ゆきばあの、あしあと

当麻月菜

文字の大きさ
52 / 54
空気を読まないにも程がある

2

しおりを挟む
 昼食を食べ終えて、ダイニングテーブルには母親の手作りプリンと飲み物が置かれる。羽咲と海音には、リンゴジュース。母と伯母の前には、アイスコーヒー。

 羽咲としては、アイスコーヒーが飲みたい気分だったが、場の空気を読んで我慢する。それなのに、斜め向かいに座る海音は、感情に任せて不満を口にした。

「僕の小さい!もっと大きいのがいい!!」

 同じ型で作ったのだからプリンの大きさなんて、どれも一緒である。

 定規で測れば満足か?と、あからさまにうんざりした顔をする羽咲とは対照的に、伯母は待ってましたと言わんばかりに口を開く。

「ちょっとぉー、貧乏になったからって、プリンの大きさまでケチらなくていいんじゃない?」

 そう言いながら、伯母はカバンから煙草を取り出し、勝手に火をつける。

 テーブルには灰皿は置いてないのに。小学生の子供だっているのに……。

 そんな気持ちを隠さず、羽咲は露骨に嫌な顔をするけれど、母親は自然な仕草で小さな絵皿を伯母の前に置く。

「なにこれ、粗品じゃん。だっさ」
「だっぁっさぁー!」

 すかさず海音が合いの手のように、伯母の台詞を繰り返す。何の抵抗もなく、汚い言葉を吐く親子に、羽咲は苛立ちよりもうすら寒さすら感じてしまう。

 伯母の麻織は50歳だというのに、髪を明るい茶色に染め、ハート型のバレッタでハーフアップにしている。長い爪にはラメの入ったマニキュアをして、ホットパンツから大胆に足を出している。

 かつてアイドルを目指していた伯母は、確かにスタイルもいいし顔も綺麗だ。でも若作りを超えたこの姿は、はっきり言って見苦しい。

 そして母よりも年上なのに、自分より年下の子供がいること。同級生と同じ発音で彼氏と言うことにも、羽咲は嫌悪感を持ってしまう。

 しかし羽咲がそんなことを考えていると気づいていないのか、伯母は煙草をプカプカふかし、海音は大口を開けてプリンを頬張る。

 しかも、余所に意識を飛ばしている間に、海音は羽咲のプリンにスプーンを突っ込みやがった。

「あ!ちょっと──」
「いいじゃなーい、プリンぐらい。ケチケチしちゃ駄目よぉー」

 羽咲が海音に注意しようとした瞬間、伯母に止められてしまった。ここに母親がいなければ「お前が言うな!」と怒鳴りつけたい。

 伯母がやって来てまだ1時間少々。それなのに、もう苛立ちは限界値を超えようとしている。

 一方羽咲の母親は、これまでの度重なる伯母の失礼な態度に耐性がついてしまったのか、困り顔になりこそすれ、羽咲のように苛立ちを表に出すことはしない。

 それどころか、羽咲をたしなめる視線を何度も送ってくる。これじゃあ、どっちが守られているのかわからない。

「ところでさ、月末長野に行くんだよね?」

 二本目の煙草に火をつけながら、伯母は母親に尋ねる。

「ええ。法要については、夫から連絡あったと思いますが」
「あー来た来た。だから先にこっちに来たんじゃん」
「はい……?」

 ”だから”の意味がわからず、羽咲の母親は首を傾げる。羽咲も、同じように首を横にコテンと倒してしまう。

 そんな母娘の仕草が気に食わなかったのか、伯母はチッと舌打ちした。

「だからぁー形見分けを先にしてってことよ。ったく、察しが悪いわね」
「……は、はぁ」
「保険金とかはちゃんと分けてもらったけど、あれだけじゃあちょっとね。うちも子供小さいし、長男は大学で色々物入りなのよ」

 そう言い捨てると伯母は、ずかずかと奥の和室に足を向ける。そこは、生前祖母の私室として使われていた部屋。

 大切なものを汚されそうな予感がして、羽咲は椅子をけ飛ばさんばかりの勢いで立ち上がると、慌てて伯母の後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合活少女とぼっちの姫

佐古橋トーラ
青春
あなたは私のもの。わたしは貴女のもの? 高校一年生の伊月樹には秘密がある。 誰にもバレたくない、バレてはいけないことだった。 それが、なんの変哲もないクラスの根暗少女、結奈に知られてしまった。弱みを握られてしまった。 ──土下座して。 ──四つん這いになって。 ──下着姿になって。 断れるはずもない要求。 最低だ。 最悪だ。 こんなことさせられて好きになるわけないのに。 人を手中に収めることを知ってしまった少女と、人の手中に収められることを知ってしまった少女たちの物語。 当作品はカクヨムで連載している作品の転載です。 ※この物語はフィクションです ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ご注意ください。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...