離した手の温もり

橘 凛子

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来訪

ep.40 来訪

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金曜日。

蒼ちゃんに会ったその翌日から私は仕事に追われていた。

そのおかげか彼のことを考えずに済んでいる。

忙しさに救われていた。

あれから彼からの連絡はない。

会ったその翌日に連絡はきたが、それっきりだ。

どこか蒼ちゃんからの連絡を待ってる自分がいる。

私から連絡をすればいいだけの話なのだが、そこまでの勇気はまだない。

『……は?』

ふと、スマホを見るとチャットアプリから一件通知がきていた。

何気なしに開いたが、その主は蒼ちゃんからだった。

ただ一言、〈コーヒー奢って〉と。

それ以外のメッセージはない。

これはランチに奢れということだろうか?

わかりにくい。

「どうしたの?」
『あ…いえ。なんでもないです』
「そうだ。今日の夜、忘れないでね」
『……?』
「歓迎会」
『あ。
忘れてました』

そういえば今日だった。

相澤さんの言葉でようやく思い出した。

忙しくて頭からすっかり抜けていたみたい。

仕事が終わった後も苦行が待っている。

ため息が漏れそうなのを私はぐっと堪えた。

「仕事終わったら一緒に行こ。場所、知らないでしょ?」
『あ、はい。ありがとうございます』

私は笑顔で頷いて仕事を再開する。

蒼ちゃんのメッセージの返信もせずにお昼までの数時間、私はパソコンの画面と睨めっこし続けた。

今日歓迎会があるということは私は残業をやらせてもらえないだろう。

来週から担当店舗の巡回が何件かある。

今日中にはデスクワークを終わらせたいところ。

やれるとこまではやり切ろう。


pipipipi...


『……!』

お昼を十分程過ぎた頃。

目の前の仕事に集中しすぎて未だパソコンのキーボードをカタカタ鳴らしていた私の意識がスマホの着信音で我に返る。

辺りを見渡すと皆んなランチに出ているのだろう。

人はおらず、ガラリとしている。

最近はいつもこれだ。

仕事スピードが遅いのか、要領が悪いのか皆んなとのランチに出遅れてしまう。

私は鳴り続けるスマホの着信音に相手も見ず、その電話に出た。

《はい》
《あ、美愛?》
《……蒼ちゃん?どうしたの?》

電話の主は蒼ちゃんだった。

機械越しに聞こえる彼の声。

どこかいつも聞いている声と少し違く聞こえる。

《今休憩?》
《あー…うん。そう。
何か用事?》
《メッセージ送ったじゃん。コーヒー奢ってって》
《あー…
わかりにくいよ、あれ》
《出れる?》
《うん。この間のとこでいい?》
《待ってる》

そこで通話は切れた。

私は一旦、目の前の仕事から手を引く。

このままだといつになってもランチにいけない。

また午後にやるとしよう。

私はオフィスを出て蒼ちゃんと再会したあのカフェへ急いだ。

オフィス街の一角にある小さなカフェ。

〝Lumi Café〟と店名に掲げられている。

この時間帯はお昼時なのでそこそこ人はいるが、混雑はしていない。

窓際の席に彼はいた。
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