ふれたら消える

明樹

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 弾かれるように青から離れて、声が聞こえた後ろを向く。「あ…」と声が出たけど言葉が続かない。頭の中が真っ白になる。
 ドアの前に、母さんがいた。
 いつ、帰って来た?いつ、入って来た?玄関が開く音も、廊下を歩く足音も、リビングのドアを開ける音にも、全く気づかなかった。青とのキスに夢中で、気づけなかった。見られた…どうする?ふざけてたって言う?…無理だ、あんなに激しいキス、ふざけてはしない。でも俺は後ろ姿だったし、なんとかごまかせないだろうか…。
 俺が黙って固まっていると、青が先に口を開いた。しかも俺を庇うように前に出て。

「おかえり。早かったんだね」
「青…あなた…たち…今、なにしてたの…」

 母さんの声が震えている。ああダメだ。やっぱりごまかせない。母さん、ショックだろうな。そりゃあそうだろう。自分の息子達がキスしてたんだから。
 なのに逆に青はとても落ち着いている。なぜ…と思ったけど、すぐにわかった。そうか、青は覚悟ができてるんだ。誰にバレて何を言われても、自分の気持ちに嘘をつかない覚悟が。
 青が静かに、はっきりと言う。

「見た通りだよ。キスをしてた」
「な…なんで。ふ、ふざけて…」
「ふざけてなんかない。俺がしたかったからしたんだ」
「どういうことっ?」

 母さんの声が、だんだんと荒くなる。比例するように、俺の手が震え出す。俺の不安な様子に気づいたのか、まるで大丈夫だというように、青が後ろに回した手で俺の手に触れた。それだけで、俺の震えが少しおさまる。
 好きな人の力って偉大だ。青の大きな背中を見ていると、だんだんと落ち着いてきた。なんだか上手くいくような気がしてきた。でも現実では、俺と青が恋人同士になるなんてことは、決してない。兄弟で、男同士で恋愛なんてタブーもいいところだからだ。その証拠に、ほら、いつも優しい母さんが、今までに見たことないくらい怖い顔をしている。
 でも青は、母さんの様子に怯むことなく、正直に話し続ける。

「俺は、昊が好きなんだ。家族に対する好きじゃない。恋人として、触れたり触れられたりしたいと思ってる」
「青っ!それは勘違いよ。兄弟として好きなことを、勘違いしてるのよ!あなた小さい頃から昊にべったりだったからっ」
「勘違いじゃない。悩んだり考えたりもしたけど、俺の中ではっきりしている。俺は、昊が好きだ」
「青…っ!昊は?昊もそうなのっ?」

 急に問われて言葉に詰まる。でも俺も青が好きだ。ずっと好きだった。だからそう言おうとしたのに、青に遮られた。

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