ふれたら消える

明樹

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 スマホを鞄に戻そうとして、そういえばすごい数の着信履歴がついてたなと、もう一度引き寄せる。タップして見ると、父さんから三件、青からは数え切れないくらい、着信があった。メールも入っていた。今どこにいる?とか電話に出てとか。すげー焦ってる。ふふっ、なんで?おかしいな。だっておまえは、彼女と楽しい時間を過ごしてたんじゃねぇの?家に俺がいないからって、なんでこんなに電話かけてきてんだよ。
 ぼんやりとスマホを眺めていると、また振動しだした。青からの着信だった。反射的にタップしそうになって、慌てて右手を引っ込める。
 ダメだ、出るな。出て何を話すんだよ。彼女のことを聞くのか?怖くて聞けないくせに。だからといって、他の他愛ない話なんかできない。
 しばらくして着信音が切れると、俺は青に短いメールを送った。そして電源を切り、鞄の中にスマホを放り込んだ。
 シートに背を預けて、ふぅ、と息を吐き出す。
 母さんの顔を見てわかった。母さんは、昨日の俺と青のセックスを見てしまったんだ。だから先に帰った俺を連れ出して、死のうとしたんだ。ごめんな、嫌なもの見せて。俺には幸せな行為だったけど、母さんには嫌悪しかないよな。それなのに一緒に死のうとしてくれて、ありがとう。その気持ちだけで嬉しいから。
 俺はこれからもずっと、青を求めてしまう。でも青は、俺じゃなくてもいいみたい。それを説明したって、母さんは安心しないだろう?俺と青がいるかぎり、いつまた二人が繋がるかと心配で、おかしくなるだろう?だからこれでいい。俺一人がいなくなればすむこと。簡単なこと。あ、ただ母さんの車壊しちゃうけど。もう古かったからいいよな。俺の保険金で新しいの買えよ。俺は母さんに何もしてやれなかったからさ、せめて…。
 せめてもの親孝行だと考えてやめた。親より先に死ぬなんて、どう考えても親不孝だろ。俺はとんでもない親不孝者だよ。その代わり、俺の分も、青は母さんと父さんに孝行してくれよ。
 俺は座り直すと、エンジンをかけた。そしてギヤをドライブに入れようとして、あまりの眩しさに顔を上げた。
 対向車線側から、車のライトが迫ってくる。

「え?なんで?」

 思わず声が出た直後に、眩しさで視界が白く染まり、ひどい衝撃を受けた。その次に軽い浮遊感を、そしてまた衝撃を受けた瞬間、意識が無くなった。
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