溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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「ここで何してるの?」
「あ…」

 目の前で立ち止まった人物を見上げて、エイルリスは固まった。
 黒髪が風に揺れ、インディゴブルーの瞳がいつもより濃く見えて、きれいだ。

「アレン…」
「俺のこと知ってるの?君は…ええっと」
「…エイルリスだ」
「エイルリスくんかぁ。同じ学年?」
「そうだ」

 エイルリスは涙が出そうになり、慌てて俯いて目を瞬かせた。
 今泣いたらヤバい奴だろ。冷静に…落ち着け。
「どうしたの?」とアレンがしゃがんでエイルリスの顔を覗き込んできた。
 エイルリスは、ゆっくりと顔を上げる。アレンと目が合う。胸が苦しくなってくる。
 ああ、いつもの優しい顔だ。
 アレンは、エイルリス以外の人にも、笑顔で穏やかに接する。でも、作ったような笑顔だと、エイルリスはいつも思っていた。
 今、エイルリスに向けられてる笑顔は、作った笑顔じゃない。記憶がなくなる前と同じ、愛おしさが混じった優しい笑顔だ。
 エイルリスは、思わず手を伸ばして、アレンの頬に触れた。

「なんで…そんな顔…」
「…ごめん。何言ってるかわかんないや。でも、どうして泣きそうな顔してるの?辛いことがあった?」
「あっ…た」
「そっか。俺でよかったら話を聞くよ。俺、君ともっと話したい」

 アレンが、エイルリスの手を掴み、手の甲を撫でた。
 いきなり頬に触れても嫌がらない。そして、壊れ物に触れるように優しくエイルリスの手を撫でる。
 なんで、そんなに優しくする?もしかして、思い出してはいないけど、無意識に動いてるのか?心の奥には、俺への気持ちが残ってるから?
 もっと触れたいし触れてほしいと願っていると、アレンが立ち上がり、エイルリスも立たせてくれた。
 エイルリスは、そっとズボンの上から瓶に触れた。
 ここでアレンに会えてよかった。門とは違う方向から現れたけど、きっと飛んで来たのだろう。
 あのまま、自室に戻らずにここへ来てよかった。アレンに会えた。
 さっそくアレンを俺の部屋に誘い、これを飲ませる。黙って飲ませることになるけど、怪しい薬だけど、これに頼るしかない。
 ごめんなアレン…。もし毒になるようだったら、俺が治してやるから。ああ、でも、アレンが俺のことを好きではないなら、治療できない。アレンは、好きな人の体液でしか傷を治せないのだから。
 でも、迷ってる時間はない。
 エイルリスは「俺の部屋で話さないか?」と言って、アレンを見つめた。
 アレンが喜んで頷く。

「行く!君はどこの寮?俺はブルースター寮なんだ」
「ポインセチアだ」
「冬のポインセチアか。俺は夏のブルースターだよ。ローズマリーは春でオキザリスは秋。知ってた?」
「なんとなく」
「ふふっ、じゃあ行こうか」
「ついて来て」
「わかった」

 エイルリスが歩き出すと、すぐ後ろをアレンがついて来た。
 
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