ふれたら消える

明樹

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 来た道とは違う道を進む。ばあちゃん家がある街から少し離れると、民家が疎らで灯の少ない暗い道が続く。その暗い道をずっと進んで行くと、更に真っ暗な山道に入る。なだらかなカーブが永遠と続く山道を進みながら、青のことばかりを考えていた。
 思えば、俺は青が生まれた瞬間から、青しか目に入らなかった。きっと前世は恋人だったんだ。死んだ後も傍にいたくて、いちばん身近な兄弟になったんだ。生まれた瞬間から一緒にいられたことは、素直に嬉しい。だけど、せめて血が繋がっていなければ…そうすれば、堂々とはいかないかもしれないけど、愛してると言えたのに。世界中の人に公表できたのに。でも、そう思っているのは俺だけだ。青はちゃんと、女の子と付き合えている。なら俺は、邪魔だよな。それに俺も、他の人と幸せそうにしてる青を見るのは辛い、耐えられない。だから母さんの望みどおり、皆の前から消える。本当は母さんは、俺と一緒に消えてくれるつもりだったんだろう。だけど母さんが巻き添えになることはないよ。父さんが悲しむじゃん。俺だけいなくなればいい話だ。青も、俺がいなくなれば、もう悩まなくて済むだろ?
 俺の頭の中は、すっきりとしていた。気持ちも落ち着いている。何も怖くない。こんなふうに青の前から消えるけど、青は俺の事、忘れないでくれるかな。忘れないでほしい。おまえを愛した俺のことを。
 不思議と怖くはなかった。そして悲しくもなかった。先ほどまで会っていた祖父母の優しい笑顔を思い出して、少し鼻の奥が痛くなったけど、何とか耐えた。祖父母には元気で長生きしてほしい。そのうち青が結婚してひ孫を見せに来てくれるよ。そんな未来を想像して、それがあるべき形なんだと自身に言い聞かせた。
 母さんも悩ませてごめん。でも青を好きになったことは謝らないよ。俺は青を好きになって良かったと思ってるから。
 すれ違う車もない暗い道を見つめながら、様々なことを思い出す。子供の頃、山で怪我をしたこと。その怪我がきっかけで、夏樹と仲良くなれたこと。あ…そうだ。夏樹にはちゃんとお礼を言いたい。
 俺はハザードランプをつけて路肩に車を止めると、スマホを手に夏樹の番号を探してタップした。三回コールした後に「昊、今どこ?」と焦った声がした。

「出るの早いな」
「青から連絡があったんだよ。家に母親と昊がいないって。車もないって。二人に連絡しても出ないって」
「ああ…」

 そういえばマナーモードにして鞄の底に入れてたから気づかなかった。青、連絡くれてたのか。

「で?どこにいる?」
「祖父母の家。ばあちゃんの体調が悪いからって母さんに連れて行かれたんだよ」
「そっか…ならいいけど。青にも連絡入れとけよ」
「わかった。なぁ夏樹、俺はおまえと仲良くなれて楽しかったよ。ありがとな」
「はあ?なんだそれ」
「なんでも。ちょっと言ってみたかっただけ。じゃあな」
「あっおい、まっ…」

 夏樹が喋ってる途中で電話を切る。怪しかったかな。まあいいか。すぐに折り返して夏樹から電話がきたけど出なかった。
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