ふれたら消える

明樹

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 柊木が俺に気づいた。先ほどとは一転、華やかな笑顔になる。
 思わずドキッとしてしまった俺は、自分自身に舌を打った。青の笑顔の方が華やかでかっこいいのに、バカか俺は。
 柊木が前に立つなり「早いね」と嬉しそうに言う。

「柊木の方が早いじゃん。俺は時間通り」
「俺は楽しみで落ち着かなくて早く出てきちゃっただけだから。じゃ、行こうか」
「ああ。柊木はモテるんだな」
「え?ああ…さっきの女の子たち。背が高くて目立つからかなぁ」
「俺なんかよりさっきの子達といた方が楽しいんじゃねぇの」
「え…うそ…いてる?」
「は?バカか」

 気持ち悪いことを言うなと、足を早めて隣を歩く柊木より前に出た。
 柊木が慌てて横に来て「ごめんごめん」と笑う。

「俺がモテようが昊は何とも思わないか。…ていうか、つなぐって呼んでくれないの?」
「だって友達じゃねぇし」
「ええっ、俺たちの関係って…」
「ただの知り合い」
「マジかぁ」

 シュンとうつむく柊木を見て、密かに笑う。
 篠山から助けてくれたことは感謝するけど、ベタベタと寄ってきてしつけぇヤツだなとめんどくさく思っていた。だけど話してみると意外と楽しいし、表情がくるくると変わって見ていて飽きない。まあ暇つぶしにたまに付き合ってやってもいいかと考えていると、「昊」と呼ばれて顔を上げた。

「なに?」
「今日の映画、つき合ってくれてありがとう」
「別に、俺も観たかったし」
「でもさ、他の誰かとも行けただろ?俺と行ってくれてありがとう」
「だから礼を言われることじゃない。あ、言っとくけど食べ物は買うなよ。俺は映画館では食わないし隣で食われるのも嫌いだ」
「大丈夫。俺も食べないで観る派」
「ふーん、ならいいけど」

 待ち合わせ場所から映画館までは歩いて十五分ほどだ。歩道は建物の影になっているけど、より影がある方へと俺を歩かせ、柊木には時おり日が当たる。柊木の茶髪が日に透けて、金髪に見える。
 俺は横目で見て思う。キラキラしてきれいだな。柊木に何度も誘われて、会って何すんだよと面倒に思ったけど、映画を観るって聞いて安心した。映画だと喋んなくていいからな。本当は青と観に行きたいけど、部活に塾にと忙しい青の邪魔はしたくない。そういえば青、俺と同じ高校に行くって言ってたな。そうか、俺を追いかけてきてくれるんだな…嬉しい。でも青の頭だと、もっと上の学校も狙えるのに。なんで俺と同じ所に…。

「着いたよ」
「え…」

 肩を掴まれて思考をとめた。いつの間にか映画館の入口に来ている。

「どうしたの?気分悪い?」
「いや…大丈夫」
「そう?しんどい時は言えよ」

 柊木が俺の頭に手を乗せて、心配そうに覗き込んでくる。
 柊木の色素の薄い目を見ていると、心の内を見透みすかされているように感じて嫌な気持ちになる。
 俺は「トイレに行く」と言って、その場から逃げた。
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