気がつけば異世界

蝋梅

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2.此処はどこ? 私は…

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「ここは寒い。ひとまず此方へ来て頂けますか?」

 先頭の一際目立つ銀色の毛の狼もどきに乗った男性に再び話しかけられた。

 いつもの自分なら、もっと年相応の対応ができたと思う。でも私は、この異様な光景と奇妙な場所にいる自分が理解できずに混乱していた。

 ついズルズルと彼らから下がる。そんな私の様子にため息をついた先頭の彼は狼もどきから飛び降り近づいてきた。

 その時、強い風が吹き彼のフードがはずれ彼の顔が露になった。

 歳は、22、3くらいだろうか。その顔は恐ろしく整っているけれど、こめかみから顎にかけて斜めに切られたような深い傷がある。そのせいか若そうなのに貫禄というか、圧が。ふと腰に目がいく。そこには剣。いかにも実用的な感じに見える。

怖い。

ただそれだけ。

 私は、目の前に迫ってきた彼から無駄だと分かってはいても無意識に逃れようと、震える膝を立ち上がらせた。

「あっ」

 立ち上がった拍子にオルゴールが膝から落ち中央へ転がっていった。蓋が開き音が流れる。すると中央の辺りから銀のキラキラした粉雪のようなものが現れた。それは徐々に勢いを増し吹き出した。

私めがけて。

「つっ!」

 風と共にまとわりつくそれで、息ができない。

立っていられなくよろめいた時。

『懐かしい音、懐かしい欠片』

声が聞こえた。

男とも女とも分からない声。

『異界の者、そなたを歓迎しょう』

異界の者って私のこと…?

 その直後、吹雪のようになり光も増し、それは熱さが加わり更に私の周りを回り始めた。

「熱いっ」

 意識が飛ぶ瞬間見えたのは、整った顔に驚愕の表情を浮かべた青年だった。




***



ふいに目が覚めた。

 いつも寝ているのとは違う枕の感触に違和感を感じた。

──私は。

 確か、仕事から帰って部屋で母から叔父からだと言う段ボール箱をもらい、その箱をあけて…!

飛び起きた。

 実際は体が重くて半身しか起き上がらなかったけれど。

「キュー」

 鳴き声がすぐ近くでした。ついビクリと体が震える。

 ついた手に何か柔らかなものが触れた。手の近くには、真っ白な子狐みたいな小さな生き物がいた。私の腕にスリスリしている。

目が合えば瞳はグレーだ。

「クルル」

 その生き物は、甘えるように鳴いた。ここは、あきらかに自分の家じゃない。中を浮いている生き物に青年。不思議な声や銀の粉雪。

 動揺しながらも周囲に目を向けてみた。

 私がいるのは天蓋付きベッドの上である。薄暗い明かりで見えるのは、高そうなアンティークっぽいクローゼットや猫足のテーブルに椅子。飾り棚の上には高級そうな花瓶に生けられた見たことがない花。

 ベッドから恐る恐る出てみた。素足に毛足の長い絨毯が触れる。扉が見えたので、近づこうとふらつく体をなんとか動かす。何故か白い子狐のような子もトコトコついてきた。

 ふと左側の壁に大きな姿見が見え自分の全身が映った。そこには、帰宅した時のストライプのシャツに裾が少し広がる最近買って気に入っているネイビーのスカートが映る。

だだ違っていたのは、私。

 染めるのが面倒で、かといって重く見えるからと最近緩くパーマをかけた肩迄の髪は、腰まで伸び、私の顔は…高校生の時のような顔になっていた。

 気づけば、私は悲鳴というのを初めてあげていた。

「大丈夫だから落ち着いて」

いつからいたのか、いつからなのか。私は、誰かに抱き締められていた。琥珀色の瞳と目が合う。それはトロリとした温かさが混じる色だ。

気を失う前に見た青年だった。

 私の悲鳴はいつしか止んでいた。頬にかさついた肌の感触。無意識に涙を流していたらしい流れるそれを拭ってくれたみたいだった。

「立てますか?」

 彼は、いつの間にか座りこんでいた私をゆっくり立ち上がらせてくれた。

私は、ふらふらして力が入らず、その青年の体のほうに傾き、とっさに触れないよう両手を前に出すと、その手を掴まれ引き寄せられ次の瞬間抱き上げられていた。

 思わず暴れるが、びくともしない。

「後程説明します。今は、まだ夜明けなので眠れないかもしれませんが、貴方の身体は明かに疲弊している為もう少し横になって下さい」

 そう言うと、さっき目覚めたベッドまで運ばれそっと降ろされ、寝かされた。

「彼女の敵ではない」

 彼は、先程から私の側にいてヴーと唸り続けている子狐もどきに声をかけた。

「危害は加えない」

 そう続けて彼が言うと子狐もどきは探るような目をした後、ピタリと唸るのを止めベッドに飛び乗り横になった私の顔の近くで丸くなり目をつぶった。

もしかして言葉がわかるの?

「夜が明け食事が済んだ頃また来ます」

 声にはっとし、彼を見ると既に扉の方へ歩いて行きかけていた。扉を開けようとした彼はふいに振り向きこちらを見た。

「まだ名乗っていませんでした。私は、ラジウス・ジル・ノーアと申します」

私は半身を起こした。

「私は、芹沢  ゆらと申します」

「セリ、ザ、ユ?」


名前が先なのかな。


「名前はゆらで、家名が芹沢せりざわです」

「ユラ様ですね。私のことはラジウスとお呼び下さい」

 では、と彼は部屋から出ていった。とたんに部屋の温度が下がった気がした。ポスンと枕に頭を落とす。顔に手が触れた。肌がツルツルだ。

──眠れるわけがない。

ここはどこ? 私はどうしてしまったのだろうか。

 私は両手で顔をおさえ、声が漏れないようきつく口を閉じ泣いた。




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