断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧

文字の大きさ
17 / 26

17

しおりを挟む
 王子であるロドルフを追い返す訳にもいかず、仕方なく父が中へと通した。

「リーゼはここにいなさい」

 父と兄に部屋から出るのを止められたが、どうしても気になりそっと部屋を抜け出した。

 応接間へ向かう途中、兄であるマティアスの怒号が聞こえてきたが、軽くあしらう様に笑うロドルフの声も聞こえてくる。

「どの面下げてここへ来たんですか!!」
「この私に大して随分な言い草だなマティアス・クンツェル」
「いくら殿下だろうと、大切な妹を傷付けた者は許せないんですよ」

 そんな言い合いをするマティアスとロドルフを後ろから立って眺めている護衛の騎士達の顔は、なんとも言えない微妙な顔をしていた。

 ロドルフの所業は承知しているが、一応は仕えている主だから守るのは当然。だが、騎士仲間であるマティアスの気持ちも分かるので下手に口を挟めない。

(まさに地獄絵図ね…)

 そんな中、口を開いたのは当主である父。

「二人とも落ち着きなさい」

 低く落ち着いた透き通る声で言うが、その表情は周りが凍りつく程のいい笑顔。

 流石は文官。
 常日頃、苦情や文句を言うの者を言い負かせているだけの事はある。

「それで?殿下はどういったご要件でしょうか?来られる理由は何一つありませんよね?」
「…………」

 笑顔の父に睨まれたロドルフは青い顔で俯いている。

 その様子に、今この場にいる全員が思った──……

「こっえぇぇぇぇ」
「──!?」

 リーゼの背後から声がかかり、勢いよく振り返るといつの間にかシンが一緒になって覗き込んでいた。

「お嬢さんの親父さん、見かけによらずおっかないねぇ」
「あ、貴方いつから──!?」
「しっ!!気付かれちゃうよ」

 指で口を押えられ、慌てて口を詰むんだ。

「リーゼに─…」
「リーゼ?婚約者でもない令嬢を敬称なしとは…育ちが見えますな」

 父に苦言を呈され、グッと言葉に詰まっている。

 同じ空間にいる者からすれば、居た堪れない気持ちなんだろうが、遠目から覗いているこちからすれば『いい気味』としか思えない。

「り、リーゼ嬢を裏切ってしまったことは申し訳ないと思ってる…」
「申し訳ないからと言って、贈り物で誤魔化そうとしているんですか?」
「そんなんでは無い!!私は、本当に悪いと思って!!」
「それが要らぬお世話だと言っているんです」

 鋭い言葉で言い切られ、ロドルフは黙るしかなかった。

「娘はすでにウィルフレッド団長との婚約が成立しています。貴方とは違い誠実な方です。きっとリーゼを幸せにしてくれるでしょう。一方で貴方はどうです?」

 ロドルフは分かりやすく動揺し始めた。

「公の場で婚約破棄を宣言し、望み通りに愛する者と婚約できたじゃありませんか。例え出来の悪い令嬢だとしても、娘を捨ててまで一緒になりたかった者なのでしょう?」

 淡々と話しているが、娘を傷付けられた事に相当怒っている事がよく分かる。

「…娘は貴方の飾りでも道具でもありません。今更、会いに来られても迷惑なだけです。それに、こんな所に来ている場合では無いのは貴方も承知しているはず」

 ロドルフはワナワナと握っている拳が震えている。

「少しは周りの事に目を向けなさい。今貴方がする事はなんなのか、それが分からないのなら王子としては失格です」

 はっきりと言い切ると、その場がシーンと静まりかえった。

 少しの静粛の後、勢い良くロドルフが席を立ち振り返りもせず、足早に部屋を出て行った。

 完全に父の独壇場で終了した。

 リーゼは気付かれる前に部屋へと戻り、盛大な溜息と共にベッドに体を埋めた。

「いやぁ、見事な言い負かし方だったね」
「あんな怒ってるお父様見たのは久しぶりだわ」

 本当、自分の為に怒ってくれる者がいるだけで救われる。それが自身の家族となると、尚更嬉しく思える。

「君達兄妹は完全に父親似だね」
「どう言う意味?」

 納得するように言われるが、褒めているのか貶しているのかよく分からない。

「しかしまあ、相手が相手だからねぇ。あれぐらいじゃへこたれないでしょ」
「あれぐらいって…結構、抉られたと思うけど?」

 娘の私でもあれだけ言われたら、しばらく再起不能になるレベルだ。

「どうかなぁ?僕が見る限り、言い負かされて逃げ帰ったと言うより、苛立ちの限界が来て帰った風に見えたけど」

 そう言われればそう見えないことも無い。
 プライドが高い分、ボロくそ言われた挙句に逃げ帰ったと思われたくない節もあるが…

「主が留守の今の内に丸め込もうとしたんだろうけど、思わぬ伏兵がいたって訳だね」

 うちの父がこういう人だと言うことは、城内では有名だ。丸腰でやってくるあたり、父の事も知らなかったんだろう。周りの事に目を向けていない証拠だ。

(…大丈夫か、この国…?)

 本気で心配になってきた。

「ああ、そう言えば預かってるよ」

 シンの手には一枚の封筒が握られていた。

 すぐにウィルフレッドからのものだと分かり、奪い取るようにして取ると、ゆっくりと封を開けた。

 中には一枚の便箋と共に、紫色の綺麗な押花が添えられていた。
 便箋には怪我もなく過ごしている事と、思っていたより手こずっている旨が書かれていた。

 それと一緒に、ロドルフに気をつけろとも…

(既に処理済みなんだが?)

 まさか、連絡が来るよりも先にやって来ているとはウィルフレッドも思っていないだろう。

 苦笑いを浮かべつつ読み進め、最後に

『リーゼ、愛してる。心から─』

 そう綴られていた。

 初めて手紙を読んで泣きそうになった。

 誤魔化すように便箋を強く握り顔を埋めるが、シンは黙って窓の外を見ている。きっと、シンなりの気遣いなんだろう。
 リーゼは気持ちを落ち着かせるように深呼吸してから、顔を上げた。

「届けてくれてありがとう」
「どういたしまして」

 互いに微笑み合った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...