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第1部-ファフニール王国・自由編-
007_買い物
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馬車に揺られ、窓から見える町並みは、リリアの知るスウィフト領とはまるで違っていた。例えるならば、スウィフト領の町が人と人との関わり合いで賑わっているとしたら、ここバーロンド領は商売の町だった。昨日は見られなかった活気あふれた町並みを夢中でリリアは見ていたが、不思議そうなアンの表情に気づいて慌てて窓から離れた。
「珍しいものでもございましたか?」
「あまり外に出たことがなかったから、町がにぎわっているなんて初めてみたの。それに見張りの数も……全然違う」
「きっと統治が行き届いているからでしょう。――着いたようですね。まずはあちらの店から見ていきましょうか」
アンが指し示したのは、一目見て貴族御用達だとわかるほどの店構えで高級そうなドレスがガラス越しに並んでいる。不相応だと首を振るリリア。
「ここはちょっと」
「遠慮されませんよう。オズウェル様からもそう言付かっております」
「……うん」
リリアの気持ちなどお構いなしに馬車はその店の前に止まる。家紋の入った馬車は、昨日乗った馬車よりもさらに立派で、一段と人目を引く。
視線を避けるようにリリアは足早に店へと入った。
「ようこそおいでくださいました」
「本日はどのような衣装をお探しでしょうか」
あっという間に取り囲まれ、慣れていないリリアが困惑していると、代わりにアンが店員たちとの間に入る。どうやら普段着をここで揃えるらしい。
試着の準備をするため店員が離れたすきに、リリアはこっそり訴える。
「本当にここじゃなきゃダメ?」
「気に入りませんか? それでしたら別の店にお連れすることも可能ですが」
とはいえ、アンの口調から察するに、他の店も同程度のものを取り扱っているだろうということは容易に想像できた。
「ここでいい……」
「でしたら遠慮せず。オズウェル様もお喜びになります」
「うん」
「オズウェル様のお客様なのですから、相応の装いをしていただけますと、わたくしどもとしても助かります」
とどめにそう言われると反論できない。リリアが店員が熱心に勧めるドレスを試着しては、アンのお眼鏡にかなったドレスを購入することになった。もちろんアンはリリアの意向を確かめはするのだが、自分で選ぶことをしてこなかったリリアには難しく、代わりにとアンが口添えをする。
そのドレス選びの間にリリアは一つの発見をした。主に似て表情がわかりにくいアンだが、ドレスを選んでいる間はとても楽しそうで、近寄りがたい印象は霧散する。悩みに悩みぬいた結果、リリアはいくつかのドレスを購入し、屋敷に届けるよう手配してから店を出た。
「ほかに何か必要なものはございませんか?」
「うん。大丈夫」
「では馬車に戻りましょう。少し歩きますので、お辛いようでしたらお声かけください」
アンはそういって人ごみの中に進んでいく。リリアがついてきているか時折振り向きながら、商店街を抜けていく。
高級店の並ぶエリアを抜けると、一気に行きかう人の数も増え、左右からは威勢のいい商売人の掛け声が響く。通りかかる人に声をかけているのだろうが、明らかに貴族である恰好をしているリリアは引手数多だった。
「お嬢さん、新鮮な野菜はいかが?」
「甘味もあるよ」
「さ、出来立ての揚げ物、食べていかないかい?」
「ほらほら、お代なんていらないから。その代わり、今度買いに来ておくれよ」
次々差し出される商売魂の中を通り抜けようとするが、たくましい商人たちも諦めを知らない。前の商人がダメでも自分は受け取ってもらって見せる、と言わんばかりに話しかけた。勢いに飲まれかけているリリアに、アンは安心させるように耳打ちする。
「お嬢様、多少受け取っても問題ございませんよ」
「でも、買わないのに……」
「あちらも商人たちですからそれは承知しています。気になるものがございましたら遠慮なさらず」
「うん」
商店街を抜けるほんの少し手前でようやく、黒い実がなった果物、ブラックビーツを受け取る。枝に小さな実がたくさんなっており、馬車に乗ってすぐ、そのうちの一つをもいで口に入れる。甘酸っぱさがくちいっぱいに広がり、リリアは頬を綻ばせた。
「――美味しい。アンも良かったら」
「いえ、わたくしは」
「せっかくだから。一人じゃこんなに食べられないもの」
こんなにおいしい物を独り占めするのはもったいないと、手に持ったブラックビーツを差し出すと、アンは困った素振り。仕事中ですので、と固辞するアンに負けずリリアが口元までもっていくと、戸惑った視線でブラックビーツとリリアを見比べ、少しして遠慮がちに手が伸ばされる。
「では、失礼いたします」
「――美味しいでしょう?」
「ええ。ありがとうございます」
