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満月の夜の訪問者
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「あはははは!!国王の頭を悩ますとは、そなたは大物じゃな!!」
「笑い事じゃないんですけど?」
ある日、リディアはバスケット片手にレウルェの元を訪れていた。
「誰のせいでこんな事になってると思ってんの?」
「まあ、そんなに目くじらを立てるな。最初から言うておろう?我が相手なってやると」
「全力でお断りします」
肘を付いて寝そべりながら何とも愉し気な顔をしている。リディアはそんなレウルェの言葉を迷うことなく一刀両断してやった。
精霊との子供なんて、知られたら大騒ぎになる。それこそ、誘拐の類の犯罪に巻き込まれるのが目に見えている。
「時に、リディアよ。その手に持っておるのはなんじゃ?」
「ああ、忘れるところだった」
レウルェが指したのは、リディアが手にしていたバスケット。
バスケットの中にはマックス渾身のサンドイッチ。ポットの中には温かいスープが入ってる。
精霊に会うのに手ぶらではなぁ…という事で、朝からマックスにお願いしてみた。
レウルェはサンドイッチを見たことがないのか、手に取って不思議そうに見ていた。その様子に、リディアはある疑問が脳裏に浮かんだ。
(精霊は物を食べるのか?)
そこまでは考えてなかったが、まあ、口があるんだ。食べれべないことは無いだろうと言う結論に至り、食べ物だと伝えた。食べる仕草を見せて教えてやると、恐る恐る口に運んだ。
一口かじると「美味い」と目を輝かせて顔を綻ばせている。
ホッとしながらポットの中のスープもカップに移し、自分もサンドイッチを頬張った。
暫しの至福の時間。お腹が満たされればそれだけで幸せになれるんだから安いものだな。と自嘲した。
「しかし、四の五の言っておる場合でもなかろう?そろそろ身体が限界ではないのか?」
「ッ!!」
唐突に変なことを言われ、変なところにパンが入り咽た。
ゴホゴホッと涙目になりながら咽ているリディアを横目に、レウルェは冷静に「図星か」と呟きながらスープを口に運んでいた。
元はと言えばあんたのせいでしょ!!と苦しみながら目で訴えるが、素知らぬ顔。
「まあ、よく一年も我慢したものじゃ。男だったら狂っていてもおかしくないぞ?」
なんて笑いながら言う精霊なんて、精霊じゃないわ。悪魔だ。みんなが精霊だと言い張っても私は絶対に信じない!!
「いいわよ。そんな事、言う奴にはもうサンドイッチ持って来てあげない」
手にしていたサンドイッチを奪いながら、バスケットに入れて片付け始めると慌てたように止めてきた。
「嘘じゃ嘘!!リディアはようできた娘じゃ!!」
なんともチョロい精霊様だ事。リディアはクスクス笑いながサンドイッチを出してやり、嬉しそうに頬張るレウルェを眺めていた。
***
「………ん…………」
身体が……焼けるように熱い……
屋敷の者が寝静まり静寂に包まれた暗闇の中、リディアは熱くなる身体を抑え込むようにベッドの中で堪え忍んでいた。
(油断した……今日は満月か……)
窓から空を眺めてみれば、大きく輝いている満月が視界に入ってくる。寝衣は汗でぐっしょりと濡れていて、肌に張り付いてきて気持ち悪い。
(朝まであと、数時間……)
それまで自制心を保たねばならない。この屋敷に異性は三人。爺やとマックス、それにイェンス。万が一でも、この三人だけは絶対に手は出してはいけない。ましてや爺やなんて、色んな意味で致命傷になりかねない。
何とか、意識をしっかり持っていなければ……そう思いながら唇を噛みしめた。強く噛めば痛みで気が逸れる。血が滲もうが関係ない。
カタンッ
部屋の中で物音がして、リディアの肩が震えた。
「………ふー…ふー…………」
息を荒くしながら、少しだけ顔を出してみた。
