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42魔石の不安
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キャンちゃんで二人の時間を過ごしたシリウスは心身ともにリフレッシュが出来たようで王としての仕事をいつもよりスムーズにこなしていた。
「やっぱりユリカ殿効果は大きいですな」
「ええ、たっぷりとユリカ嬢を補充したようですからね」
部屋の片隅で宰相であるドミニクとキャステルがひそひそと小声で話している。
「聞こえておる」
シリウスは書類から目を話すことなく言葉を放つと二人は顔を見合わせ肩を竦める。
「何とでも言え。それよりこの案件だが……」
「「はい」」と仕事モードに入った二人はシリウスが提示した書類を覗き込み、
「ああ、ユリカ殿のですね。平民の為の教育施設は少しずつ進行しておりますが、託児所というものに関してはまだ手が付けられずにおります」
「託児所か」
「何でも井戸端会議で、もうじき出産でやめる下女が、子供を産んだ後もまた城の仕事に就きたいが両親もいないために、赤子を見てくれるものがいないと嘆いていたというのを耳にしてのことらしいのですが」
ドミニクの言葉にキャステルが頷きながら補足していく。
「ユリカ殿の案ではまず城内に作ってみてはどうかというものでしたね」
「ええ、下働きの下女たちが出産後も安心して働けるようにしてはどうかというものでしたが、流石に城内に子供を入れるのはと議会で反対されまして」
「城外、あー、民たちはどのようにしているのだ?」
「庶民はやはり共稼ぎが多いですな。両親がいる家は問題がありませんが、近所の知り合いに預けたりとかしているようです」
「出産で稼ぎ手が一人減るのに家族は一人増える訳ですから亭主の稼ぎだけでは生活もままならない家庭もありますわな」
「うむ。難しいものだな。もう少し検討してみよう」
◆
「託児所の件、検討してくれているんだ」
「はい」
友梨香は部屋に訪れたキャステルから報告を聞き嬉しそうにうに笑顔を向けた。
「でも城内には難しいのね。なら街中に作っては?孤児院とかもあるのよね、そこの一部を間借りするとか。あっ、でも子供を見てくれる人材も必要か」
「そうですね。孤児院の職員だけでは手が回りません」
「だったら子育て経験者を雇用してはどう?ベビーシッターの経験がある人もいるだろうし、まだまだ身体を動かせるおばあちゃんなんかも良いかもよ」
「なるほど」
「私のいた世界では保母さん、保育士という職業があって国の試験に合格した人達がその仕事を担っていたの」
「国が認めたですか」
「うん。だって人様の子供預かるのよ。知識のない者に任せられないでしょう?」
「確かにそうですね」
「託児所や保育園を作る前にまずその人材を育てるのが先ね。先生、手本となる人かぁー」
「でしたら貴族の家で乳母を経験した者とかどうでしょう?私の乳母も今は孫も大きくなり暇を持て余して、せいぜい教会にボランティアに行く事ぐらいしかないと言っていましたよ」
メアリーアンがお茶を入れ替えながら遠慮がちに声を掛けて来た。
「なるほどーそれ、いいかも」
「そうですね、そういった方にお願いしてみるのも良いかもしれません」
「アン、その乳母さんに声掛けをして見てくれるかな?」
「はい、早々に」
「うん、よろしくね」
このような感じでいつの間にか行政にも携わっていく友梨香であった。
◆
そして年が明けて新年の祝賀会が行われた。
今年は国王であるシリウスと婚約者である友梨香との婚儀が秋に行われるとあって国中がいつにも増して喜びに満ちた年明けとなった。
着飾った貴族たちが次々に国王陛下へと挨拶に参じる。
国王シリウスの隣には当然友梨香の姿があった。
異世界から来たという友梨香はこの国の女性の平均身長より低く小柄で、今年22歳になると聞けば誰しもが驚いた。
しかし、顔は幼く見えるが女性らしいメリハリのあるからだと黒い瞳が何とも言えない色香を醸し出していた。
あいさつのための長い行列がやっと引け、小さくため息をつく。
マクベス女官長が見ていたら後で叱られる所作である。
「疲れたであろう」
そんな友梨香の様子を見てシリウスが労いの声を掛けて来た。
「うん、あっ!……ええ、大丈夫です」
「ふっ、無理に言葉を変えなくて良いぞ」
「そういう訳には……」
「ユリカはそのままで良い。あまり気を遣うな」
「ですが」
「そういえば、先ほどから少し元気がないようだが何か気を病むことがあったのか?」
「……っ。実はジュノから貰ってある髪の色を変えて見せる魔石の力が弱くなったみたいで」
「なに、それは本当か?」
「ええ、それでどのくらい保ってくれるのかが不安でして」
ジュノアールがくれた魔石の効力が急激に薄れてきたのが分かったのは数日前だった。新しいのをお願いしようにも当のジュノアールは年末からローザリー王女の国であるオルビス王国に招待されていて不在であった。
友梨香の髪は日本人であるので黒髪であるがこちらの世界に来る前にヘアカラーをしてミルクティー色に染めていた。当然伸びてくれば黒くプリン状態になって来るのだが、その伸びた部分を染めていた色に見えるように魔石の力を使っていたのだった。
こちらへ来てもう10センチは伸びている。いきなり魔法が解けたと思うと気が気ではなかったのだ。
「そうか、我々はこの後一曲踊ればこの場を去ることが出来る。もう暫くの辛抱だが」
「はい、その位は何とか大丈夫だとは思います」
