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21話
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思い立ったが吉日だと説得し、その日の内にサファルはカジャックと連れだって例の開墾集落跡地へ向かっていた。釣った残りの魚はカジャックが血を洗い、塩水に漬けた後に干していた。
ところでサファルの住むラーザ村から直接そこへ向かうより、カジャックの家から向かうほうがどうやら遠いようだった。
「まぁ、ここは森の奥地だしな」
カジャックがそう言っていたように、確かにカジャックの家はかなり森の深くにある。例えサファルが使っている安全なルートを歩こうがラーザから来るには結構時間がかかることを思えば、どちらにしてもリゼをカジャックの家まで来させるのもサファルとしては少々抵抗があることに今更気づいた。そしてこちらの勝手でしかないのに、遠い上に苦手な人間が何人も住む村の近くまで来てくれるというカジャックには感謝しかない。それを口にするとカジャックは戸惑っているようだった。
まだ目的地へ到着しない内にほんのりと日が暮れてきたため、これ以上進むのはやめて二人は野宿をした。焚き火をする際、カジャックは少し考えてから手をかざし、魔法で火をつける。
「何で考えたんですか」
「普段は火打石でつけてるから」
「……、……から、何ですか?」
「……? ぁあ。つけてるからどうしようかとな。基本的に生活面で魔法は使わないようにしている。だが俺の火なら大した仕込みがなくとも消えずに燃え続く」
ああ、やっぱりなるべく使わないようにはしてるんだ。
サファルは普段、調理の時も火打石で発火させているカジャックを浮かべた。身近であまり魔力を自由自在に使う者がいないからピンとこなかった。リゼはサファルよりは魔力を使えても、一般的にはあまり使いこなせていない。ルーカスはそれなりに使えるようだが、日常生活で雷を使うことなどまずないだろうし、戦いの時も基本物理攻撃らしい。他の知り合いも多少使えても自由自在ほどではないか、もしくは戦闘に特化しているかのような気がする。
「……魔法って日常で使ったら駄目なんですか?」
「さぁ……どうだろうな」
「え。でもカジャックは使わないようにしてるんですよね?」
「……俺はな。ジンの教えだ」
またジンだ。
サファルの口がへの字になる。
分かっている。サファルを拾って育ててくれた人だ。親代わりの存在だ。だが理屈では分かってはいてもどうしようもない。ヤキモチだ。カジャックのほとんどを占めているとしか思えなくて、羨ましくて仕方がない。自分ではジンという人に到底及ばないのは百も承知で「ずるい」と嫉妬してしまう。
だって、俺だってきっと小さなカジャックを見つけたら駆けつけて抱きしめて大切に育てる……。
とはいえそれは後付けだし、実際今のカジャックになるよう自分は育てることが出来るかと聞かれると疑問しかない。そもそもサファルはカジャックに対して邪な気持ちを抱いている。そんな男にカジャックも育てられたくはないだろう。
多分、だからこそ──自信がないからこそ、こうしてサファルは無駄に嫉妬しているのだろう。
「サファル? どうかしたのか?」
焚き火を調整していたカジャックがふといつの間にかサファルを見ていた。
「え?」
「珍しく静かだ」
「……俺も静かな時くらいありますし」
「あと、変な顔をしていた」
「ぅ……」
嫉妬してすねた顔を見られていた。
「せっかく可愛い顔をしているのに台無しだな」
「……、……は、はぁぁぁぁっ?」
「……今度は煩いな。魔物が来るぞ」
呆れたカジャックの言葉に、サファルは慌てて口を押さえた。魔物はごめんだ。気持ちを落ち着かせてから手を離す。
「あの、カジャック」
「何」
「か、かわ、可愛い……って?」
落ち着かせたにも関わらずどもってしまう。カジャックは怪訝な顔をしてきた。
「だから、その、あんた、俺に今言った……」
「……ぁあ。何かおかしかったのか」
「え、だってあんた、生産性のない関係は無駄なんでしょ」
「ああ」
迷いのない返事が返ってきた。一瞬微妙な顔になった後にサファルは続ける。
「じゃ、じゃあ何で男に可愛いとか……」
「……すまない、よく分からんが、要は年が下だろうが男には言わないほうがいいんだな?」
「年下……そりゃ年下ですけど……つか、いやっ、別に言ってもいいんですけど、まぁ何て言うか、その、まぁ、男友達にはあまり言わない、かも。あ、いや、言うやつもいますけど、えっと、あーもう! とにかく俺はあんたが好きだから可愛いって言われて動揺と期待と歓喜と困惑が入り交じったんですよ!」
好きという言葉にはカジャックも抵抗あるくせにとサファルはもぞもぞと体を動かした。顔がとてつもなく熱くなっているのが分かる。だがサファルは逸らすこともなくじっとカジャックを見た。
「……結局言わないほうがいいのか?」
カジャックはといえば、困惑している。
「ぅう。やっぱ、めちゃくちゃ言ってください……」
欲望には勝てない。多分言われるたびに余計な期待をしてしまい心臓によくないかもしれないが、嬉しいものは仕方がない。村の友だちに言われても時に腹立たしいだけだというのに、カジャックから言われると頭を地面に打ち付けてのたうち回りたいほど嬉しい。
「……俺、カジャックから見て可愛い顔をしてるんですか?」
えへへ、とにやける顔を何とかしようとしつつもドキドキしながらカジャックを見る。
