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2 貴族の娘は『花』たるべし
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女は出しゃばるものではない。
お父様からは、私と妹が幼い頃からずっとそのように教えられてきました。
女は男を助けるもの。
妻は夫を支えるもの。
貴族の娘はすべからく男達に後ろに付き従い、楚々として笑っているべき。
つまりは『花』であらねばならない。
自らの我を通して思うがままに振る舞うなど、非常に卑しくはしたないことだ。
私と妹は、小さな頃からお父様にそのように教えられて育ちました。
この教えに異を唱える者は、家の中には一人もいません。当然、お母様もです。
それは当たり前でしょう。
侯爵家にあってはお父様こそが、絶対的な君主なのですから。
そして、幼き日の私にとって、家の中が世界の全てでした。
誰かと話すにしても、遊ぶにしても、学ぶにしても、相手は家の中の誰か。
皆がわたしに言いました。お父様の教えを守りなさい、と。
だから、必然的な帰結として、私という人間はお父様の考えに染まりました。
誰よりも気品ある笑顔を身につけろ。
デュッセルの娘に恥じぬ美しさを磨き、国一番の『花』となれ。
お父様の監督のもと、私はずっとずっと笑い続けてきました。
礼儀作法を学び、ダンスを習いながら、笑うことの練習も欠かしませんでした。
全ては、私に与えられた役割を全うするために。
生まれた瞬間から、私は王太子殿下の婚約者となることが決まっていました。
未来の王妃として次代の王の隣に立つこと。
それが、リリエッタ・ミラ・デュッセルに与えられた役割なのです。
「おまえは王を彩る『花』となるために生まれたのだ。リリエッタ」
それもまた、幼い頃から言われ続けてきたこと。
私は、家の道具です。
私の命は家のもの。体も、心も、笑顔さえも、全ての所有権は家にある。
そのことに疑問を覚えたことはありません。
だって私は、国という大きなものを保ち続けるための部品の一つなのですから。
私の所有権が私自身になくても、それは不幸なことではありません。
何故なら、私を所有してくださるのはこの国で最も高貴なるお方なのです。
王太子殿下――、第一王子サミュエル様。
かの方は、容姿端麗にして文武両道。
鮮やかに映える金髪と堂々としたお姿から『金色の獅子』と称されるお方です。
彼は、若くしてすでに陛下に代わって政務の何割かを取り仕切っておられます。
すでに、国に影響する大きな成果を幾つも挙げられておられます。
――次代の名君にして稀代の英傑。
――我が国に新たな繁栄をもたらすお方。
皆、そんな風にしてサミュエル様を称えます。
そして、そのような尊きお方のもとに、私は嫁ぐこととなるのです。
本来であれば、私と殿下の顔合わせはもっと早くに行われるはずでした。
しかし、直前になってお父様がそれを変更したのです。
私を、サミュエル殿下に相応しい淑女として育て上げる。
この理由には陛下も納得せざるを得なかったと聞いています。
それが今から三年前のことでした。
去年、改めて顔合わせが行われる予定になっていましたが再び延期されました。
理由は、殿下の妹君が病によりお亡くなりになられたからです。
これもまた、顔合わせ直前でのことでした。
そうして、私とサミュエル殿下の顔合わせは今まで伸び続けてきたのです。
しかし、王女様がお亡くなりになられて一年が経ち、もうすぐ喪が明けます。
そんなある日のこと。
王都の邸宅で、私はお父様の部屋に呼び出され、こう言われました。
「殿下への御目見えが近い。リリエッタ、私はおまえを殿下の後ろに控えるに足る淑女として育て上げたと自負している。最高の笑顔を作れ。私に恥をかかせるな」
「はい、お父様。わかっておりますわ」
いつも通り、私は作り慣れた笑みを顔に張り付けて、お父様にうなずきました。
それに、お父様も「うむ」とうなずき返してくれました。
まだ当日ではないのに、私の体は緊張に冷たくなっていました。
それでも、私の笑顔が曇ることはありません。
どんな状況であっても私は作った笑顔を保ち続けられる自信があります。
