皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

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二部 使えるモノは何でも使いますが……何か?

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 カレンはマルファンの背を追いかけながら、窮屈さと鬱憤ばかりが溜まっていく日々の中で、久しぶりに覚えたワクワク感に戸惑っていた。

 この世界に無理矢理召喚されて、カレンはリュリュ以外から一人の人間として扱われることはなかった。聖皇后となった今では、カレンという存在はないに等しい。

 皆、カレンを通り越して、自分たちにとって都合の良いを見ている。

 その証拠に、これまで訪問した施設の子供たちは、カレンにどこか媚を含んだ表情を浮かべていた。まかり間違っても、ただの10代女性に向けるものではなかった。

 けれど、ラークは違った。切羽詰まった表情でカレンを丸ごと無視した。

 それがとても心地良かったし、ラークが言った”大変”とはどんなことなのだろうと純粋に興味を持った。できることなら、手伝いたいとも思った。そんな自分に驚きを隠せない。

 細身のマルファンは見た目より力持ちのようでルークを小脇に抱えていても、とても足が早かった。あっという間に廊下を渡り、裏口から外へ出てしまう。

「……あ、ま、待ってっ」

 カレンはスカートの裾を掴んで走る速度を上げ、閉じられたばかりの裏口の扉を開けた。

 最初に視界に飛び込んで来たのは、枝葉が伸び放題の黄色の花を付けた大きな樹だった。次いでその下にいる2人の男の子。

 元の世界では園児と呼んでも良いくらい幼い二人の片方は、木の下に置いてある木箱の上に立ち、もう片方はそこに上がろうと足を持ち上げようとしている。

「あー……あとちょっとなのに届かないよぃ」
「ねぇ僕が代わるよ。どいてっ」
「いや、やめとけ。俺のほうが背が高いんだし、お前じゃ無理だ」
「じゃあ、どうしようっ……うっううっ」
「あーもー泣くなってっ。今、ラークが先生を呼びに行ってるから!」

 ベソをかき始めた男の子を宥める男の子の姿は、とても微笑ましい。

 けれど保護者代わりのマルファンには、そうは見えなかったようだ。

「こらっ、イルとロッタ、お前たち何をしているんだ?!部屋で大人しくしておけっていっただろう!」

 木の下に駆け寄りながら怒声を上げるマルファンに、木の下にいる男の子二人はすぐさま「だってぇ」と尖らした。

 その表情もとても自然で可愛らしいが、マルファンにとっては、やっぱり可愛いと思えないようだ。

「何が”だって”だっ。今日は聖皇后陛下がお見えになるって言っただろう?!何か失礼があったらこんなボロい孤児院なんか潰されてしま──」
「マルファン先生、聖皇后陛下ってあの人?」

 顔を真っ赤にして怒鳴りつけるマルファンを遮って、木箱の上に立っていた男の子はカレンを指さした。

 不本意ながら正解だ。カレンはぺこりと頭を下げた。途端にマルファンはこの世の終わりのような表情を浮かべたが、子供達は無邪気に笑い返してくれる。

 そこにも新鮮さを覚えてカレンが声をかけようとしたが、ニィーっという小動物の鳴き声がして、子供の視線はすぐに木の上に移動した。

「ねえ、どうしたの?」

 カレンも木の下に移動して、わずかに背が大きい方のイルに問いかければ、すぐに困ったような表情で答えてくれた。

「ん、アレ。ティータが降りられなくなっちゃったんだ」

 イルは、木の上のとある枝を指さしながらそう言った。

 カレンもイルと同じように視線を向ければ、そこには小さくてもふもふした生き物がいた。

 子猫のように見えるけれど、しっぽが狐のように大きいから多分猫っぽい何かなのだろう。木に登ったけれど、降りれなくなったらしい。子猫あるあるだ。

「……はぁ、やっちゃたね。私が取ろうか?」

 子猫もどきは、カレンの身長より高い枝にいる。でも、木箱を借りれば何とか届きそうだ。

「え?いいの?!」
「ありがとう!!」
「やったぁー!」

 子供たちはぱっと顔を輝かせて、はしゃいだ声を上げるが、後を追ってきたリュリュはそれを許さなかった。

「そんな危ないことはわたくしがやります!カレンさま、どうかお下がりください」

 青ざめたリュリュに、カレンは苦笑する。

 たかが木箱に登って、子猫っぽいものを救出するだけの簡単な作業だ。そこまで過保護にならなくても。それに子供たちの期待は自分に向いている。これはリュリュには任せたくない。

 妙な反発心を覚えたカレンは、リュリュの制止を無視して木箱に乗る。そして枝に手を伸ばす。

 両手はどうにか子猫もどきに届くけれど、お目当てのそれはカレンを怖がって、枝の端に移動してしまった。吊られるようにカレンもそこに足を動かした。けれど、 

「待ってっ、真ん中は乗っちゃ駄目……って、あああ!」

 時すでに遅し。ラークが忠告した時には、カレンの足は木箱の真ん中に移動していた。

 ぐしゃっと嫌な踏み心地を感じた途端、カレンの視界がぐるりと回った。咄嗟に枝を掴んだけれど、身体を支えることはできなかった。

 そして、踏み台に使っていた箱が腐っていることに気付いた時には、もうカレンは無様に地面に尻もちをついていた。

 子猫もどき改めティータといえば、カレンが枝を掴んで大きく揺れたのが幸いし、2回転して綺麗に着地を決めた。

 自分の膝の上でニィーっと甘える声を出すティータを見つめながら、カレンは「っていうかそれ早く言って欲しかったなぁ」と、心の中でぼやいてみた。
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