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「あら、見つかったの?」
リオネルを連れて帰った際に、リンファが第一声で放った言葉。
「随分と汚れてるじゃない。私に近づけないで頂戴ね」
自分の子が見つかったと言うのに、心配も興味すらもない様子にレオナードの拳に力が籠められる。俺の様子に気が付いた屋敷の者が慌てて腕に抱いているリオネルを預かろうとするが、そのまま部屋へ運んだ。
教会の者らのお陰で顔色も落ち着いている。そっと頭を撫でれると、その温もりが手を伝ってくる。
「良かった」
自分の子でない事は知っている。当たり前だが、彼女と寝た記憶がないのだから子供が出来るはずがない。何か企んでいる事は分かっていたが、幼いリオネルを見捨てる訳にはいかなかった。
小さい手で指を握りしめ、微笑まれたら情だって湧く。
(まさか、5年も音沙汰がないとは思いもしなかったが)
来たら来たで面倒なのでこちらからも連絡しなかったのは、俺の失態だと思っている。実の母と一緒に居たいと言われれば、俺が止める権利はない。
「……お前はどうしたい?」
規則正しい寝息をたてて眠るリオネルに訊ねた。
***
一度城へ戻り、戻ってくると屋敷が随分と騒がしかった。
「嫌だ!!僕はここにいる!!」
「黙りなさい!あんたの母親は私なの!私の言う事を黙って聞けばいいの!」
目を凝らしてみると、リンファがリオネルの手を引き、無理やり馬車へ乗せようとしている所だった。
「何をしている!」
「父様!」
リオネルはレオナードの顔を見ると、リンファの手をすり抜け駆け寄って来た。目には涙を溜めて掴まれていた手首は赤くなっている。
「おかえりなさいませ」
「何をしていたのかと問うたが?」
「あら、自分の子を連れて帰ろうとして何が悪いんです?」
「嫌がる子供を連れて行くのは単なる自己満に過ぎない」
「それは貴方が決める事ではなくてよ?」
リンファは自分の子だからと主張すれば、この場はやり過ごせるとでも思っているのだろう。顔に余裕があるのはそのせいか。まずはそこを崩していくか……
レオナードは胸元から1枚の取り出した。
「何?」
「それをよく読んでみろ」
「!?」
それは養子縁組の審判書。
そこにはしっかりレオナードとリオネルの名が入っていた。そして、許可する印もしっかり入っている。これで、リオネルは正式にレオナードの子となる。
こうなると、リンファは母親なのに母親としての権限が失われる。
「こ、こんなの承知した覚えはありませんわ!」
「貴女の承諾なんていらん」
「私はこの子の母親です!」
「5年も放置していたのにか?」
「それは……」
言い返そうとするが、いい答えが浮かばないのか悔しそうに唇を噛みしめ黙ってしまった。だが、そこは皇女様だ。その身分を存分に発揮した。
「私は皇女です。子供であるリオネルは次期皇帝です。私が良くても父が黙っておりませんわ」
「それも大丈夫だ。陛下からお言葉を預かっている『下賎な血を持つ子など我が皇族に相応しくない』とな」
「そんな……!」
リンファはその場に膝から崩れ落ちた。
どうして、ここまでしてリオネルを欲しがっているのかと言うと、リンファは父である皇帝にも自分の子の父親はレオナードと伝えていた。ここでリオネルだけでも連れて帰れば、父の力でレオナードも自分のものになると考えていた。
だが、そんな事はレオナードにはお見通し。血の繋がっていない証拠を提示し、本当の父の事を伝えておいた。
真実を知った皇帝は怒りを顕にし、すぐに娘であるリンファを連れ戻すように指示を出した。
チラッと向けたレオナードの視線の先には、静かにその時を待つキュラサの兵の姿がある。
「嫌よ!私はレオナード様の妻よ!子供だっているじゃない!やっと親子で暮らせるのよ!?」
この期に及んでリオネルを盾にしようとする。呆れを通り越して憐れに見えてくる。
このままじゃ埒があかないと思ったのか、レオナードが兵の方に向き合い合図を出そうとした。その時、リオネルがリンファの前にたった。
「リオネル……お母さんと一緒に帰りましょう?」
顔を引き攣らせ、子供に縋る姿は痛ましい。
「嫌だよ。あんたなんか母様じゃない」
「は?」
「僕の母様はシャルルだ!お前なんかじゃない!」
「は?」
はっきりとした拒絶。逆に何故、いけると思ったのか不思議になるぐらい。
「そう……あの女がいるからいけないのね」
リオネルの言葉を聞いたリンファは、ブツブツと爪を噛みながらシャルルに対して恨み言を口にしている。このままでは彼女に危害が及ぶだろう。
だが──
「貴方は彼女の事をよく知らんだろうが、彼女は強い」
誰よりも──……
「もっとも、彼女に何かあれば俺は相手が誰だろうと容赦はしない。それだけは覚えておけ」
