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(くそッ、くそッ、くそッ!!)
ロドルフは苛立ちながら城の中を闊歩している。
叔父であるウィルフレッドが不在の今なら、容易くリーゼに会うことが出来ると思っていたのに、会うどころか蔑まされ逃げ帰ってくるという始末。
(私は王子だぞ!!なんなんだ、あの態度は!!)
先程受けた屈辱を思い出し、ギリッと歯を食いしばった。
「アリアナいるか?」
ロドルフが向かった先は、自身の婚約者であるアリアナの所。この苛立ちをアリアナに収めてもらおうと思ったのだ。
「あら、ロドルフ様。いかがなさったのです?」
アリアナは大きなつばのついた帽子を被っており、明らかにどこかへ行く装いだった。傍らに旅行鞄まであれば尚更だ。
ロドルフは眉間に皺を寄せ、面白くなさそうに問いかけた。
「…どこか行くのか?」
「ええ、聞くところによると今ウィルフレッド様は戦地に赴いているらしいじゃないですか」
「そうだが…それがどうしたと言うんだ?」
「戦地となれば心身ともにお疲れのはず…わたくしが直接赴き、癒して差し上げようと思いまして」
「なッ!!」
ニッコリと頬を染め、自分が聖女になったかの言いぐさだった。
当然、そんな事許されるはずがない。ロドルフがすぐに噛みついた。
「何を言っているんだ!!戦地だぞ!!分かっているのか!?」
「勿論承知しておりますわ。分かった上で申し上げておりますの」
「妃教育はどうする!!」
「あら、わたくしが何も知らないとお思い?リーゼ様を正妃に迎えようとしている事、知っておりますのよ?」
「そ、それは、表向きその方が都合がいいと言うか……し、しかし、私が愛しているのはお前だけだと断言しよう!!」
「ふふっ、そんな事分かっておりますわ」
必死なロドルフを嘲笑うかのような態度で、言い返してくる。
「……まさかと思うが、お前も叔父上に乗り換えようとしてるんじゃないんだろうな……?」
考えたくないが、自然と口から出てしまった。
ロドルフは険しい顔で睨みつけているが、アリアナは「何を…」と呆れるように溜息を吐くと、ロドルフの首に腕を回してきた。
「わたくしが愛しているのもロドルフ様ただ一人。今回ウィルフレッド様の元へ行くのは、貴方の為でもあるのですよ?」
「私?」
「そうですわ。悲しい事に、今だわたくし達の結婚を良く思わない者が多いのが事実。そこで、わたくしが戦地へ赴き騎士達の疲れた身体を癒して差し上げれば、世間からの印象が少しは変わるかもしれません」
アリアナの意見を聞いたロドルフは目を見開いて驚いていた。
「お、お前は、私の為に危険を冒してまで……」
「わたくしにはこのぐらいしかできませんから」
困ったように微笑むアリアナをロドルフは勢いよく長椅子に押し倒し、その唇に口付けた。
「少しでも疑ってすまなかった。すべては不甲斐ない私のせいだな」
「そんなことありませんわ。ロドルフ様は素敵な方ですもの」
「ッ!!アリアナ!!」
食らいつくように口付けるロドルフを、アリアナは目を細めながら見つめていた。
(本当、馬鹿な奴……)
❊❊❊
アリアナは田舎の子爵令嬢として生まれた。
屋敷と呼ぶには小さな家に両親と三人で暮らしていた。使用人なんて雇う金もなく、身の回りの事は自分でやるのが当たり前の日常だった。
周りは山と畑ばかりで自然豊かな土地だと言えば聞こえはいいが、辺鄙な集村だった。
娯楽と言えば川へ行って水浴びをしたり山の中を駆け巡ることぐらいだった。だが、アリアナはこの土地から出たことがなく、この日常が普通だと思っていた。
特に不満もなく毎日を過ごしていたが、ある日、父が王都で絵本を買って来た。
それがアリアナの運命を変えた──
その絵本は、美しいお姫様と格好の良い王子様の話だった。
