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「あれ?旦那?」
夜遊びを終えたゼノが城へ戻ると、誰もいないはずの屋上に人の気配がある事に気が付き、顔を覗かせた。そこには、片手に酒の入ったグラスを持ったまま空を見上げるユリウスの姿があった。月夜に照らされたユリウスは控えめに言っても魅惑的で、男であるゼノですら息を飲むほどの美しさがある。
「何してんすか?お嬢さんは?」
声をかけるが、ユリウスは黙ったまま恍惚の表情で空を見上げている。
(何かしたな)
何をしたのかなんて野暮なことは聞かないが、ティナの怒り狂っている姿が目に浮かび、苦笑いを浮かべた。
「ああ、ゼノですか」
ようやくゼノの存在に気が付いたユリウスが顔を向けた。
「お嬢さんは?」
「逃げられました」
そう言っているが、その表情はとても明るい。
これまで自分の見た目や肩書きに寄ってくる者ばかりで、初めて追う側になって楽しさもあるのだろう。
「そんなにがっつくと嫌われるよ?」
「ふふっ、もう随分と嫌われてますよ」
表情と言葉が嚙み合ってない。
「嫌よ嫌よも好きのうちと言うではありませんか。嫌われていようと関係ありません」
「お嬢さんは簡単に堕ちるような相手じゃない。これ以上嫌われたら逃げられるよ?」
「おや、私が逃がすとでも?」
振り返ったユリウスの表情は、お世辞にも穏やかとは言い難いものだった。ゼノは面倒な相手に目を付けられたティナを思って、心内にそっと合掌する。
「…あのさぁ、お嬢さんに執着する理由はなに?プロポーズを断られただけって事じゃないでしょ」
腕を組みながらずっと気になっていたことを聞いてみた。ユリウスは目を細めゼノを見たが「ふっ」と小さく息を吐いた。
「それは勿論、私がティナを愛しているからですよ」
なんとも定型文のような言葉が返って来た。そう言う事を聞きたいんじゃないんが、これは話す気はないという意思表示だ。
ゼノは深く溜息を吐いた。
「まあ、それならそれでいいけど、あの女が黙っちゃいないよ?」
「その為の貴方でしょう?」
当然とばかりに言い返してくる。
「だと思ったよ。本当、人使いが荒いんだから」
「感謝してますよ」
そう言いながら、ゼノに酒の入ったグラスを手渡した。そのグラスを受け取ると一気に呷り、ユリウスと向かい合うように地面に座った。
ユリウスは手際よくゼノの空いたグラスに酒を注ぎ、お互いにグラスをかかげて乾杯すると再び酒を呷り始めた。
❊❊❊
ここ最近、一部だが令嬢達のティナを見る目が変ってきている。
数日前まで殺気を帯びた目で見ていたが、最近では関わりたくないという拒絶する目が多い。言わずもがな、ユリウスの影響が出ている証拠だ。
それはユリウス自身も例外ではない。
今まで黄色い声を上げて自分の存在をアピールしていたのに、あからさまに目を逸らし身を隠すように小さくなっている。
まあこれは本当に一部だけで、未だに絡んでくる令嬢もいる。
「貴女ね。ユリウス様とゼノ様を誑かしているという女は」
現に今も絶賛絡まれ中。
「それは語弊がありますね。私がいつあの二人を誑かしたんですか?」
「誑かしていないなら何故、なんの取柄もない貴女を相手しているの!?」
「それは私が一番聞きたいですね」
「ふざけないで!!」
本当の事を言ったつもりだが、ふざけている様に捉えられた。馬鹿の一つ覚えとはよく言ったもので、どの令嬢にも同じような文句を言われ、同じように怒鳴り散らしてくる。
「その辺りになさいな」
頭ごなしに怒鳴っている令嬢を止めるように、落ち着いた声色が聞こえた。
「あ、アンティカ様!!」
「駄目よ?淑女たるもの、いつでも冷静を忘れない事…ね?」
優しく微笑みながら宥められると、毒気が抜けたように大人しくなった。
アンティカ・ベントリー公爵令嬢。才色兼備で、物腰が柔らかく身分を鼻にかけるなんて事もせず、誰に対しても平等な聖女のような人。
そして、ユリウスの婚約者第一候補だった人物。
(ここに来て大本命が現れたか)
アンティカは警戒するティナの元にゆっくりと、微笑みながら歩み寄る。
ティナは知っている。こういういかにも害が無さそうな女の方が厄介で小賢しいという事を。
「お初にお目にかかります。わたくし、アンティカ・ベントリーと申します。一度貴女とはお話してみたかったの」
「ティナ・シファーです。…光栄なお言葉ですが、私には勿体無いです」
お互いに腹の探り合いをしながら、笑顔で挨拶を交わす。
「痛ッ」
握手を交わした瞬間、ティナの掌に痛みが走った。開いて見てみると、刃物で切られたような傷ができており血が流れていた。
「これから宜しくね」
不敵な笑みを浮かべながら、取り巻きの令嬢達と共にその場を去って行く。ティナは「チッ」と小さく舌打ちし、手当するために医務室へと急いだ。