私は花。
デュッセル侯爵家を飾る笑顔が素敵な『花の令嬢』なのですから――。
お父様からは、私と妹が幼い頃からずっとそのように教えられてきました。
女は男を助けるもの。
妻は夫を支えるもの。
貴族の娘はすべからく男達に後ろに付き従い、楚々として笑っているべき。
つまりは『花』であらねばならない。
自らの我を通して思うがままに振る舞うなど、非常に卑しくはしたないことだ。
私と妹は、小さな頃からお父様にそのように教えられて育ちました。
この教えに異を唱える者は、家の中には一人もいません。当然、お母様もです。
それは当たり前でしょう。
侯爵家にあってはお父様こそが、絶対的な君主なのですから。
そして、幼き日の私にとって、家の中が世界の全てでした。
誰かと話すにしても、遊ぶにしても、学ぶにしても、相手は家の中の誰か。
皆がわたしに言いました。お父様の教えを守りなさい、と。
だから、必然的な帰結として、私という人間はお父様の考えに染まりました。
誰よりも気品ある笑顔を身につけろ。
デュッセルの娘に恥じぬ美しさを磨き、国一番の『花』となれ。
お父様の監督のもと、私はずっとずっと笑い続けてきました。
礼儀作法を学び、ダンスを習いながら、笑うことの練習も欠かしませんでした。
全ては、私に与えられた役割を全うするために。
生まれた瞬間から、私は王太子殿下の婚約者となることが決まっていました。
未来の王妃として次代の王の隣に立つこと。
それが、リリエッタ・ミラ・デュッセルに与えられた役割なのです。
「おまえは王を彩る『花』となるために生まれたのだ。リリエッタ」
それもまた、幼い頃から言われ続けてきたこと。
私は、家の道具です。
私の命は家のもの。体も、心も、笑顔さえも、全ての所有権は家にある。
そのことに疑問を覚えたことはありません。
だって私は、国という大きなものを保ち続けるための部品の一つなのですから。
私の所有権が私自身になくても、それは不幸なことではありません。
何故なら、私を所有してくださるのはこの国で最も高貴なるお方なのです。
王太子殿下――、第一王子サミュエル様。
かの方は、容姿端麗にして文武両道。
鮮やかに映える金髪と堂々としたお姿から『金色の獅子』と称されるお方です。
彼は、若くしてすでに陛下に代わって政務の何割かを取り仕切っておられます。
すでに、国に影響する大きな成果を幾つも挙げられておられます。
――次代の名君にして稀代の英傑。
――我が国に新たな繁栄をもたらすお方。
皆、そんな風にしてサミュエル様を称えます。
そして、そのような尊きお方のもとに、私は嫁ぐこととなるのです。
本来であれば、私と殿下の顔合わせはもっと早くに行われるはずでした。
しかし、直前になってお父様がそれを変更したのです。
私を、サミュエル殿下に相応しい淑女として育て上げる。
この理由には陛下も納得せざるを得なかったと聞いています。
それが今から三年前のことでした。
去年、改めて顔合わせが行われる予定になっていましたが再び延期されました。
理由は、殿下の妹君が病によりお亡くなりになられたからです。
これもまた、顔合わせ直前でのことでした。
そうして、私とサミュエル殿下の顔合わせは今まで伸び続けてきたのです。
しかし、王女様がお亡くなりになられて一年が経ち、もうすぐ喪が明けます。
そんなある日のこと。
王都の邸宅で、私はお父様の部屋に呼び出され、こう言われました。
「殿下への御目見えが近い。リリエッタ、私はおまえを殿下の後ろに控えるに足る淑女として育て上げたと自負している。最高の笑顔を作れ。私に恥をかかせるな」
「はい、お父様。わかっておりますわ」
いつも通り、私は作り慣れた笑みを顔に張り付けて、お父様にうなずきました。
それに、お父様も「うむ」とうなずき返してくれました。
まだ当日ではないのに、私の体は緊張に冷たくなっていました。
それでも、私の笑顔が曇ることはありません。
どんな状況であっても私は作った笑顔を保ち続けられる自信があります。
私は花。
デュッセル侯爵家を飾る笑顔が素敵な『花の令嬢』なのですから――。
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