生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑

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第2部-ファフニール王国・成長編-

037_本音

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 舞踏会が終わって数日、声をかけられた令嬢はいたものの、結局誰も選ばれずに終わった。噂ではレオファルドが気に入る娘はいなかったのだという。
 
 今日もリリアの元へお茶をしに来たカミーユと、連れてこられた形のアンドロメダとでテーブルを囲んでいた。話題は最初、当たり障りのないお菓子から始まり、少し落ち着いたところでカミーユが切り出した。随分と我慢していたのか、少し前のめりで。
 
「リリア様でしょう? 殿下とお話されていたのは」
「真っ先に向かった赤のドレスの方がリリア様?」
 
 カミーユの断定的な言葉に、驚いた様子のアンドロメダ。対照的な二人の視線を受けてリリアは気まずそうに俯く。
 さらにカミーユが畳みかける。
 
「わたくしがリリア様を見間違えるはずがありませんわ」
「リリア様、本当なの?」
 
 否定しても無駄だと悟り、小さく頷いた。まぁ、と二人から声が上がる。
 
「どうして殿下の申し出をお受けにならなかったの?」
「せっかくのチャンスだったのに、もったいない」
「私は……」
「殿下に選ばれるなんて、滅多にないことなのに」
「リリア様はオズウェルに恩を返さなくてはならないのよ」
 
 口々に責められ、口を固く結ぶ。
 
「リリア様、わたくし言ったではありませんか。権力をお持ちの方と一緒になるのが幸せになる方法だと」
「しかも、あなたは選ばれた上で断ったのでしょう。信じられないわ」
「……ごめんなさい」
「悪いと思うなら今からでもお話を受けなさい」
「もったいないですわ、リリア様」
 
 いつになく強い口調に怯みながら、リリアは大きく首を振ってこたえた。
 
「それはできません」
「じゃあわたくしを紹介してください。殿下がどんなかたであっても、この国の妃になれるのなら、どんなことだってしてみせます」
「……カミーユ様、レオ、レオファルド殿下はそんなことを求めてないと」
「あなたが殿下の何を知ってるというの?」
「男性が好きなのは、階級の高い人脈の広いお相手よ。リリア様でいいのなら、わたくしのほうがより当てはまるわ。あなたが殿下の気持ちを断るのなら、推薦してくれないかしら」
 
 最初は困惑していたリリアだが、レオファルドの気持ちを無視した言葉に、少しずつ表情が曇っていく。
 
「レオファルドはあなたのことを好きにはならない」
 
 黙って話を聞いていたリリアだが、思わず本音が口をついて出た。そして、一度口に出すと躊躇いなく続きも出てくる。
 
「殿下のことを権力だと思っている人のことなんて好きにならないかと思います。それに、レオファルドは身分なんて気にしないかと。人の価値観を押し付けないでください」
 
 珍しく強い口調で言い切ったリリア。沈黙が落ちたのは束の間。顔を赤くしたアンドロメダが、苛立った声をあげる。
 
「なんて生意気なの! 自分が選ばれたからって殿下のことを分かったふりしないで!」
 
 続いてカミーユも不機嫌そうに立ち上がる。
 
「あんたなんて、殿下やオズウェル様に近づくための道具に過ぎないの。それなのに断っちゃってバカみたい。それに紹介すらしてくれないなんて、時間を無駄にしたわ」
「え……突然、どうして……」
「友達だと思った? そんなわけないじゃない。利用価値がありそうだったから近づいただけよ」
「待って……!」
「もう二度と話しかけないで。この役立たず」
 
 カミーユはそう言い残して部屋を出ていく。引き留める声にも振り返ることはなかった。戸惑った表情でアンドロメダを振り返ると、こちらも無表情で帰り支度をしていた。
 
「がっかりだわ。簡単に騙されてくれると思ったのに。どうして素直にわたくしの言うとおりにしなかったの?」
「それは」
「そうしてくれていればお友達ごっこを続けてあげていたかもしれないのに」
 
 親しいと思っていたのは自分だけだった。そのショックに、かろうじて言葉を絞り出す。
 
「私のことを、騙していたのですか……」
「人聞きの悪いことをいわないでくれるかしら。あなたが悪いのよ。それじゃあ、二度と話すことはないでしょうけれど、ごきげんよう」
 
 アンドロメダも部屋を出て行くと、リリアは力なく椅子に座り込んだ。
 自分の判断は間違っていたのだろうか。友達を怒らせて、レオファルドを傷つけて。
 答えが見つけられないまま、日が暮れるまでリリアはそのままでいた。
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