溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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「ルリス、ごめん。怒った?」

 アレンが謝りながら手を伸ばしたその時、扉を叩く音と同時に声がした。
 先ほどの青年が、食事と着替えを持ってきた。
 手際よく机に料理を並べ、着替えをベッドに置いて、青年は一礼をして出ていく。
 料理の匂いを嗅ぐや否や、一日歩いて腹が空いていたエイルリスの腹が、ぐぅ…と鳴った。

「腹が減った…」
「俺も。美味そうだな。ほら、ルリスはここに座って」

 アレンがエイルリスを椅子に座らせる。そして当然のように隣に座る。
 
「おい、食べにくくないか?」
「なんで?あ、俺の顔を見て食べたい?」
「違う!」
「ふふっ、これでいいんだよ。俺は常にルリスに触れられる距離にいたい」
「…勝手にしろ」
「うん。はい、これ好きだよな?」

 話しながら、アレンがエイルリスの皿に料理を乗せていく。肉、野菜、パンときれいに乗せて、エイルリスの手にフォークを握らせた。
 エイルリスは、手のフォークを見て息を吐く。

「おまえは俺の母親かよ」
「恋人だよ」
「…過保護な恋人だな」
「ルリスのことが大好きだからね」
「……」

 アレンに何を言っても甘い言葉でしか返ってこない。これ以上甘い言葉を吐かれたら、料理を食べる前に胸焼けしてしまう。
 エイルリスは口を閉じて、食事に集中することにした。

 食事後、一緒に風呂に入ろうとするアレンを全力で止めて、エイルリスは体をきれいに洗った。今夜、アレンと体を繋げる覚悟はできている。むしろ、そうしたいと思っている。アレンがエイルリスを気遣って何もしてこなかったら、自らアレンに触れようと思っている。
 近々、フォラスと会うだろう。復讐の時が来る。数年間、エイルリスは力を溜めてきた。それに、元より他の天使よりも力が強い。生まれつきの才能というものか。だから、両親を一瞬で殺したフォラス相手でも、きっと戦える。勝てると信じてる。
 でも、エイルリスも無傷では済まないだろう。もしかすると相打ちで死ぬ可能性もある。だから、死ぬ前にせめて、愛する人との幸せな時間が欲しかった。それだけで、生まれてきた意味があったと納得できる。
 エイルリスは、鏡に映る自身を見た。体毛の薄い白い肌。鍛えても筋肉がつかないために、細く薄い体だ。
 アレンは俺を好きだと言うが、こんな貧相な体を見ても、そう言えるのか。
 エイルリスは翼を出した。
 特別室の風呂は、とても広い。だから翼を広げても問題ない。
 エイルリスは、鏡に映る翼を見て「うそだろ…」と呟き絶句した。
 先端だけが黒かったのに、今は半分くらいまで黒く染まっている。このままでは、いずれ悪魔のように真っ黒になるのでは…。

「なるだろうな。俺の心は、天使とは思えないほど、真っ黒だからな」

 エイルリスは翼を閉じると、顔にかかる髪をかきあげて、ふと動きを止める。

「待て…それならなぜ、父の翼は白いままだった?父も、悪魔を、フォラスを恨んでいた。俺や兄に、悪魔を見つけたら消せと、いつも話していた。それほど悪魔を恨んでいたのに、父の翼は黒く変わっていない」

 少し考え、思い直す。
 そうだ、父の恨みは、妹一人分だけど、俺の恨みは、父の妹と両親と兄の四人分だ。恨みの深さが違うのだ。
 そう納得して風呂場を出ようとしたその時、「ルリス?大丈夫?」と扉の外からアレンの声がした。
 









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