二人で食べればおいしさも倍増、人ごみに疲れたリリアにとっては気分転換にもなった。屋敷までの道のりを外を眺めて過ごしていると、あっという間に屋敷に着く。
そこでアンがリリアの異変に気付いた。
「お嬢様、顔色が」
「大丈夫。少し眩暈が……」
「屋敷まで運ばせましょう」
「ううん歩けるから」
少し収まった、とアンに体を支えられて馬車を降りる。出迎えに来ていたオズウェルに気づいたリリアが、一歩踏み出したところで、体が崩れ落ちる。
「お嬢様!」
「リリア嬢! クロウ、医者を」
倒れかけた体は、伸ばされた腕に受け止められ、必死の呼びかけの中リリアは意識を失った。
「珍しいものでもございましたか?」
「あまり外に出たことがなかったから、町がにぎわっているなんて初めてみたの。それに見張りの数も……全然違う」
「きっと統治が行き届いているからでしょう。――着いたようですね。まずはあちらの店から見ていきましょうか」
アンが指し示したのは、一目見て貴族御用達だとわかるほどの店構えで高級そうなドレスがガラス越しに並んでいる。不相応だと首を振るリリア。
「ここはちょっと」
「遠慮されませんよう。オズウェル様からもそう言付かっております」
「……うん」
リリアの気持ちなどお構いなしに馬車はその店の前に止まる。家紋の入った馬車は、昨日乗った馬車よりもさらに立派で、一段と人目を引く。
視線を避けるようにリリアは足早に店へと入った。
「ようこそおいでくださいました」
「本日はどのような衣装をお探しでしょうか」
あっという間に取り囲まれ、慣れていないリリアが困惑していると、代わりにアンが店員たちとの間に入る。どうやら普段着をここで揃えるらしい。
試着の準備をするため店員が離れたすきに、リリアはこっそり訴える。
「本当にここじゃなきゃダメ?」
「気に入りませんか? それでしたら別の店にお連れすることも可能ですが」
とはいえ、アンの口調から察するに、他の店も同程度のものを取り扱っているだろうということは容易に想像できた。
「ここでいい……」
「でしたら遠慮せず。オズウェル様もお喜びになります」
「うん」
「オズウェル様のお客様なのですから、相応の装いをしていただけますと、わたくしどもとしても助かります」
とどめにそう言われると反論できない。リリアが店員が熱心に勧めるドレスを試着しては、アンのお眼鏡にかなったドレスを購入することになった。もちろんアンはリリアの意向を確かめはするのだが、自分で選ぶことをしてこなかったリリアには難しく、代わりにとアンが口添えをする。
そのドレス選びの間にリリアは一つの発見をした。主に似て表情がわかりにくいアンだが、ドレスを選んでいる間はとても楽しそうで、近寄りがたい印象は霧散する。悩みに悩みぬいた結果、リリアはいくつかのドレスを購入し、屋敷に届けるよう手配してから店を出た。
「ほかに何か必要なものはございませんか?」
「うん。大丈夫」
「では馬車に戻りましょう。少し歩きますので、お辛いようでしたらお声かけください」
アンはそういって人ごみの中に進んでいく。リリアがついてきているか時折振り向きながら、商店街を抜けていく。
高級店の並ぶエリアを抜けると、一気に行きかう人の数も増え、左右からは威勢のいい商売人の掛け声が響く。通りかかる人に声をかけているのだろうが、明らかに貴族である恰好をしているリリアは引手数多だった。
「お嬢さん、新鮮な野菜はいかが?」
「甘味もあるよ」
「さ、出来立ての揚げ物、食べていかないかい?」
「ほらほら、お代なんていらないから。その代わり、今度買いに来ておくれよ」
次々差し出される商売魂の中を通り抜けようとするが、たくましい商人たちも諦めを知らない。前の商人がダメでも自分は受け取ってもらって見せる、と言わんばかりに話しかけた。勢いに飲まれかけているリリアに、アンは安心させるように耳打ちする。
「お嬢様、多少受け取っても問題ございませんよ」
「でも、買わないのに……」
「あちらも商人たちですからそれは承知しています。気になるものがございましたら遠慮なさらず」
「うん」
商店街を抜けるほんの少し手前でようやく、黒い実がなった果物、ブラックビーツを受け取る。枝に小さな実がたくさんなっており、馬車に乗ってすぐ、そのうちの一つをもいで口に入れる。甘酸っぱさがくちいっぱいに広がり、リリアは頬を綻ばせた。
「――美味しい。アンも良かったら」
「いえ、わたくしは」
「せっかくだから。一人じゃこんなに食べられないもの」
こんなにおいしい物を独り占めするのはもったいないと、手に持ったブラックビーツを差し出すと、アンは困った素振り。仕事中ですので、と固辞するアンに負けずリリアが口元までもっていくと、戸惑った視線でブラックビーツとリリアを見比べ、少しして遠慮がちに手が伸ばされる。
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