夜遊びを終えたゼノが城へ戻ると、誰もいないはずの屋上に人の気配がある事に気が付き、顔を覗かせた。そこには、片手に酒の入ったグラスを持ったまま空を見上げるユリウスの姿があった。月夜に照らされたユリウスは控えめに言っても魅惑的で、男であるゼノですら息を飲むほどの美しさがある。
「何してんすか?お嬢さんは?」
声をかけるが、ユリウスは黙ったまま恍惚の表情で空を見上げている。
(何かしたな)
何をしたのかなんて野暮なことは聞かないが、ティナの怒り狂っている姿が目に浮かび、苦笑いを浮かべた。
「ああ、ゼノですか」
ようやくゼノの存在に気が付いたユリウスが顔を向けた。
「お嬢さんは?」
「逃げられました」
そう言っているが、その表情はとても明るい。
これまで自分の見た目や肩書きに寄ってくる者ばかりで、初めて追う側になって楽しさもあるのだろう。
「そんなにがっつくと嫌われるよ?」
「ふふっ、もう随分と嫌われてますよ」
表情と言葉が嚙み合ってない。
「嫌よ嫌よも好きのうちと言うではありませんか。嫌われていようと関係ありません」
「お嬢さんは簡単に堕ちるような相手じゃない。これ以上嫌われたら逃げられるよ?」
「おや、私が逃がすとでも?」
振り返ったユリウスの表情は、お世辞にも穏やかとは言い難いものだった。ゼノは面倒な相手に目を付けられたティナを思って、心内にそっと合掌する。
「…あのさぁ、お嬢さんに執着する理由はなに?プロポーズを断られただけって事じゃないでしょ」
腕を組みながらずっと気になっていたことを聞いてみた。ユリウスは目を細めゼノを見たが「ふっ」と小さく息を吐いた。
「それは勿論、私がティナを愛しているからですよ」
なんとも定型文のような言葉が返って来た。そう言う事を聞きたいんじゃないんが、これは話す気はないという意思表示だ。
ゼノは深く溜息を吐いた。
「まあ、それならそれでいいけど、あの女が黙っちゃいないよ?」
「その為の貴方でしょう?」
当然とばかりに言い返してくる。
「だと思ったよ。本当、人使いが荒いんだから」
「感謝してますよ」
そう言いながら、ゼノに酒の入ったグラスを手渡した。そのグラスを受け取ると一気に呷り、ユリウスと向かい合うように地面に座った。
ユリウスは手際よくゼノの空いたグラスに酒を注ぎ、お互いにグラスをかかげて乾杯すると再び酒を呷り始めた。
❊❊❊
ここ最近、一部だが令嬢達のティナを見る目が変ってきている。
数日前まで殺気を帯びた目で見ていたが、最近では関わりたくないという拒絶する目が多い。言わずもがな、ユリウスの影響が出ている証拠だ。
それはユリウス自身も例外ではない。
今まで黄色い声を上げて自分の存在をアピールしていたのに、あからさまに目を逸らし身を隠すように小さくなっている。
まあこれは本当に一部だけで、未だに絡んでくる令嬢もいる。
「貴女ね。ユリウス様とゼノ様を誑かしているという女は」
現に今も絶賛絡まれ中。
「それは語弊がありますね。私がいつあの二人を誑かしたんですか?」
「誑かしていないなら何故、なんの取柄もない貴女を相手しているの!?」
「それは私が一番聞きたいですね」
「ふざけないで!!」
本当の事を言ったつもりだが、ふざけている様に捉えられた。馬鹿の一つ覚えとはよく言ったもので、どの令嬢にも同じような文句を言われ、同じように怒鳴り散らしてくる。
「その辺りになさいな」
頭ごなしに怒鳴っている令嬢を止めるように、落ち着いた声色が聞こえた。
「あ、アンティカ様!!」
「駄目よ?淑女たるもの、いつでも冷静を忘れない事…ね?」
優しく微笑みながら宥められると、毒気が抜けたように大人しくなった。
アンティカ・ベントリー公爵令嬢。才色兼備で、物腰が柔らかく身分を鼻にかけるなんて事もせず、誰に対しても平等な聖女のような人。
そして、ユリウスの婚約者第一候補だった人物。
(ここに来て大本命が現れたか)
アンティカは警戒するティナの元にゆっくりと、微笑みながら歩み寄る。
ティナは知っている。こういういかにも害が無さそうな女の方が厄介で小賢しいという事を。
「お初にお目にかかります。わたくし、アンティカ・ベントリーと申します。一度貴女とはお話してみたかったの」
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お互いに腹の探り合いをしながら、笑顔で挨拶を交わす。
「痛ッ」
握手を交わした瞬間、ティナの掌に痛みが走った。開いて見てみると、刃物で切られたような傷ができており血が流れていた。
「これから宜しくね」
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