離した手の温もり

橘 凛子

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衝突

ep.119

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『おわっ…た…』
「お疲れ。結構量あったね」
『菜乃たちのおかげだよ。助かっちゃった』

その日の夜、私は自分のマンションから蒼ちゃんの部屋に移動して一息ついていた。

菜乃と彗くんの協力のおかげで梱包した荷物を全て、この彼の部屋へ移動することが出来た。

あの部屋に残っているのは、処分予定の家具家電だけ。

もう戻ることはないだろう。

引き渡しの際に立ち寄るくらいだ。

菜乃たちは早々に引き上げ、今は蒼ちゃんと二人っきり。

「荷解きはまた休みの日にやろうか」
『うん。蒼ちゃんもありがとう、荷物の運搬とか』
「いや、いいよ。手伝うって言ったでしょ」
『うん』

ソファーに腰掛ける私に蒼ちゃんは紅茶を差し出して、彼も隣に身を沈めた。

少なからず疲れているようで、表情に翳りが窺える。

予定では今日、引っ越すスケジュールではなかったのでこんなに働くとは思っていなかったのだろう。

お互い明日の仕事に支障がなければいいが。

『そういえば…』
「ん?」
『彗くん今日、元気なかったよね。なんか大人しかった』
「ああ…確かに。単純に眠かったんだと思うよ。昼間は彗、寝てる時間だろうし」
『あ、そっか…彗くんに声、かけるべきじゃなかったかな』
「平気でしょ。俺からも謝っとくし」
『ありがとう』

バーの営業は基本夜からなので彗くんのライフスタイルとして、昼間は睡眠に時間を費やしている。

そんな時間に重労働をさせたのは体力的にキツかっただろう。

配慮に欠けていた。

悪いことしちゃったかな。

「来週くらいには家具とか揃うからそれまで我慢してね」
『明日からまた仕事だから全然支障ないよ』
「部屋、余ってるから使っていいからね。デスクワークするのに必要でしょ」
『あ、うん。助かります』

蒼ちゃんの配慮は有り難かった。

テレワークはそんなに多くはないはずだが、持ち帰りの仕事は何度かある筈。

リビングでもそれは出来るのだが、書斎的な部屋があった方が仕事には集中出来る。

「落ち着いたらさ…」
『ん?』
「二人で遠出でもしようか。日帰りで」
『……そうだね。最近、バタバタしてばっかだからゆっくり過ごしたい』

大分先の話にはなると思う。

だけどこういった楽しい予定があると、仕事のモチベーションが上がる。

その日の為に頑張れるというものだ。

これから一週間ほど私達は忙しい日々を過ごすだろう。

仕事に契約していた部屋の引き渡し手続き、そして大物家具家電の処分も仕事の合間にしなくては。

荷物は移動してもやることはまだ残っている。

面倒だが、放置するわけにもいかない。
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