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11 呪われし王子
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王家の醜聞、なんてものではありませんでした。
「俺が生まれた日、母は俺に呪いをかけた。生涯、笑えなくなる呪いだ」
「し、生涯、笑えなくなる……ッ」
殿下のお言葉を繰り返して、そのまま、私は言葉を失いました。
我が子が生まれた日。
それは、子を持たない私でも理解できるくらいに、特別な日であるはずです。
なのに母親自らが、生まれて間もない我が子に呪いをかけた。そんな話が……。
絶句している私を見て、殿下は表情のない顔のまま、尋ねてきます。
「俺の母親については、知っているか?」
「はい。東の国の方、なのですよね?」
「そうだ。父上が東の国に出向かれた際、そこで見初めた。それなりの格の家の娘だったらしいが、俺もそこまで詳しい話は知らないんだ。何せ母は――」
そうでした。
殿下の母君は、殿下が幼い頃に病でお亡くなりになられていたのでした。
「俺は、母には愛されていなかったのだろう」
「そんな……」
私はまさかと思いました。でも、耳の奥にお母様の声が蘇ってきます。
『本当に、私はあなたが嫌いだったわ』
出しかけた言葉が、そのとき、消えました。
私には殿下のお考えに口を出すことができません。私も同じだから。
「母を早くに亡くし、あとに残ったのは第二王子という立場と、何をやっても笑うことができない自分だけだった。笑うことに見切りをつけたのは、いつだったか」
「殿下……」
殿下は、苦笑すら浮かべられずに、私に向けて語りました。
その声の響きの、何と切ないことでしょう。
出会って間もないのに、私は彼が抱える底なしの孤独を垣間見てしまいました。
「呪いを解くことは、できないのですか……?」
「できない」
殿下は、それをこともなげに断言したのです。
「父上は八方手を尽くして解呪の手段を探してくれたが、東の国に伝わる特別な呪いらしくてな。結局は父上も、俺が十歳になる前に解呪を断念されたよ」
「それでは、殿下が公式の場にあまりお顔をお出しになられないのは……」
「父上からの指示だ。仮にも王族である俺が呪われているなんて、万が一にも周りに知られるワケにはいかないから、俺としてもその方が気が楽だから助かるが」
「…………」
そこまで語り終えた殿下に、私はただ無言を返すことしかできません。
ラングリフ殿下はそれに気づいて、また、言うのです。
「だが別に、俺は自分が不幸だとは思っていないぞ、リリエッタ」
「それは、どうして……?」
「笑えずとも過ごせる場に、身を置いているからさ」
殿下の甲冑に覆われた手が、私の頬をゆっくりと撫でていきます。
「俺は不器用で、剣を振り回すのが精々な男だ。王子なんて立場は分不相応だが、部下は皆、気のいい連中だ。貴族共相手の愛想笑いは父上と兄貴に任せて、俺は自分の好きなことをやればいい。どうだ、不幸でも何でもないだろう?」
そう告げる殿下は、やっぱり表情を変えることはありません。
私には、わかりました。わかってしまいました。
「ラングリフ殿下……」
この人は、本当は笑いたいのです。でも、笑うことができないのです。
誰かと喜びを共有することができても、それを表現することができないのです。
親しい人と笑い合えない人生は、果たして、どれほど辛いものでしょう。
それなのに、この人は自分は不幸ではないと胸を張れるのです。
何て、お強い人。
そして、何て――、悲しい人。
「殿下はずっとそうして、耐え続けてこられたのですね」
私は手を伸ばし、殿下の頬に触れます。
少しだけ硬さを感じる殿方の頬を、私の指先がなぞるように触れていきます。
「リリエッタ」
ラングリフ殿下が、私に問いかけてきます。
「どうして、また泣くんだ? 俺は、またもや何かやらかしたのか?」
私は、泣いていました。
さっきよりももっと涙を溢れさせて、殿下を見上げています。
「いいえ、殿下は何もしておりません。これは苦しみの涙ではありません」
「では、一体……」
「ラングリフ殿下。……これは、殿下の涙です」
「俺の涙……?」
「笑えないと知ったあなたは、泣くまいと決めたのですよね。私は、それを感じました。だから私が泣いています。あなたが泣かない分、私が泣いているのです」
