盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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おかしい。お愛想で可愛いと言われてただけなのにドキッとするなんて

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 アシェルはこの国の第二王子であり、ノアの雇用主であり、グレイアスにとって忠誠を誓った主である。とどのつまり彼の命令は絶対である。

 だからダンスのスパルタレッスン中であっても、講師のグレイアス先生がどんなにブチ切れていようとも、盲目王子が休憩をしようと言ったらできるのである。

 そんなわけで、現在ノアとアシェルとグレイアスは、即席で用意したテーブルセットの着席してお茶を飲んでいる。






「───……うん、そっか。ダンスのレッスンと宮廷マナーの講義を同時にしてたんだ。グレイアスの発想は斬新だね」
「恐れ入ります」
「でも、ノアに宮廷マナーは必要ないよ。これからはダンスレッスンだけにしてあげて」
「……しかし」
「私はノアと一緒に夜会に参加できるだけで嬉しいんだ。それにノアとの約束では、夜会参加は含まれてしないし。あんまり無理強いさせるは、私の本意とするところじゃないんだ。わかってくれるよね?……ね??」

 アシェル殿下の最後の「ね??」は、有無を言わせない何かがあった。

 現在フレシアお手製のキノコ型のクッキーを頬張っているノアとて感じることができるのだから、偉大なる宮廷魔術師様ならそれはもう痛いほどご理解できたようで、ぐぬぬっと呻きながらも「御意に」と返事をする。

 そうすればアシェルは、ふわわと笑ってグレイアスの頭をポンポンと叩く。

 まるで聞き分けの良い弟を褒めるようなその仕草に、ノアはほんのりと胸が温かくなる。アシェルとグレイアスの身長差も、これまたイイ感じに兄弟感を演出している。

(なんか良いなー。あー孤児院の皆、元気かなぁ。干したキノコちゃんと食材に使ってくれてるかなぁー。手作りのキノコ茶もちゃんと飲んでくれているかなぁー)

 孤児院では最年長であり、もともと面倒見が良かったノアは、子供たちにとても懐かれていた。
 
 ただ毒キノコを食してのたうち回るノアを何度も見てしまっているので、孤児院の子供たちのキノコ嫌い率は高かった。

 院長ロキがキノコは栄養価もあり、市場で購入しているものは無害だとどれだけ説明をしても、食卓にキノコが出るたびに子供たちは全員顔を引きつらせていた。

 そんなことまで思い出し、ノアは心の中で孤児院の子供たちに「ごめん」と呟く。ただキノコ型のクッキーをサクサク食しながらだから説得力は皆無だけれど。




 ───……と、のんびりノアが呑気にお茶を楽しめたのはここまでだった。

「じゃあ、ノア。始めよっか」

 言外にアシェルから休憩は終わりと告げられ、ノアはちょっとだけがっかりする。

 しかし、根が真面目なノアはすぐに気持ちを切り替える。

「はい、頑張ります。ではアシェル殿下、お忙しいところ差し入れありがとうございました。午後も政務頑張ってください」

 ぺこっと頭を下げて、ノアはアシェルを扉まで引っ張って行こうと手を差し伸べる。

 しかしアシェルは、ノアの手に己の手を置いたけれど、首を横に振った。

「ん?私は、政務に戻らないよ。だって、今からノアのダンスレッスンの先生になるんだからね」

 穏やかな口調でそう告げられた言葉がイマイチ理解できなくて、ノアはきょとんとしたまま、アシェルとグレイアスを交互に見た。
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