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空気を読まないにも程がある
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理路整然とした和室に、伯母が足を踏み入れる。祖母の遺骨がある小さな祭壇には目もくれずに。
「ちょっと、伯母さん!」
祖母に挨拶すらしない伯母に、それはさすがにないだろうと、羽咲は尖った声を出す。しかし伯母は無視して、箪笥を開ける。
そこには、畳紙に包まれた祖母の和服が収められていた。
「あー、着物ってあんまり高く売れないんだよねぇ。こっちは、どうかなぁ」
「勝手に開けないでよ!」
ここにあるのは全て、祖母が大切にしていたものだ。
それを売るとか、価値があるとか、ないとか。そんな言葉で汚していく伯母の神経がわからない。
耐え切れなくなった羽咲は、伯母の手を掴んで阻止するが、乱暴に振り払われてしまった。
「あのさぁ、邪魔しないでくれる?ったく、そんなに金目の物を独り占めしたいの?」
「……そ、そんなわけ、ない!!」
あまりの発言に、羽咲は一瞬息を吞む。でも、全力で否定した。
「おばあちゃんが大事にしてたやつなんだから、売るとか言わないで!」
怒鳴りつけた途端、伯母は羽咲のことを鼻で笑った。
「はっ。死んじゃったんだから、別に構わないでしょ?それに大事に取っといてどうするのよ。売って役に立った方が喜ぶんじゃないの?」
「なっ」
本当にこの人は、祖母が産んだ子供なのだろうか。いっそ祖父が不貞行為をして、余所で作った子供であってほしいとすら願ってしまう。
随分祖父に失礼なのはわかっているが、それほどまでに羽咲は、伯母を嫌悪している。
羽咲は箪笥と伯母の間に無理矢理入り込むと、強引に引き出しを閉める。そして力いっぱい伯母を睨むが、返ってきたのは小馬鹿にした笑いだった。
「はいはい。あんたが嫌がってるのはわかったから。でも、どいて。邪魔なの、邪魔。うっとうしい。っていうか、あんたそんなことしていい権利があるの?」
細い眉毛の片方をクイッと器用に上げて伯母は威嚇するが、羽咲は一歩も引く気がない。
一触即発の状態が続き、母親が「そこまでにしなさい」と羽咲をたしなめる。その時、トタトタ……と、海音の足音が響き、和室に場違いなほど弾んだ声が響いた。
「ねぇーこれー、何が入ってるのぉー」
クリスマスプレゼントを貰ったようなはしゃいだ声がして、羽咲はそこに目を向ける。瞬間、伯母を押しのけ海音の元に走った。
「触らないで!!」
海音が手にしていたのは、信じられないことに祖母の遺骨だった。怒りと悲しみと苛立ちがごちゃ混ぜになった羽咲は、力任せに海音からそれを取り上げる。
力加減なんてする気もなかったから、取り上げた瞬間、海音はバランスを崩して尻もちをついてしまった。
何が起こったのかわからずポカンとする海音を、羽咲は祖母の遺骨を胸に抱いたまま、力いっぱい睨みつける。
海音は自分がとんでもないことをしてしまった自覚があったのか、それとも単純に尻もちをついて驚いたのか、羽咲から鬼のような表情で睨まれて恐ろしかったのか……その全部だったのかわからない。
とにかく顔をくしゃりと歪めると、幼稚園児のように声を上げて泣きだした。
すぐに伯母が駆け寄り、泣きわめく海音を抱きしめ、羽咲に暴言を吐く。母親も膝をついて海音に「大丈夫?」と心配そうに声をかける。
「羽咲、海音君に謝りなさい」
静かな口調で母親に言われても、羽咲は頑として口を開かない。
自分は絶対に悪くない。そう身体全部で訴えながら、ただただ祖母の遺骨を抱きしめ、海音と伯母を睨み続けた。
「ちょっと、伯母さん!」
祖母に挨拶すらしない伯母に、それはさすがにないだろうと、羽咲は尖った声を出す。しかし伯母は無視して、箪笥を開ける。
そこには、畳紙に包まれた祖母の和服が収められていた。
「あー、着物ってあんまり高く売れないんだよねぇ。こっちは、どうかなぁ」
「勝手に開けないでよ!」
ここにあるのは全て、祖母が大切にしていたものだ。
それを売るとか、価値があるとか、ないとか。そんな言葉で汚していく伯母の神経がわからない。
耐え切れなくなった羽咲は、伯母の手を掴んで阻止するが、乱暴に振り払われてしまった。
「あのさぁ、邪魔しないでくれる?ったく、そんなに金目の物を独り占めしたいの?」
「……そ、そんなわけ、ない!!」
あまりの発言に、羽咲は一瞬息を吞む。でも、全力で否定した。
「おばあちゃんが大事にしてたやつなんだから、売るとか言わないで!」
怒鳴りつけた途端、伯母は羽咲のことを鼻で笑った。
「はっ。死んじゃったんだから、別に構わないでしょ?それに大事に取っといてどうするのよ。売って役に立った方が喜ぶんじゃないの?」
「なっ」
本当にこの人は、祖母が産んだ子供なのだろうか。いっそ祖父が不貞行為をして、余所で作った子供であってほしいとすら願ってしまう。
随分祖父に失礼なのはわかっているが、それほどまでに羽咲は、伯母を嫌悪している。
羽咲は箪笥と伯母の間に無理矢理入り込むと、強引に引き出しを閉める。そして力いっぱい伯母を睨むが、返ってきたのは小馬鹿にした笑いだった。
「はいはい。あんたが嫌がってるのはわかったから。でも、どいて。邪魔なの、邪魔。うっとうしい。っていうか、あんたそんなことしていい権利があるの?」
細い眉毛の片方をクイッと器用に上げて伯母は威嚇するが、羽咲は一歩も引く気がない。
一触即発の状態が続き、母親が「そこまでにしなさい」と羽咲をたしなめる。その時、トタトタ……と、海音の足音が響き、和室に場違いなほど弾んだ声が響いた。
「ねぇーこれー、何が入ってるのぉー」
クリスマスプレゼントを貰ったようなはしゃいだ声がして、羽咲はそこに目を向ける。瞬間、伯母を押しのけ海音の元に走った。
「触らないで!!」
海音が手にしていたのは、信じられないことに祖母の遺骨だった。怒りと悲しみと苛立ちがごちゃ混ぜになった羽咲は、力任せに海音からそれを取り上げる。
力加減なんてする気もなかったから、取り上げた瞬間、海音はバランスを崩して尻もちをついてしまった。
何が起こったのかわからずポカンとする海音を、羽咲は祖母の遺骨を胸に抱いたまま、力いっぱい睨みつける。
海音は自分がとんでもないことをしてしまった自覚があったのか、それとも単純に尻もちをついて驚いたのか、羽咲から鬼のような表情で睨まれて恐ろしかったのか……その全部だったのかわからない。
とにかく顔をくしゃりと歪めると、幼稚園児のように声を上げて泣きだした。
すぐに伯母が駆け寄り、泣きわめく海音を抱きしめ、羽咲に暴言を吐く。母親も膝をついて海音に「大丈夫?」と心配そうに声をかける。
「羽咲、海音君に謝りなさい」
静かな口調で母親に言われても、羽咲は頑として口を開かない。
自分は絶対に悪くない。そう身体全部で訴えながら、ただただ祖母の遺骨を抱きしめ、海音と伯母を睨み続けた。
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