期限付きの聖女

波間柏

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50.静かな、けれど大事な時間

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「これでは足りないか。貴方はどうしたら私だけではなく他の者達に気を許すのか」

 普通なら異性のイケメンの膝にのりお互いの呼吸までわかる距離でいちゃいちゃ場面だろうな。

だけど、私は、私達は。

「気づいていたんですね」

 返事はないけど聞こえないなんてありえない距離だ。

「ふっ、ばっかみたい」

つい笑いがでた。

「ヒイラギ」
「気なんて緩んだらどうなるの? 陰口になっていない悪口や嫌みは分りやすいから楽だよ」

怖いのは。

「笑顔で、優しくされて。中身はどうなのかな?」

見えないモノのが一番怖い。

「誰が貴方に何を言った?」

 触れあっていたおでこは離れ両手首を掴まれ、私を見ろと揺すられた。

「答えろ」

真剣な刺されそうな顔。

「何も」

 掴まれた手首が痛みを訴えるけど感じないと無視をする。

「本当に何もない」
「なら何故」

何故って言われても。

「言ってしまえば、私が、信じられないだけ」

そう。
それしかない。

「そうだな。例えば、陛下が私を処分するようフランネルさんに命じたらどうする?」

 私、こんな意地悪な奴だったんだなぁ。

 今度こそ動きを止めた彼の膝の上から離れることに成功した。距離をとり、つまらない例えをだしちゃいましたとおどければ遮られた。

「なーんて冗談…」
「ヒイラギだ」
「え?」

 被せられたその言葉を疑った。だって、それって。

「陛下が仰ったら理由を伺う。そして撤回してもらえなければ、騎士を辞めるか国を出る事になるだろう」

 ちょっとした意地悪だったのに。フランネルさんが私を選ぶ? 国が一番大切な人が?

「伴侶に決めた時からヒイラギは、私の唯一だ」


嘘だ。

「そんなの信じられない」
「今は信じなくて構わないが、いつかはその肩の力が抜けて欲しいと思う」

 彼は、いつの間にか頭を掻きむしっていた私の両手を握った。

「前にも言ったはずだ。私は、貴方に嘘はつかない」

 涙と鼻水の情けない表情の女が彼の瞳に映ってる。

この見るに無惨な顔は、私だ。

「ゆっくりでいい」

なんで?
いつもどうしてそんなに優しいの?

他人なのに。

 嫌だと首を振る私に構わず彼の言葉は紡がれていく。

「あの夜、マリアージュと言う名の店で得た物を大事そうにしていた貴方をみて抑えがきかなかった。不快な思いをさせてすまなかった」

 何故か気まずそうに目を逸らした。

「あの夜って」
「妹を呼び寄せたと話をしようとした日だ」

ベッドに転がされた日の事か。

「対価で支払う店で得た物をずっと眺めている姿に元の世界への思いの強さを感じ、焦りが苛立ちが出た」

 掴まれた両手は、大きな手に包まれ指が絡まる。指の間に通る太い骨ばった指が自分のではないので変な感じ。

「可笑しいか? 笑って構わない」

 笑いなんてするわけないよ。手元を気にしていたので彼を見るために顔を上げたら、彼は、いつもより雰囲気が柔らかい。

「私が、嫉妬など、しかも人相手ではなく故郷や物に対してなんて」

 ありえないと呟いた彼に、私もまた独り言のように言葉にする。

「最初は何のために生きていると聞かれました。その次の時は、ただ生きるだけだと」

矛盾じゃないかと思った。

「最初は、あまりにも自分の命を軽く考えているように感じ不愉快だった。だが夜会では、ただ生きて私の側にいて欲しいと。実際は、踏み込もうとしなかった結果、酷い有り様だな」

完璧な機械の様に見えたのに。

 今、目の前のフランネルさんは、力を抜いて雑に座り私を見上げる姿がとても人間っぽい。

 緩く引き寄せられ、囁くように言われた。

「苛立つ程、私は貴方が好きだ」

 悔しそうな言い方に笑ってしまった。

「一つ気になる事があって。私に命を分けてくれたのはありがたいけど、フランネルさんの命は寿命は短くなってしまったの?」

ずっと、怖くて。
でも、聞きたくても言えなくて。

「魔力の保持量が多い生物は寿命も長い。あの黄色の素との会話では、おそらく普通の民と変わらない年数は生きられる」

本当に?

「ヒイラギと同じ時を過ごすだろう」

ああ。よかった。

 あ、でも生きる時間を縮めてしまったには変わりないじゃん。顔に出たのかフランネルさんから提案された。

「気に病む必要はない。あまりにも気にするなら何か願いでもきいてもらうか」
「是非っ!」

 フランネルさんは、意気込む私を見てとても楽しそうな声をあげた。





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