異世界で王城生活~陛下の隣で~

文字の大きさ
54 / 57

44聖女じゃありませんから!②

しおりを挟む
                                                                  
 なにも事情を知らないドミニクに後始末を押し付けたシリウスは、マントに包んだ友梨香を抱いたまま彼女の私室に向かっていた。
 その姿に廊下ですれ違う者たちが何事かと驚き、道を開け頭を下げるも、シリウスの無言の圧に押され声を掛ける事も出来ず、彼が通り過ぎた後を呆然として見送っていた。

「見られたよね……」

 おくるみのような状態の中からぼそり友梨香が呟く様に言う。

「ああ、注目を浴びている最中の出来事だったからあの場にいた者は全員が見たな」
「あー、恥ずかしい。こんなツートンカラーを見られちゃうなんて」

「……ユリカ?」

「あんな長々とキスなんてしてないで、戻って来てれば。陛下のせいよ!」
 マントから顔を出し涙目で訴えてくる友梨香を見てシリウスは「えっ?」と口を半開きのまま足を止めた。

「ユリカが嘆いているのは聖女と言われた事ではないのか?」

 黒髪が見られたことにより聖女ではないかという声が上がった事よりもツートンの髪を見られたことに友梨香がショックを受けているのだと知り、シリウスは一瞬呆けてしまう。

「当たり前よ。元々聖女じゃないんだもん。そんなことどうでもいいわ!」
 腕の中でプイっと頬を膨らませ眉を顰める友梨香を見てシリウスは声をあげて笑う。

「あはは、そうなのか。お前は本当に……ククッ」

「何が可笑しいのよ!あー、もうどうでもいいから早く部屋に連れ行って」

「ククッ、分かっておる」


 まだ祝賀会が始まったばかりだというのに突然戻って来たシリウスに、部屋の中にいた侍女ズは腰を抜かさんばかりに驚いた。
 しかもシリウスの腕の中にマントに包まれた友梨香と思われる存在が。

「ユリカさまどうかされたのですか!」
「まさか倒れられたのですか!」

 メアリーアンとクローディアの姉妹が駆け寄って来る。

「大丈夫だ」
「で、でも陛下」
 心配そうにマントの中を覗き込むメアリーアンを無視してシリウスは部屋の中を進み友梨香をソファに下ろした。
 はらりとマントが落ち涙目の友梨香の姿が露わになると、侍女ズはその容姿に思わず息を呑んだ。

「魔法が解けちゃった……ぐすっ」
「あー、何て事に」
「持たなかったんですね……」

 背中を摩るメアリーアンとハンカチを差し出すクローディア。
 鼻を啜りながらコクコクと頷く友梨香。

「お前たちは知っていたのか?」
「はい、ここ数日魔石の魔力の持ちが悪いと言っておられましたので。でもそれが今日に当たるなんて」
 シリウスに聞かれメアリーアンが答える。
「もしや会場に来ていた皆さまの前で?」
「ああ、ユリカから事前に聞いて一曲終えた時点で下がるつもりでいたのが、ダンスが終わった直後に魔力が切れたのだ」
「それは……何とも」

「あー、もう恥かしくて死んじゃう!」

「ユリカさまぁ―」

 ソファの上で蹲る友梨香にクローディアが抱き付き一緒に泣き始めてしまったのを見て、シリウスとメアリーアンが溜息を吐く。

「で、皆様の反応はどうだったのですか?」
「うむ、やはり黒髪を見て聖女ではないかとの声があがった」
「そうでございますよね。それだけ大勢の方に見られてしまってはもう隠すのは無理かと」
「だな」

 すすり泣く二人をよそにシリウスとメアリーアン、そして後から駆けつけて来たキャステルは今後の方針を話し始めるのだった。

 結局ジュノアールが隣国から帰国するまで どうすることもできない。
 後日友梨香が黒髪であることは正式に発表せざるを終えないという事になり、それについては宰相とも詳細を話し合わなければならない。

 友梨香の方はジュノワールが戻って来るまでの五日間をキャンちゃんに引き籠ることになった。

「良かった、五日間キャンちゃんにいて良いのね」
 周りの目が気にならない場所で過ごせることに安堵する友梨香であるが、シリウスはというとその間綿密に打ち合わせをしなくてはならなくなる。またしても友梨香との時間が取れなくなると思うと面白くない。

「ジュノのやつ、魔石の効果について把握していたであろうに。帰国したらとっちめてやる!」
 と、怒りを露わにした途端室内の温度が下がり従者たちは身震いをした。

「陛下、後の事は宰相ドミニク様に任せられたのであれば取敢えずお茶にいたしましょう」

 メアリーアンが空気を読んで機転を利かせお茶の用意を始めると、やっと部屋の温度が戻り皆一様にほっと胸を撫で下したのだった。


 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

処理中です...