はっきりとは言い切れないが大丈夫だと思いたい。
そしてようやくダンスの曲が流れて来た。
***************
誤字脱字修正いたしました。7/23
「やっぱりユリカ殿効果は大きいですな」
「ええ、たっぷりとユリカ嬢を補充したようですからね」
部屋の片隅で宰相であるドミニクとキャステルがひそひそと小声で話している。
「聞こえておる」
シリウスは書類から目を話すことなく言葉を放つと二人は顔を見合わせ肩を竦める。
「何とでも言え。それよりこの案件だが……」
「「はい」」と仕事モードに入った二人はシリウスが提示した書類を覗き込み、
「ああ、ユリカ殿のですね。平民の為の教育施設は少しずつ進行しておりますが、託児所というものに関してはまだ手が付けられずにおります」
「託児所か」
「何でも井戸端会議で、もうじき出産でやめる下女が、子供を産んだ後もまた城の仕事に就きたいが両親もいないために、赤子を見てくれるものがいないと嘆いていたというのを耳にしてのことらしいのですが」
ドミニクの言葉にキャステルが頷きながら補足していく。
「ユリカ殿の案ではまず城内に作ってみてはどうかというものでしたね」
「ええ、下働きの下女たちが出産後も安心して働けるようにしてはどうかというものでしたが、流石に城内に子供を入れるのはと議会で反対されまして」
「城外、あー、民たちはどのようにしているのだ?」
「庶民はやはり共稼ぎが多いですな。両親がいる家は問題がありませんが、近所の知り合いに預けたりとかしているようです」
「出産で稼ぎ手が一人減るのに家族は一人増える訳ですから亭主の稼ぎだけでは生活もままならない家庭もありますわな」
「うむ。難しいものだな。もう少し検討してみよう」
◆
「託児所の件、検討してくれているんだ」
「はい」
友梨香は部屋に訪れたキャステルから報告を聞き嬉しそうにうに笑顔を向けた。
「でも城内には難しいのね。なら街中に作っては?孤児院とかもあるのよね、そこの一部を間借りするとか。あっ、でも子供を見てくれる人材も必要か」
「そうですね。孤児院の職員だけでは手が回りません」
「だったら子育て経験者を雇用してはどう?ベビーシッターの経験がある人もいるだろうし、まだまだ身体を動かせるおばあちゃんなんかも良いかもよ」
「なるほど」
「私のいた世界では保母さん、保育士という職業があって国の試験に合格した人達がその仕事を担っていたの」
「国が認めたですか」
「うん。だって人様の子供預かるのよ。知識のない者に任せられないでしょう?」
「確かにそうですね」
「託児所や保育園を作る前にまずその人材を育てるのが先ね。先生、手本となる人かぁー」
「でしたら貴族の家で乳母を経験した者とかどうでしょう?私の乳母も今は孫も大きくなり暇を持て余して、せいぜい教会にボランティアに行く事ぐらいしかないと言っていましたよ」
メアリーアンがお茶を入れ替えながら遠慮がちに声を掛けて来た。
「なるほどーそれ、いいかも」
「そうですね、そういった方にお願いしてみるのも良いかもしれません」
「アン、その乳母さんに声掛けをして見てくれるかな?」
「はい、早々に」
「うん、よろしくね」
このような感じでいつの間にか行政にも携わっていく友梨香であった。
◆
そして年が明けて新年の祝賀会が行われた。
今年は国王であるシリウスと婚約者である友梨香との婚儀が秋に行われるとあって国中がいつにも増して喜びに満ちた年明けとなった。
着飾った貴族たちが次々に国王陛下へと挨拶に参じる。
国王シリウスの隣には当然友梨香の姿があった。
異世界から来たという友梨香はこの国の女性の平均身長より低く小柄で、今年22歳になると聞けば誰しもが驚いた。
しかし、顔は幼く見えるが女性らしいメリハリのあるからだと黒い瞳が何とも言えない色香を醸し出していた。
あいさつのための長い行列がやっと引け、小さくため息をつく。
マクベス女官長が見ていたら後で叱られる所作である。
「疲れたであろう」
そんな友梨香の様子を見てシリウスが労いの声を掛けて来た。
「うん、あっ!……ええ、大丈夫です」
「ふっ、無理に言葉を変えなくて良いぞ」
「そういう訳には……」
「ユリカはそのままで良い。あまり気を遣うな」
「ですが」
「そういえば、先ほどから少し元気がないようだが何か気を病むことがあったのか?」
「……っ。実はジュノから貰ってある髪の色を変えて見せる魔石の力が弱くなったみたいで」
「なに、それは本当か?」
「ええ、それでどのくらい保ってくれるのかが不安でして」
ジュノアールがくれた魔石の効力が急激に薄れてきたのが分かったのは数日前だった。新しいのをお願いしようにも当のジュノアールは年末からローザリー王女の国であるオルビス王国に招待されていて不在であった。
友梨香の髪は日本人であるので黒髪であるがこちらの世界に来る前にヘアカラーをしてミルクティー色に染めていた。当然伸びてくれば黒くプリン状態になって来るのだが、その伸びた部分を染めていた色に見えるように魔石の力を使っていたのだった。
こちらへ来てもう10センチは伸びている。いきなり魔法が解けたと思うと気が気ではなかったのだ。
「そうか、我々はこの後一曲踊ればこの場を去ることが出来る。もう暫くの辛抱だが」
「はい、その位は何とか大丈夫だとは思います」
はっきりとは言い切れないが大丈夫だと思いたい。
そしてようやくダンスの曲が流れて来た。
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