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季節が巡り年が明けても、昊は目を覚まさなかった。
俺は時間の許す限り、昊の元へ通い続けた。昊に話しかけた。だけど昊からは返事がない。
事故の時に頭を強く打ったらしいけど、脳に異常はないと医師が話していた。だから目を覚まさないのは、本人が覚ましたくないのだろうとも。
でもさ、目を覚ましたくないくらい嫌なことがあるなら、起きて話してくれなきゃ、わかんないじゃん。話してくれたら、俺が全て解決してあげるのに。
事故の相手との話し合いは、父さんが済ませた。昊の入院費と治療費を全て払ってもらうことになっている。父さんと母さんのことも、もう不安に思わなくていい。俺の想いを伝え、昊が目を覚ましたら二人で家を出ると伝えた。俺が働いて、二人で暮らしていくと。父さんはずいぶんと悩んでいた。悩んで考えて時には怒って、でも俺の意思が強いことを知って、承諾してくれた。親の責任として大学の費用は出すから、きちんと卒業しなさいとも言ってくれた。俺は嬉しくて震えた。心から感謝した。いつか必ず学費は返すからと約束した。そして父さんは、泣く母さんに「子供たちが死ぬより、遠くで幸せに生きてさえいてくれた方が、断然いいだろう」となだめてくれた。
父さんが父さんでよかった。きっと心を苦しめているけど、俺は謝らないよ。でも感謝する。俺と昊の関係は、人の倫理から外れているのだろう。だけど、兄弟とか男同士とか関係なく、昊が好きなんだ。きっと昊もそう。離れてしまうと生きていけない。だから一番近い兄弟として生まれてきたんだ。
俺は勉強をがんばった。これから昊を守るためにがんばった。
そして三年の月日が流れた。俺は外資系企業に内定をもらっている。大学を卒業したら家を出る予定だ。もちろん、昊も連れていく。だからさ、昊、それまでには目覚めてよ。憂うことは何もないから、目を開けて俺を見てよ。笑ってよ。そしてその時にはっきりと伝える。
「昊を愛してる。ずっと俺の傍にいて」
肯定以外は受けつけないよ。俺の執着はすごいんだよ。生まれた瞬間から、昊が好きなんだから。そして昊からも聞きたい。「青を愛してる」という言葉を。
ふと窓の外が明るくなった気がして、顔を上げる。いつの間にか雨が止み、雲間から日が差している。
俺はベッドから離れて窓を開けた。その瞬間、桃色の花弁が舞いながら部屋の中に入ってきた。花弁を目で追う。花弁はひらひらとベッドまで届く。そして昊の頬に落ちた。
「桜も昊に見て欲しいってさ」
そう呟いて手を伸ばしたその時、伏せられた長いまつ毛が揺れ、ゆっくりと昊の目が開いた。
(終)
俺は時間の許す限り、昊の元へ通い続けた。昊に話しかけた。だけど昊からは返事がない。
事故の時に頭を強く打ったらしいけど、脳に異常はないと医師が話していた。だから目を覚まさないのは、本人が覚ましたくないのだろうとも。
でもさ、目を覚ましたくないくらい嫌なことがあるなら、起きて話してくれなきゃ、わかんないじゃん。話してくれたら、俺が全て解決してあげるのに。
事故の相手との話し合いは、父さんが済ませた。昊の入院費と治療費を全て払ってもらうことになっている。父さんと母さんのことも、もう不安に思わなくていい。俺の想いを伝え、昊が目を覚ましたら二人で家を出ると伝えた。俺が働いて、二人で暮らしていくと。父さんはずいぶんと悩んでいた。悩んで考えて時には怒って、でも俺の意思が強いことを知って、承諾してくれた。親の責任として大学の費用は出すから、きちんと卒業しなさいとも言ってくれた。俺は嬉しくて震えた。心から感謝した。いつか必ず学費は返すからと約束した。そして父さんは、泣く母さんに「子供たちが死ぬより、遠くで幸せに生きてさえいてくれた方が、断然いいだろう」となだめてくれた。
父さんが父さんでよかった。きっと心を苦しめているけど、俺は謝らないよ。でも感謝する。俺と昊の関係は、人の倫理から外れているのだろう。だけど、兄弟とか男同士とか関係なく、昊が好きなんだ。きっと昊もそう。離れてしまうと生きていけない。だから一番近い兄弟として生まれてきたんだ。
俺は勉強をがんばった。これから昊を守るためにがんばった。
そして三年の月日が流れた。俺は外資系企業に内定をもらっている。大学を卒業したら家を出る予定だ。もちろん、昊も連れていく。だからさ、昊、それまでには目覚めてよ。憂うことは何もないから、目を開けて俺を見てよ。笑ってよ。そしてその時にはっきりと伝える。
「昊を愛してる。ずっと俺の傍にいて」
肯定以外は受けつけないよ。俺の執着はすごいんだよ。生まれた瞬間から、昊が好きなんだから。そして昊からも聞きたい。「青を愛してる」という言葉を。
ふと窓の外が明るくなった気がして、顔を上げる。いつの間にか雨が止み、雲間から日が差している。
俺はベッドから離れて窓を開けた。その瞬間、桃色の花弁が舞いながら部屋の中に入ってきた。花弁を目で追う。花弁はひらひらとベッドまで届く。そして昊の頬に落ちた。
「桜も昊に見て欲しいってさ」
そう呟いて手を伸ばしたその時、伏せられた長いまつ毛が揺れ、ゆっくりと昊の目が開いた。
(終)
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