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空気を読まないにも程がある
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8月15日。終戦記念日の今日は、羽咲の心情を表すかのように曇り。真夏の日差しは分厚い雲に隠れているが、そのかわり蒸し暑い一日になりそうだ。
午後からやってくる伯母対策として、シフト変更しようと頑張った父親だけれど、結局昼勤から逃れることはできなかった。
何度も詫びながら出勤した父親を見送ってから、かれこれ5時間が経過する。
その間羽咲は、おもてなし料理に忙しい母親に代わって、家中を掃除して、洗濯までした。残った時間は、宿題に費やしている。
「……おっと、そろそろか」
ダイニングテーブルで宿題をやっていた羽咲は壁時計を目にして、プリントやペンケースをまとめて自室に運ぶ。
集中するために勉強机の引き出しにしまっておいたスマホを取り出し、画面をオンにする。
新規メッセージが届いた報せが表示され、すぐにメッセージアプリを立ち上げた。
『宿題、ちゃんとやってる?』
そんな大和からのメッセージと、柴犬先生が教壇に立っているスタンプに、羽咲はふはっと声を上げて笑う。
すぐに「もちろんやってるよ!」と返信して、自分もスタンプを送ろうと画面を切り替える。でも、コレといったものが見つからず、うんうん悩んでしまう。
そうしているうちに玄関チャイムが鳴り、階下で母と伯母の声が聞こえてくる。
「ああ、もうっ」
舌打ちしながら、羽咲は慌てて適当なスタンプを送って、スマホを机に放り投げる。
まったく伯母は、スタンプすらゆっくり選ばせてくれないなんて、空気を読まないにも程がある。
*
「まぁーまぁー、お寿司が食ぁーべぇーたぁーいー!」
ダイニングテーブルの椅子に立ち上がった伯母の子供──海音は、バタバタとその場で足を踏み鳴らす。
その度に海音の膝がダイニングテーブルに当たり、ガタガタと不快な音を立てるし、上に載っている料理も皿から零れてしまいそうだ。
海音は小学六年生の男の子。来年中学生になるというのに、まるで幼稚園児みたいだ。控えめに言って、行儀が悪い。
それなのに母親である伯母の麻織は、叱るどころが「お寿司かぁ、いいね!」とケラケラ笑うだけ。この親にしてこの子あり、だ。
「それにしてもせっかく来たのに、オムライスかぁー。ウナギくらいは食べさせてもらえると思ったんだけどねぇ」
麻織のぼやきに、羽咲の額に青筋が立つ。
オムライスと言っても、ただのオムライスではない。レストランで食べるようなトロトロオムライスで、ソースは手作りのケチャップ味が強めのデミグラス。
それだけじゃない。サラダもあるし、ビシソワーズだってある。野菜嫌いの海音のために、母親が前日から仕込んで作ってくれたご馳走だ。
それなのに、この言い方はなんなのだ。そんなに不満があるなら、もう食べなくていい。今すぐ帰れ。
なぁーんてことを口に出せば、どれだけ気持ちがスッキリするだろう。
しかし、母親は困ったように眉を下げているとはいえ、不快な空気は出していない。それどころか羽咲に「落ち着きなさい」と目で訴えてくる。
「海音君、お寿司用意できなくてごめんね。でもこれ全部食べてくれたらプリンがあるから、頑張って食べようね。さ、座って」
おっとりとした口調で母親が説得すれば、海音はお腹が空いていたのかプリンが楽しみなのか、渋々ながら椅子に座り直すとスプーンを手に取る。
羽咲は母親と伯母に気づかれぬよう、海音をギロリと睨む。
けれども、海音は思った以上にオムライスが美味しかったのか、羽咲の視線に気づかずバクバク食べ始めた。
それがまた苛立ちに拍車をかけるが、羽咲も黙ってスプーンを口に運ぶ。
