溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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 そのことを、単刀直入にユラに聞く。

「俺のことを知ってるか?」
「講義で見かけて知ってるよ。というか、知らない人はいないと思うよ。君はきれいで有名だから」

 エイルリスは、今度は隠さずに舌を打った。

「ちっ…。目立ってんのかよ」

 ユラが少し怯えた顔をする。

「え?君って口悪い。きれいな顔をしてるのに…怖いよ?それに…なんだろ?初めて話すのに、なんだか胸の中がもやもやする…」

 だろうな、とエイルリスは声に出さずに答える。 
 あれだけアレンを奪っただとか意味わかんねぇことで嫌われてたからな。怪しい毒を浴びせるくらいに憎んでいたからな。もやもやくらいするだろう。

「俺はエイルリスだ。俺はあんたを知ってる。あんたが怪しい薬を作っていることも知ってる」

 ガタッと音を立てて、ユラが腰を浮かせた。
 エイルリスは冷静だ。冷静に「落ち着けよ」とユラを見る。

「別にあんたの趣味に口出ししない。俺は、頼みたいことがあって、声をかけた」

 ユラが落ち着かない様子で、ゆっくり腰を下ろす。そして目を泳がせながら「頼み?」と聞いた。

「そうだ。なあ、忘れた記憶を戻す薬はないか?」
「忘れた記憶を戻す?」
「そうだ。その薬がほしい。くれるなら、あんたの趣味は誰にも話さない。だが、くれないとなると、理事長にでも話すかもな」
「ちょっ…ちょっと待って!」

 エイルリスは、内心期待していた。
 夏季休み前、ユラは怪しい薬を作っていたことと、それを使ってアレンに怪我をさせたことを理事長に知られて、謹慎になった。だからもう薬は作ってないかもしれないと思ったが、あんなにすごい毒を作るのだ。きっと薬や毒を作ることが楽しくて、やめられていないはずだと思っていた。
 今の反応で確信した。ユラはまだ、怪しい薬を作っている。
 ユラは「うーん」と唸りながら、頭を抱えて俯いた。「記憶…忘れた…」と、ぶつくさと呟いている。
 その様子を、エイルリスは黙って見ていた。
 どれくらいの時間が経ったのか。動かずにユラを見ていたために、体が凝ってきた。立ち上がって体を伸ばしたいと思っていると、ユラが大きな声を出した。

「ああ!あれが使えるかなぁ!」
「あるのかっ?薬が!」

 エイルリスが机の上に身を乗り出す。
 ユラが、迷いながら頷いた。

「忘れた記憶を戻すというか…。思考がままならなくなった頭を、すっきりとさせる薬ならある。それが効くんじゃないかな。薬というよりも毒だけど」

 エイルリスは気分が高揚した。
 何でもいい。毒でもいい。毒でも俺の体液で浄化できる。だから試したい。少しでも望みがあるなら使いたい。
 エイルリスは、ユラに向かって頭を下げた。

「頼む。その薬を譲って欲しい。値がつくものなら払う。どうしても思い出して欲しいことがあるんだ」

 ユラが立ち上がり「着いてきて」と言って歩き出す。
 エイルリスは、戸惑いながらユラの後について行く。
 廊下を進み階段を上り再び廊下を進み、ある部屋の前で止まった。
 ユラが鍵を開けて扉を開く。

「入って。ここは僕の部屋」
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