「あまり若い人間の顔を見たことがないしな。それに俺の顔と比べたらそりゃ可愛いだろう」
……何だそれ複雑なんですけど。
サファルはまた微妙な顔になった。
ところでサファルの住むラーザ村から直接そこへ向かうより、カジャックの家から向かうほうがどうやら遠いようだった。
「まぁ、ここは森の奥地だしな」
カジャックがそう言っていたように、確かにカジャックの家はかなり森の深くにある。例えサファルが使っている安全なルートを歩こうがラーザから来るには結構時間がかかることを思えば、どちらにしてもリゼをカジャックの家まで来させるのもサファルとしては少々抵抗があることに今更気づいた。そしてこちらの勝手でしかないのに、遠い上に苦手な人間が何人も住む村の近くまで来てくれるというカジャックには感謝しかない。それを口にするとカジャックは戸惑っているようだった。
まだ目的地へ到着しない内にほんのりと日が暮れてきたため、これ以上進むのはやめて二人は野宿をした。焚き火をする際、カジャックは少し考えてから手をかざし、魔法で火をつける。
「何で考えたんですか」
「普段は火打石でつけてるから」
「……、……から、何ですか?」
「……? ぁあ。つけてるからどうしようかとな。基本的に生活面で魔法は使わないようにしている。だが俺の火なら大した仕込みがなくとも消えずに燃え続く」
ああ、やっぱりなるべく使わないようにはしてるんだ。
サファルは普段、調理の時も火打石で発火させているカジャックを浮かべた。身近であまり魔力を自由自在に使う者がいないからピンとこなかった。リゼはサファルよりは魔力を使えても、一般的にはあまり使いこなせていない。ルーカスはそれなりに使えるようだが、日常生活で雷を使うことなどまずないだろうし、戦いの時も基本物理攻撃らしい。他の知り合いも多少使えても自由自在ほどではないか、もしくは戦闘に特化しているかのような気がする。
「……魔法って日常で使ったら駄目なんですか?」
「さぁ……どうだろうな」
「え。でもカジャックは使わないようにしてるんですよね?」
「……俺はな。ジンの教えだ」
またジンだ。
サファルの口がへの字になる。
分かっている。サファルを拾って育ててくれた人だ。親代わりの存在だ。だが理屈では分かってはいてもどうしようもない。ヤキモチだ。カジャックのほとんどを占めているとしか思えなくて、羨ましくて仕方がない。自分ではジンという人に到底及ばないのは百も承知で「ずるい」と嫉妬してしまう。
だって、俺だってきっと小さなカジャックを見つけたら駆けつけて抱きしめて大切に育てる……。
とはいえそれは後付けだし、実際今のカジャックになるよう自分は育てることが出来るかと聞かれると疑問しかない。そもそもサファルはカジャックに対して邪な気持ちを抱いている。そんな男にカジャックも育てられたくはないだろう。
多分、だからこそ──自信がないからこそ、こうしてサファルは無駄に嫉妬しているのだろう。
「サファル? どうかしたのか?」
焚き火を調整していたカジャックがふといつの間にかサファルを見ていた。
「え?」
「珍しく静かだ」
「……俺も静かな時くらいありますし」
「あと、変な顔をしていた」
「ぅ……」
嫉妬してすねた顔を見られていた。
「せっかく可愛い顔をしているのに台無しだな」
「……、……は、はぁぁぁぁっ?」
「……今度は煩いな。魔物が来るぞ」
呆れたカジャックの言葉に、サファルは慌てて口を押さえた。魔物はごめんだ。気持ちを落ち着かせてから手を離す。
「あの、カジャック」
「何」
「か、かわ、可愛い……って?」
落ち着かせたにも関わらずどもってしまう。カジャックは怪訝な顔をしてきた。
「だから、その、あんた、俺に今言った……」
「……ぁあ。何かおかしかったのか」
「え、だってあんた、生産性のない関係は無駄なんでしょ」
「ああ」
迷いのない返事が返ってきた。一瞬微妙な顔になった後にサファルは続ける。
「じゃ、じゃあ何で男に可愛いとか……」
「……すまない、よく分からんが、要は年が下だろうが男には言わないほうがいいんだな?」
「年下……そりゃ年下ですけど……つか、いやっ、別に言ってもいいんですけど、まぁ何て言うか、その、まぁ、男友達にはあまり言わない、かも。あ、いや、言うやつもいますけど、えっと、あーもう! とにかく俺はあんたが好きだから可愛いって言われて動揺と期待と歓喜と困惑が入り交じったんですよ!」
好きという言葉にはカジャックも抵抗あるくせにとサファルはもぞもぞと体を動かした。顔がとてつもなく熱くなっているのが分かる。だがサファルは逸らすこともなくじっとカジャックを見た。
「……結局言わないほうがいいのか?」
カジャックはといえば、困惑している。
「ぅう。やっぱ、めちゃくちゃ言ってください……」
欲望には勝てない。多分言われるたびに余計な期待をしてしまい心臓によくないかもしれないが、嬉しいものは仕方がない。村の友だちに言われても時に腹立たしいだけだというのに、カジャックから言われると頭を地面に打ち付けてのたうち回りたいほど嬉しい。
「……俺、カジャックから見て可愛い顔をしてるんですか?」
えへへ、とにやける顔を何とかしようとしつつもドキドキしながらカジャックを見る。
「あまり若い人間の顔を見たことがないしな。それに俺の顔と比べたらそりゃ可愛いだろう」
……何だそれ複雑なんですけど。
サファルはまた微妙な顔になった。
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