氷点下まで冷えきった物言いに、リンファもヒュッと息を飲み黙ってしまった。
リオネルを連れて帰った際に、リンファが第一声で放った言葉。
「随分と汚れてるじゃない。私に近づけないで頂戴ね」
自分の子が見つかったと言うのに、心配も興味すらもない様子にレオナードの拳に力が籠められる。俺の様子に気が付いた屋敷の者が慌てて腕に抱いているリオネルを預かろうとするが、そのまま部屋へ運んだ。
教会の者らのお陰で顔色も落ち着いている。そっと頭を撫でれると、その温もりが手を伝ってくる。
「良かった」
自分の子でない事は知っている。当たり前だが、彼女と寝た記憶がないのだから子供が出来るはずがない。何か企んでいる事は分かっていたが、幼いリオネルを見捨てる訳にはいかなかった。
小さい手で指を握りしめ、微笑まれたら情だって湧く。
(まさか、5年も音沙汰がないとは思いもしなかったが)
来たら来たで面倒なのでこちらからも連絡しなかったのは、俺の失態だと思っている。実の母と一緒に居たいと言われれば、俺が止める権利はない。
「……お前はどうしたい?」
規則正しい寝息をたてて眠るリオネルに訊ねた。
***
一度城へ戻り、戻ってくると屋敷が随分と騒がしかった。
「嫌だ!!僕はここにいる!!」
「黙りなさい!あんたの母親は私なの!私の言う事を黙って聞けばいいの!」
目を凝らしてみると、リンファがリオネルの手を引き、無理やり馬車へ乗せようとしている所だった。
「何をしている!」
「父様!」
リオネルはレオナードの顔を見ると、リンファの手をすり抜け駆け寄って来た。目には涙を溜めて掴まれていた手首は赤くなっている。
「おかえりなさいませ」
「何をしていたのかと問うたが?」
「あら、自分の子を連れて帰ろうとして何が悪いんです?」
「嫌がる子供を連れて行くのは単なる自己満に過ぎない」
「それは貴方が決める事ではなくてよ?」
リンファは自分の子だからと主張すれば、この場はやり過ごせるとでも思っているのだろう。顔に余裕があるのはそのせいか。まずはそこを崩していくか……
レオナードは胸元から1枚の取り出した。
「何?」
「それをよく読んでみろ」
「!?」
それは養子縁組の審判書。
そこにはしっかりレオナードとリオネルの名が入っていた。そして、許可する印もしっかり入っている。これで、リオネルは正式にレオナードの子となる。
こうなると、リンファは母親なのに母親としての権限が失われる。
「こ、こんなの承知した覚えはありませんわ!」
「貴女の承諾なんていらん」
「私はこの子の母親です!」
「5年も放置していたのにか?」
「それは……」
言い返そうとするが、いい答えが浮かばないのか悔しそうに唇を噛みしめ黙ってしまった。だが、そこは皇女様だ。その身分を存分に発揮した。
「私は皇女です。子供であるリオネルは次期皇帝です。私が良くても父が黙っておりませんわ」
「それも大丈夫だ。陛下からお言葉を預かっている『下賎な血を持つ子など我が皇族に相応しくない』とな」
「そんな……!」
リンファはその場に膝から崩れ落ちた。
どうして、ここまでしてリオネルを欲しがっているのかと言うと、リンファは父である皇帝にも自分の子の父親はレオナードと伝えていた。ここでリオネルだけでも連れて帰れば、父の力でレオナードも自分のものになると考えていた。
だが、そんな事はレオナードにはお見通し。血の繋がっていない証拠を提示し、本当の父の事を伝えておいた。
真実を知った皇帝は怒りを顕にし、すぐに娘であるリンファを連れ戻すように指示を出した。
チラッと向けたレオナードの視線の先には、静かにその時を待つキュラサの兵の姿がある。
「嫌よ!私はレオナード様の妻よ!子供だっているじゃない!やっと親子で暮らせるのよ!?」
この期に及んでリオネルを盾にしようとする。呆れを通り越して憐れに見えてくる。
このままじゃ埒があかないと思ったのか、レオナードが兵の方に向き合い合図を出そうとした。その時、リオネルがリンファの前にたった。
「リオネル……お母さんと一緒に帰りましょう?」
顔を引き攣らせ、子供に縋る姿は痛ましい。
「嫌だよ。あんたなんか母様じゃない」
「は?」
「僕の母様はシャルルだ!お前なんかじゃない!」
「は?」
はっきりとした拒絶。逆に何故、いけると思ったのか不思議になるぐらい。
「そう……あの女がいるからいけないのね」
リオネルの言葉を聞いたリンファは、ブツブツと爪を噛みながらシャルルに対して恨み言を口にしている。このままでは彼女に危害が及ぶだろう。
だが──
「貴方は彼女の事をよく知らんだろうが、彼女は強い」
誰よりも──……
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