すると、窓枠に足を掛けた男の姿があった。黒装束に真黒の髪。琥珀色の瞳に口元は黒い布で覆われている。完全に不審者。
男はリディアと目が合うと「チッ」と小さく舌打ちをして、外に逃げようとした。
──ガシッ
リディアは無意識のうちに男の服を掴んでいた。
「お願い……助けて……」
潤んだ目で訴えた。
目の前に男が飛び込んで来たらそりゃ、飛んで火にいる夏の虫状態。縋る相手が不審者と言う点を除けば……
「は?」
当然、男は困惑。……というより酷く怪訝な顔をして警戒しまくりの状態。まあ、何かを盗みに入ったら発情した女に助けろとせがまれれば、警戒しない方がおかしい。
「お前、薬を盛られたのか?」
「そんな……可愛いもんじゃない……」
「薬じゃないって、一体…」
精霊の仕業ですなんて言った所で信じてもらえる気がしない。
「何でもいいから……助けて……熱くて死にそう……」
「お願い…」と懇願した。自分でも初めて会った男に言う事じゃないと分かっているが、そんな事すらもどうでもいい。
男はリディアの必死なお願いに「クソッ」と頭を掻くと、乱暴に押し倒した。
「熱を抑えるだけだぞ?」
そう言いながら口元を覆っていた布を剝ぎ取った。耳に付けた大振りなピアスに月の明かりが反射して、キラキラと揺れている。
(綺麗…)
一瞬だけ気が逸れたが、すぐに熱がぶり返してくる。もうなんでもいいから早くしてくれと頷けば、唇を貪るようにキスをされた。ファーストキスが乱暴で荒々しいキスなんて嫌なはずなのに、もっと欲しいと強請ってしまう。
「は、随分と強欲なお嬢さんだ」
見せつけるかのように濡れた唇を舌で舐めとる。先ほどより胸の鼓動が煩い。
(これは、そう、治療の一環…)
そう自分に言い聞かせて、覆いかぶさる男の背中に手を回した。
「笑い事じゃないんですけど?」
ある日、リディアはバスケット片手にレウルェの元を訪れていた。
「誰のせいでこんな事になってると思ってんの?」
「まあ、そんなに目くじらを立てるな。最初から言うておろう?我が相手なってやると」
「全力でお断りします」
肘を付いて寝そべりながら何とも愉し気な顔をしている。リディアはそんなレウルェの言葉を迷うことなく一刀両断してやった。
精霊との子供なんて、知られたら大騒ぎになる。それこそ、誘拐の類の犯罪に巻き込まれるのが目に見えている。
「時に、リディアよ。その手に持っておるのはなんじゃ?」
「ああ、忘れるところだった」
レウルェが指したのは、リディアが手にしていたバスケット。
バスケットの中にはマックス渾身のサンドイッチ。ポットの中には温かいスープが入ってる。
精霊に会うのに手ぶらではなぁ…という事で、朝からマックスにお願いしてみた。
レウルェはサンドイッチを見たことがないのか、手に取って不思議そうに見ていた。その様子に、リディアはある疑問が脳裏に浮かんだ。
(精霊は物を食べるのか?)
そこまでは考えてなかったが、まあ、口があるんだ。食べれべないことは無いだろうと言う結論に至り、食べ物だと伝えた。食べる仕草を見せて教えてやると、恐る恐る口に運んだ。
一口かじると「美味い」と目を輝かせて顔を綻ばせている。
ホッとしながらポットの中のスープもカップに移し、自分もサンドイッチを頬張った。
暫しの至福の時間。お腹が満たされればそれだけで幸せになれるんだから安いものだな。と自嘲した。
「しかし、四の五の言っておる場合でもなかろう?そろそろ身体が限界ではないのか?」
「ッ!!」
唐突に変なことを言われ、変なところにパンが入り咽た。
ゴホゴホッと涙目になりながら咽ているリディアを横目に、レウルェは冷静に「図星か」と呟きながらスープを口に運んでいた。
元はと言えばあんたのせいでしょ!!と苦しみながら目で訴えるが、素知らぬ顔。
「まあ、よく一年も我慢したものじゃ。男だったら狂っていてもおかしくないぞ?」
なんて笑いながら言う精霊なんて、精霊じゃないわ。悪魔だ。みんなが精霊だと言い張っても私は絶対に信じない!!
