M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106

文字の大きさ
3 / 3
第3章

自覚

しおりを挟む
 彼女の拳が止んだのは、しばらく経ってからだった。
 ぼくは地面に仰向けになったまま、荒く呼吸を繰り返していた。

 彼女はぼくの胸倉を掴み、起き上がらせて、顔をぐっと近づける。

 「……お前、○○高校のおぼっちゃんだろ? いつでも潰せるんだよ、お前なんか」

 その言葉と同時に、膝が鋭くぼくの下腹部を打ち抜いた。

 「っ……ぐ、あああっ!!」

 これは、さすがに耐えられなかった。
 全身に激痛が走り、声にならない声を上げながら、ぼくはその場に崩れ落ちた。
 呼吸もままならず、両手で股間をかばうようにうずくまる。

 だが彼女は、それすらも容赦しなかった。

 「フッ……ダッサ。情けな」

 踵で背中を踏みつけられ、地面に這いつくばる。
 そして、彼女の声が静かに響いた。

 「許してほしかったら、土下座しろよ」

 ぼくは、無言で頭を下げた。
 屈辱や悔しさというより、それが自然な流れのように思えた。

 彼女はぼくの後頭部を、靴の底で押さえつけながら言った。

 「女にのされて、情けねぇよなぁ、黙っててほしけりゃ、金出しな」

 ぼくはすごすごと、財布を差し出した。
 彼女は中を覗いてから、数枚の紙幣を無言で抜き取る。

 「お前、マジで情けねぇ……、それでも男かよ!」

 そして、踵を返すようにして、公園をあとにした。

 ぼくは、痛みの残る体を起こすこともできず、ベンチに座ったまま夜の空を見上げていた。

 情けない。
 男として、最低だ。
 そう思うのと裏腹に、心のどこかで、確かな「充足感」があった。

 見下され、支配され、無力を思い知らされたことに、
 恥ずかしさとともに、なぜか言い知れぬ爽快感を感じていたのだ。

 あの夜が、ぼくにとっての「始まり」だった。

 痛みと快感、恐怖と安堵、屈辱と悦び。
 すべてが混じり合った、あの一夜。

 それが、ぼくが“M”としての自覚を深めた、鮮烈な記憶だった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

筆下ろし

wawabubu
青春
私は京町家(きょうまちや)で書道塾の師範をしております。小学生から高校生までの塾生がいますが、たいてい男の子は大学受験を控えて塾を辞めていきます。そんなとき、男の子には私から、記念の作品を仕上げることと、筆下ろしの儀式をしてあげて、思い出を作って差し上げるのよ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...