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始動
ep.39
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『蒼ちゃん、待って!』
「ん?」
『いくらだった?私も払う…』
「いや、いいよ。俺が無理に誘ったんだから美愛に出させるわけにはいかないよ」
『でも…』
蒼ちゃんの意見はごもっとも。
私が財布を握りながら戸惑っていると彼が立ち止まってこちらを見ている。
目を細めた優しげな表情で。
「じゃあ、今度さ…コーヒー奢ってよ。
それでチャラ」
『いいけど…』
蒼ちゃんはこういう人だった。
私が奢ってもらうことに抵抗を感じていると、こうやって必ず提案してくる。
気兼ねなく、次も一緒に対等でいれるように。
こういうとこ、好きだったな。
「家どこ?送るよ」
パーキングに止めた車に乗り込むと蒼ちゃんはカーナビをいじりながら聞いてきた。
時刻は午後十時。
今から迎えば十一時前にはマンションに着くだろう。
『ありがと…
三軒茶屋までお願いしていい?』
「了解」
蒼ちゃんは頷いて車を発進させた。
私の好きなヘビーメタルミュージックが流れている。
聞かない人からしたらただの雑音。
元々彼はこういった音楽を聴かない筈。
私の為に曲を入れてくれていたと思うのは自惚れだろうか。
—————
—————
「ここ?」
『うん。ありがとう』
カーナビと私の案内でマンションにたどり着いた。
道が空いていたので思ったよりも早い到着。
ガチャリ、と私はシートベルトを外す。
『あの…また…ね』
「待って、美愛」
私がぎこちなさげに別れを告げて助手席のドアを開こうとしたその時。
蒼ちゃんは私を引き止める。
反射的に振り返った。
すると、彼が私の頬に手を添えて近づいてくる。
一瞬の出来事だった。
額に柔らかい何か触れたような感触がある。
『………
な……なっ…!』
「ここはおあずけね」
柔らかい何かは蒼ちゃんの唇だった。
額にキスされたのだとようやく私は理解する。
彼は私の唇を親指で触れながら妖艶な笑みを浮かべて言った。
普段とのギャップの差に胸が高鳴る。
「連絡先変わってないよね?」
『へ…?
ぁ…ああ、うん。か…変わってない』
「了解。後で連絡する」
『は、はい…』
動揺して思わず敬語になってしまった。
平然としている蒼ちゃんが恨めしい。
あたふたしてる私が馬鹿みたいではないか。
「なんで敬語なんだよ」
『だっ…だって…!
蒼ちゃんが…!』
「待たせた罰だよ」
『か……』
「ん?」
『帰る!』
「おやすみ」
最後まで蒼ちゃんは平静を保っていた。
完璧に揶揄われている。
可笑しそうにコロコロ、笑っていた。
こんな彼は知らない。
これが本来の蒼ちゃんなのかな。
長く交際していた筈だが、初めて見る姿だ。
私は車を降りて彼と別れた。
マンション内部に入り、我が家に帰る。
ふかふかのベッドが目の前に広がる景色に私は我慢出来ず、我が身を投げた。
ふかふかの毛布に包まれ、幸福感に包まれる。
今日は色んなことが起こりすぎて疲れた。
考えることは山積みだが、今は何も考えたくない。
キャパオーバーだ。
その夜、私は辛うじて残っていた体力を振り絞ってお風呂に入った。
布団に入って瞼を閉じたのは零時過ぎ。
なかなか寝付けない夜を過ごした。
絶対に蒼ちゃんのせいだ。
「ん?」
『いくらだった?私も払う…』
「いや、いいよ。俺が無理に誘ったんだから美愛に出させるわけにはいかないよ」
『でも…』
蒼ちゃんの意見はごもっとも。
私が財布を握りながら戸惑っていると彼が立ち止まってこちらを見ている。
目を細めた優しげな表情で。
「じゃあ、今度さ…コーヒー奢ってよ。
それでチャラ」
『いいけど…』
蒼ちゃんはこういう人だった。
私が奢ってもらうことに抵抗を感じていると、こうやって必ず提案してくる。
気兼ねなく、次も一緒に対等でいれるように。
こういうとこ、好きだったな。
「家どこ?送るよ」
パーキングに止めた車に乗り込むと蒼ちゃんはカーナビをいじりながら聞いてきた。
時刻は午後十時。
今から迎えば十一時前にはマンションに着くだろう。
『ありがと…
三軒茶屋までお願いしていい?』
「了解」
蒼ちゃんは頷いて車を発進させた。
私の好きなヘビーメタルミュージックが流れている。
聞かない人からしたらただの雑音。
元々彼はこういった音楽を聴かない筈。
私の為に曲を入れてくれていたと思うのは自惚れだろうか。
—————
—————
「ここ?」
『うん。ありがとう』
カーナビと私の案内でマンションにたどり着いた。
道が空いていたので思ったよりも早い到着。
ガチャリ、と私はシートベルトを外す。
『あの…また…ね』
「待って、美愛」
私がぎこちなさげに別れを告げて助手席のドアを開こうとしたその時。
蒼ちゃんは私を引き止める。
反射的に振り返った。
すると、彼が私の頬に手を添えて近づいてくる。
一瞬の出来事だった。
額に柔らかい何か触れたような感触がある。
『………
な……なっ…!』
「ここはおあずけね」
柔らかい何かは蒼ちゃんの唇だった。
額にキスされたのだとようやく私は理解する。
彼は私の唇を親指で触れながら妖艶な笑みを浮かべて言った。
普段とのギャップの差に胸が高鳴る。
「連絡先変わってないよね?」
『へ…?
ぁ…ああ、うん。か…変わってない』
「了解。後で連絡する」
『は、はい…』
動揺して思わず敬語になってしまった。
平然としている蒼ちゃんが恨めしい。
あたふたしてる私が馬鹿みたいではないか。
「なんで敬語なんだよ」
『だっ…だって…!
蒼ちゃんが…!』
「待たせた罰だよ」
『か……』
「ん?」
『帰る!』
「おやすみ」
最後まで蒼ちゃんは平静を保っていた。
完璧に揶揄われている。
可笑しそうにコロコロ、笑っていた。
こんな彼は知らない。
これが本来の蒼ちゃんなのかな。
長く交際していた筈だが、初めて見る姿だ。
私は車を降りて彼と別れた。
マンション内部に入り、我が家に帰る。
ふかふかのベッドが目の前に広がる景色に私は我慢出来ず、我が身を投げた。
ふかふかの毛布に包まれ、幸福感に包まれる。
今日は色んなことが起こりすぎて疲れた。
考えることは山積みだが、今は何も考えたくない。
キャパオーバーだ。
その夜、私は辛うじて残っていた体力を振り絞ってお風呂に入った。
布団に入って瞼を閉じたのは零時過ぎ。
なかなか寝付けない夜を過ごした。
絶対に蒼ちゃんのせいだ。
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