「いいわよ。そんな事、言う奴にはもうサンドイッチ持って来てあげない」
手にしていたサンドイッチを奪いながら、バスケットに入れて片付け始めると慌てたように止めてきた。
「嘘じゃ嘘!!リディアはようできた娘じゃ!!」
なんともチョロい精霊様だ事。リディアはクスクス笑いながサンドイッチを出してやり、嬉しそうに頬張るレウルェを眺めていた。
***
「………ん…………」
身体が……焼けるように熱い……
屋敷の者が寝静まり静寂に包まれた暗闇の中、リディアは熱くなる身体を抑え込むようにベッドの中で堪え忍んでいた。
(油断した……今日は満月か……)
窓から空を眺めてみれば、大きく輝いている満月が視界に入ってくる。寝衣は汗でぐっしょりと濡れていて、肌に張り付いてきて気持ち悪い。
(朝まであと、数時間……)
それまで自制心を保たねばならない。この屋敷に異性は三人。爺やとマックス、それにイェンス。万が一でも、この三人だけは絶対に手は出してはいけない。ましてや爺やなんて、色んな意味で致命傷になりかねない。
何とか、意識をしっかり持っていなければ……そう思いながら唇を噛みしめた。強く噛めば痛みで気が逸れる。血が滲もうが関係ない。
カタンッ
部屋の中で物音がして、リディアの肩が震えた。
「………ふー…ふー…………」
息を荒くしながら、少しだけ顔を出してみた。
すると、窓枠に足を掛けた男の姿があった。黒装束に真黒の髪。琥珀色の瞳に口元は黒い布で覆われている。完全に不審者。
男はリディアと目が合うと「チッ」と小さく舌打ちをして、外に逃げようとした。
──ガシッ
リディアは無意識のうちに男の服を掴んでいた。
「お願い……助けて……」
潤んだ目で訴えた。
目の前に男が飛び込んで来たらそりゃ、飛んで火にいる夏の虫状態。縋る相手が不審者と言う点を除けば……
「は?」
当然、男は困惑。……というより酷く怪訝な顔をして警戒しまくりの状態。まあ、何かを盗みに入ったら発情した女に助けろとせがまれれば、警戒しない方がおかしい。
「お前、薬を盛られたのか?」
「そんな……可愛いもんじゃない……」
「薬じゃないって、一体…」
精霊の仕業ですなんて言った所で信じてもらえる気がしない。
「何でもいいから……助けて……熱くて死にそう……」
「お願い…」と懇願した。自分でも初めて会った男に言う事じゃないと分かっているが、そんな事すらもどうでもいい。
男はリディアの必死なお願いに「クソッ」と頭を掻くと、乱暴に押し倒した。
「熱を抑えるだけだぞ?」
そう言いながら口元を覆っていた布を剝ぎ取った。耳に付けた大振りなピアスに月の明かりが反射して、キラキラと揺れている。
(綺麗…)
一瞬だけ気が逸れたが、すぐに熱がぶり返してくる。もうなんでもいいから早くしてくれと頷けば、唇を貪るようにキスをされた。ファーストキスが乱暴で荒々しいキスなんて嫌なはずなのに、もっと欲しいと強請ってしまう。
「は、随分と強欲なお嬢さんだ」
見せつけるかのように濡れた唇を舌で舐めとる。先ほどより胸の鼓動が煩い。
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