私がそれを告げると、殿下はその瞳を見開かれました。
「俺が生まれた日、母は俺に呪いをかけた。生涯、笑えなくなる呪いだ」
「し、生涯、笑えなくなる……ッ」
殿下のお言葉を繰り返して、そのまま、私は言葉を失いました。
我が子が生まれた日。
それは、子を持たない私でも理解できるくらいに、特別な日であるはずです。
なのに母親自らが、生まれて間もない我が子に呪いをかけた。そんな話が……。
絶句している私を見て、殿下は表情のない顔のまま、尋ねてきます。
「俺の母親については、知っているか?」
「はい。東の国の方、なのですよね?」
「そうだ。父上が東の国に出向かれた際、そこで見初めた。それなりの格の家の娘だったらしいが、俺もそこまで詳しい話は知らないんだ。何せ母は――」
そうでした。
殿下の母君は、殿下が幼い頃に病でお亡くなりになられていたのでした。
「俺は、母には愛されていなかったのだろう」
「そんな……」
私はまさかと思いました。でも、耳の奥にお母様の声が蘇ってきます。
『本当に、私はあなたが嫌いだったわ』
出しかけた言葉が、そのとき、消えました。
私には殿下のお考えに口を出すことができません。私も同じだから。
「母を早くに亡くし、あとに残ったのは第二王子という立場と、何をやっても笑うことができない自分だけだった。笑うことに見切りをつけたのは、いつだったか」
「殿下……」
殿下は、苦笑すら浮かべられずに、私に向けて語りました。
その声の響きの、何と切ないことでしょう。
出会って間もないのに、私は彼が抱える底なしの孤独を垣間見てしまいました。
「呪いを解くことは、できないのですか……?」
「できない」
殿下は、それをこともなげに断言したのです。
「父上は八方手を尽くして解呪の手段を探してくれたが、東の国に伝わる特別な呪いらしくてな。結局は父上も、俺が十歳になる前に解呪を断念されたよ」
「それでは、殿下が公式の場にあまりお顔をお出しになられないのは……」
「父上からの指示だ。仮にも王族である俺が呪われているなんて、万が一にも周りに知られるワケにはいかないから、俺としてもその方が気が楽だから助かるが」
「…………」
そこまで語り終えた殿下に、私はただ無言を返すことしかできません。
ラングリフ殿下はそれに気づいて、また、言うのです。
「だが別に、俺は自分が不幸だとは思っていないぞ、リリエッタ」
「それは、どうして……?」
「笑えずとも過ごせる場に、身を置いているからさ」
殿下の甲冑に覆われた手が、私の頬をゆっくりと撫でていきます。
「俺は不器用で、剣を振り回すのが精々な男だ。王子なんて立場は分不相応だが、部下は皆、気のいい連中だ。貴族共相手の愛想笑いは父上と兄貴に任せて、俺は自分の好きなことをやればいい。どうだ、不幸でも何でもないだろう?」
そう告げる殿下は、やっぱり表情を変えることはありません。
私には、わかりました。わかってしまいました。
「ラングリフ殿下……」
この人は、本当は笑いたいのです。でも、笑うことができないのです。
誰かと喜びを共有することができても、それを表現することができないのです。
親しい人と笑い合えない人生は、果たして、どれほど辛いものでしょう。
それなのに、この人は自分は不幸ではないと胸を張れるのです。
何て、お強い人。
そして、何て――、悲しい人。
「殿下はずっとそうして、耐え続けてこられたのですね」
私は手を伸ばし、殿下の頬に触れます。
少しだけ硬さを感じる殿方の頬を、私の指先がなぞるように触れていきます。
「リリエッタ」
ラングリフ殿下が、私に問いかけてきます。
「どうして、また泣くんだ? 俺は、またもや何かやらかしたのか?」
私は、泣いていました。
さっきよりももっと涙を溢れさせて、殿下を見上げています。
「いいえ、殿下は何もしておりません。これは苦しみの涙ではありません」
「では、一体……」
「ラングリフ殿下。……これは、殿下の涙です」
「俺の涙……?」
「笑えないと知ったあなたは、泣くまいと決めたのですよね。私は、それを感じました。だから私が泣いています。あなたが泣かない分、私が泣いているのです」
私がそれを告げると、殿下はその瞳を見開かれました。
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