一瞬で心を奪われたアリアナは、暇さえあれば絵本を開いては何時間も眺めていることが増えた。両親は少し心配したが、絵本を気に入ってくれた事は嬉しいし、今から本を読むのに慣れておくのはいい事だと、咎めることはしなかった。
綺麗なドレスに真白な肌のお姫様。傍に寄り添う王子様も、優しくてかっこいい。いつしか自分もこんな風になりたい。そう思った。─…思ってしまった。
一度そう思ってしまえば、この土地に不満が出てくるのは当然な事。
成人を迎えると、両親の止める言葉を無視してすぐに王都へと向かった。
初めて見た王都は人が多くて、皆がキラキラしていた。そんな時出会ったのが、警備の為に街に来ていたウィルフレッドだった。
絵本の中の王子様のようなウィルフレッドに目が奪われ、茫然としていると「どうした?」と声を掛けられた。
「え、あ、あの─」
突然の事で言葉が出てこず、狼狽えていると「迷子か?」と言われた。
あのような田舎では食べる物も限られており、栄養が足りていない分成長はゆっくりだ。
周りの女性達に比べて見劣りするだろうが、これでも成人を越えているとは言えず、恥ずかしさのあまりその場から逃げるように立ち去った。
その後は、どうにか王子であるロドルフに取り入る事ができた。婚約者がいたのは誤算だったが、そんなものは奪えばいい。
アリアナの目論見通り、ロドルフは婚約者であるリーゼと婚約を破棄すると宣言してくれた。
これですべて上手くいく。あの絵本のように美しく華やかな生活が待っている。
そう思っていたのに―
(あの女…!!)
あろうことかウィルフレッドと婚約を結んだのだ。
よく聞けば、ウィルフレッドは現国王の弟と言うじゃないか。アリアナはその事実を知って唇に血が滲むほど噛みしめた。
王都に出てきたのは美しくて綺麗なお姫様になる為。絵本の通り、王子様と結婚しなければと思い込んでいたが、それは別に相手がロドルフじゃなくてもいいと気が付いた。
「私はお姫様のように大切にされたいのよ」
そう、リーゼがウィルフレッドにされている様に……
ロドルフは苛立ちながら城の中を闊歩している。
叔父であるウィルフレッドが不在の今なら、容易くリーゼに会うことが出来ると思っていたのに、会うどころか蔑まされ逃げ帰ってくるという始末。
(私は王子だぞ!!なんなんだ、あの態度は!!)
先程受けた屈辱を思い出し、ギリッと歯を食いしばった。
「アリアナいるか?」
ロドルフが向かった先は、自身の婚約者であるアリアナの所。この苛立ちをアリアナに収めてもらおうと思ったのだ。
「あら、ロドルフ様。いかがなさったのです?」
アリアナは大きなつばのついた帽子を被っており、明らかにどこかへ行く装いだった。傍らに旅行鞄まであれば尚更だ。
ロドルフは眉間に皺を寄せ、面白くなさそうに問いかけた。
「…どこか行くのか?」
「ええ、聞くところによると今ウィルフレッド様は戦地に赴いているらしいじゃないですか」
「そうだが…それがどうしたと言うんだ?」
「戦地となれば心身ともにお疲れのはず…わたくしが直接赴き、癒して差し上げようと思いまして」
「なッ!!」
ニッコリと頬を染め、自分が聖女になったかの言いぐさだった。
当然、そんな事許されるはずがない。ロドルフがすぐに噛みついた。
「何を言っているんだ!!戦地だぞ!!分かっているのか!?」
「勿論承知しておりますわ。分かった上で申し上げておりますの」
「妃教育はどうする!!」
「あら、わたくしが何も知らないとお思い?リーゼ様を正妃に迎えようとしている事、知っておりますのよ?」
「そ、それは、表向きその方が都合がいいと言うか……し、しかし、私が愛しているのはお前だけだと断言しよう!!」
「ふふっ、そんな事分かっておりますわ」
必死なロドルフを嘲笑うかのような態度で、言い返してくる。
「……まさかと思うが、お前も叔父上に乗り換えようとしてるんじゃないんだろうな……?」
考えたくないが、自然と口から出てしまった。