こんな状態なのに、母親のオムライスだけ変わらず美味で、向かいの席に座る伯母が悔しそうな顔をするのが、ほんの少しだけ小気味よかった。
午後からやってくる伯母対策として、シフト変更しようと頑張った父親だけれど、結局昼勤から逃れることはできなかった。
何度も詫びながら出勤した父親を見送ってから、かれこれ5時間が経過する。
その間羽咲は、おもてなし料理に忙しい母親に代わって、家中を掃除して、洗濯までした。残った時間は、宿題に費やしている。
「……おっと、そろそろか」
ダイニングテーブルで宿題をやっていた羽咲は壁時計を目にして、プリントやペンケースをまとめて自室に運ぶ。
集中するために勉強机の引き出しにしまっておいたスマホを取り出し、画面をオンにする。
新規メッセージが届いた報せが表示され、すぐにメッセージアプリを立ち上げた。
『宿題、ちゃんとやってる?』
そんな大和からのメッセージと、柴犬先生が教壇に立っているスタンプに、羽咲はふはっと声を上げて笑う。
すぐに「もちろんやってるよ!」と返信して、自分もスタンプを送ろうと画面を切り替える。でも、コレといったものが見つからず、うんうん悩んでしまう。
そうしているうちに玄関チャイムが鳴り、階下で母と伯母の声が聞こえてくる。
「ああ、もうっ」
舌打ちしながら、羽咲は慌てて適当なスタンプを送って、スマホを机に放り投げる。
まったく伯母は、スタンプすらゆっくり選ばせてくれないなんて、空気を読まないにも程がある。
*
「まぁーまぁー、お寿司が食ぁーべぇーたぁーいー!」
ダイニングテーブルの椅子に立ち上がった伯母の子供──海音は、バタバタとその場で足を踏み鳴らす。
その度に海音の膝がダイニングテーブルに当たり、ガタガタと不快な音を立てるし、上に載っている料理も皿から零れてしまいそうだ。
海音は小学六年生の男の子。来年中学生になるというのに、まるで幼稚園児みたいだ。控えめに言って、行儀が悪い。
それなのに母親である伯母の麻織は、叱るどころが「お寿司かぁ、いいね!」とケラケラ笑うだけ。この親にしてこの子あり、だ。
「それにしてもせっかく来たのに、オムライスかぁー。ウナギくらいは食べさせてもらえると思ったんだけどねぇ」
麻織のぼやきに、羽咲の額に青筋が立つ。
オムライスと言っても、ただのオムライスではない。レストランで食べるようなトロトロオムライスで、ソースは手作りのケチャップ味が強めのデミグラス。
それだけじゃない。サラダもあるし、ビシソワーズだってある。野菜嫌いの海音のために、母親が前日から仕込んで作ってくれたご馳走だ。
それなのに、この言い方はなんなのだ。そんなに不満があるなら、もう食べなくていい。今すぐ帰れ。
なぁーんてことを口に出せば、どれだけ気持ちがスッキリするだろう。
しかし、母親は困ったように眉を下げているとはいえ、不快な空気は出していない。それどころか羽咲に「落ち着きなさい」と目で訴えてくる。
「海音君、お寿司用意できなくてごめんね。でもこれ全部食べてくれたらプリンがあるから、頑張って食べようね。さ、座って」
おっとりとした口調で母親が説得すれば、海音はお腹が空いていたのかプリンが楽しみなのか、渋々ながら椅子に座り直すとスプーンを手に取る。
羽咲は母親と伯母に気づかれぬよう、海音をギロリと睨む。
けれども、海音は思った以上にオムライスが美味しかったのか、羽咲の視線に気づかずバクバク食べ始めた。
それがまた苛立ちに拍車をかけるが、羽咲も黙ってスプーンを口に運ぶ。
こんな状態なのに、母親のオムライスだけ変わらず美味で、向かいの席に座る伯母が悔しそうな顔をするのが、ほんの少しだけ小気味よかった。
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