……ええ、大丈夫です」

「ふっ、無理に言葉を変えなくて良いぞ」

「そういう訳には……」

「ユリカはそのままで良い。あまり気を遣うな」

「ですが」

「そういえば、先ほどから少し元気がないようだが何か気を病むことがあったのか?」

「……っ。実はジュノから貰ってある髪の色を変えて見せる魔石の力が弱くなったみたいで」

「なに、それは本当か?」

「ええ、それでどのくらい保ってくれるのかが不安でして」

 ジュノアールがくれた魔石の効力が急激に薄れてきたのが分かったのは数日前だった。新しいのをお願いしようにも当のジュノアールは年末からローザリー王女の国であるオルビス王国に招待されていて不在であった。
 友梨香の髪は日本人であるので黒髪であるがこちらの世界に来る前にヘアカラーをしてミルクティー色に染めていた。当然伸びてくれば黒くプリン状態になって来るのだが、その伸びた部分を染めていた色に見えるように魔石の力を使っていたのだった。
 こちらへ来てもう10センチは伸びている。いきなり魔法が解けたと思うと気が気ではなかったのだ。

「そうか、我々はこの後一曲踊ればこの場を去ることが出来る。もう暫くの辛抱だが」

「はい、その位は何とか大丈夫だとは思います」

 はっきりとは言い切れないが大丈夫だと思いたい。

 そしてようやくダンスの曲が流れて来た。



***************
誤字脱字修正いたしました。7/23
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

処理中です...