ロドルフは険しい顔で睨みつけているが、アリアナは「何を…」と呆れるように溜息を吐くと、ロドルフの首に腕を回してきた。
「わたくしが愛しているのもロドルフ様ただ一人。今回ウィルフレッド様の元へ行くのは、貴方の為でもあるのですよ?」
「私?」
「そうですわ。悲しい事に、今だわたくし達の結婚を良く思わない者が多いのが事実。そこで、わたくしが戦地へ赴き騎士達の疲れた身体を癒して差し上げれば、世間からの印象が少しは変わるかもしれません」
アリアナの意見を聞いたロドルフは目を見開いて驚いていた。
「お、お前は、私の為に危険を冒してまで……」
「わたくしにはこのぐらいしかできませんから」
困ったように微笑むアリアナをロドルフは勢いよく長椅子に押し倒し、その唇に口付けた。
「少しでも疑ってすまなかった。すべては不甲斐ない私のせいだな」
「そんなことありませんわ。ロドルフ様は素敵な方ですもの」
「ッ!!アリアナ!!」
食らいつくように口付けるロドルフを、アリアナは目を細めながら見つめていた。
(本当、馬鹿な奴……)
❊❊❊
アリアナは田舎の子爵令嬢として生まれた。
屋敷と呼ぶには小さな家に両親と三人で暮らしていた。使用人なんて雇う金もなく、身の回りの事は自分でやるのが当たり前の日常だった。
周りは山と畑ばかりで自然豊かな土地だと言えば聞こえはいいが、辺鄙な集村だった。
娯楽と言えば川へ行って水浴びをしたり山の中を駆け巡ることぐらいだった。だが、アリアナはこの土地から出たことがなく、この日常が普通だと思っていた。
特に不満もなく毎日を過ごしていたが、ある日、父が王都で絵本を買って来た。
それがアリアナの運命を変えた──
その絵本は、美しいお姫様と格好の良い王子様の話だった。
一瞬で心を奪われたアリアナは、暇さえあれば絵本を開いては何時間も眺めていることが増えた。両親は少し心配したが、絵本を気に入ってくれた事は嬉しいし、今から本を読むのに慣れておくのはいい事だと、咎めることはしなかった。
綺麗なドレスに真白な肌のお姫様。傍に寄り添う王子様も、優しくてかっこいい。いつしか自分もこんな風になりたい。そう思った。─…思ってしまった。
一度そう思ってしまえば、この土地に不満が出てくるのは当然な事。
成人を迎えると、両親の止める言葉を無視してすぐに王都へと向かった。
初めて見た王都は人が多くて、皆がキラキラしていた。そんな時出会ったのが、警備の為に街に来ていたウィルフレッドだった。
絵本の中の王子様のようなウィルフレッドに目が奪われ、茫然としていると「どうした?」と声を掛けられた。
「え、あ、あの─」
突然の事で言葉が出てこず、狼狽えていると「迷子か?」と言われた。
あのような田舎では食べる物も限られており、栄養が足りていない分成長はゆっくりだ。
周りの女性達に比べて見劣りするだろうが、これでも成人を越えているとは言えず、恥ずかしさのあまりその場から逃げるように立ち去った。
その後は、どうにか王子であるロドルフに取り入る事ができた。婚約者がいたのは誤算だったが、そんなものは奪えばいい。
アリアナの目論見通り、ロドルフは婚約者であるリーゼと婚約を破棄すると宣言してくれた。
これですべて上手くいく。あの絵本のように美しく華やかな生活が待っている。
そう思っていたのに―
(あの女…!!)
あろうことかウィルフレッドと婚約を結んだのだ。
よく聞けば、ウィルフレッドは現国王の弟と言うじゃないか。アリアナはその事実を知って唇に血が滲むほど噛みしめた。
王都に出てきたのは美しくて綺麗なお姫様になる為。絵本の通り、王子様と結婚しなければと思い込んでいたが、それは別に相手がロドルフじゃなくてもいいと気が付いた。
「私はお姫様のように大切にされたいのよ」
そう、リーゼがウィルフレッドにされている様に……
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