銀色の魔物

Guidepost

文字の大きさ
23 / 137

22話

しおりを挟む
 一緒に行動していると、あらゆる場所をカジャックと共にあちらこちら旅をする、といった妄想が広がって仕方がない。
 目の前では弓使いのサファルよりも楽々と獲物を素手、というか腰ベルトの後ろに仕込んである短剣でさらりと仕留めており、サファルをますます興奮させてくる。
 小柄な分、余計に俊敏に見えるのだろうか。カジャックの動きについ見惚れてしまう。これは自分がカジャックのことが好きだからという欲目ではないとサファルは内心力を込めて思った。
 自分もいいところを見せたいという欲もありつつ、とにかくカジャックの格好がいいところを見られて最高、という欲が満たされまくる。そしてこのままひたすら旅に出たくなる。

「弓だが本当に腕、悪くないんだな」

 それにサファルが弓で獲物を射るところを見てカジャックなりの笑みを浮かべてそんなことを言ってもらえ、危うく大興奮するところだった。さすがにそれはドン引きされるだろうことくらいサファルにも分かっているので堪えたが、とてつもなく嬉しい。
 狩った二匹の獲物はまず内臓を抜いた。そして近くの川までいくと内臓を抜いた肉に石を詰めて沈め、肉を冷した。すぐに冷やさないと肉が臭くなる。冷やすことで肉や血の腐敗を遅らせる。
 その間にどうせ食べきれないであろう内臓を埋めた。恐らく明日にでも他の動物か魔物が埋めることで遅れた臭いに誘われ、掘り返して食べるだろうと思われる。
 冷えた肉の皮をはぐとようやく解体していった。
扱いがいいと肉の血抜きをしないほうが美味しい味になる。そもそも動物の血は新鮮だとそれだけでも美味しい素材になる。ソーセージだけでなく甘い濃厚なソースにさえなるのだ。

 でもこんな場所じゃ難しいけどな。楽しいけれども。

 サファルは解体した肉を焼きながらニコニコとした。したたる肉汁をすくって肉にかけながら、表面をパリッときつね色に焼いていく。

「そういえば前に、肉を焼くのは上手いと言っていたな」

 夜の帳の中、焚き火の灯りに包まれながら食事をしているとカジャックが言ってきた。覚えていてくれた、とサファルはまたニコニコと頷く。

「あは。だてに肉食うの好きな訳じゃないですよ」
「……ふ。どれだけ好きなんだ。あと、扱いも上手い」

 カジャックも静かに笑ってきた。

「普段商売用でも獲物、さばいてるんで」
「ちゃんと仕事、してるんだな」
「してますよ……! してなさそうに見えるの?」
「悪い。それだけお前はいつも楽しそうに見えるんだと思う」
「えへへ、そうですか?」
「ああ」

 カジャックがまた静かに笑った。
 夜も更けてくるとカジャックは「寝ろ」とマントを差し出してくる。

「え、でもカジャックは?」
「火と周りの見張り」
「そんな、そしたら俺も……」
「二人でする必要はない。もし目が覚めたら交代してくれたらいい」
「でも……」
「寝ろ」
「ぅう。一緒に寝たかった」
「……例え火の番をしなくても一緒に寝ないからな」

 サファルの泣き言に対し、カジャックが呆れたように返してくる。

「ええっ? こういう時は体を寄せあって眠るのがセオリーじゃないですか」
「どんな理論だ。冬ならまだしも」
「今だって夜中や朝方はまだ肌寒いですよ」
「だからコートを渡しただろ」
「……そんなの……カジャックはどうするんです」
「起きてるからいい。もし交代する機会があれば返してくれ」
「……だったら先にカジャックが寝てください」
「いい」
「だって俺、意外にも寝汚いですよ、起きられるかどうか……」
「意外? 知ってる」

 知られてる。

 笑っていいのか困ったらいいのか分からなくてサファルは微妙な顔になる。
 この間泊まった時はあまりに新鮮な気持ちだったため、カジャックより早くに目が覚めたはずだ。

「まだ見せたことないはずなのに、もしかしてカジャックは俺のこと知り尽くす勢いで気にしてくれて……?」
「……お前の発想力はどうなってるんだ……? 初めてお前に会った、っていうのか……お前が魔物に襲われてた時、意識を失っただろ」

 何故そんな話に、と思いつつもサファルは「はい」と頷く。

「あの時、普通ならすぐに目が覚めるだろう状態でお前はいつまでも気持ち良さそうに眠っていたからな」
「あー」

 そんなに眠っていたのか。

 自分では分からないが、カジャックが言うのだからそうなのだろう。

「あ、でもそんな最初の出会いをよく覚えてくれてるなんて、やっぱりカジャックはカジャックが思ってる以上に俺のこと、好きなんですって」

 あはは、と笑いながらサファルが見ると、カジャックはポカンとした顔を向けてきた。

「カジャック?」
「あ、ああ。その発想はなかった。なるほど、そうかもしれないな」
「っふぁっ?」

 まさか認めてくれるとは、とサファルは変な声が漏れる。

「……すぐ変なほうに取るな……そういう好きじゃない……。とにかく、お前が寝汚いだろうことは知ってる。いいから寝ろ」
「……はい」

 いい感じに展開していくのでは、という淡い望みを本人によって断たれ、サファルは渋々眠ることにした。そうしないとカジャックはむしろ困るのかもしれない。思ってもいないことは言わなさそうなカジャックだけに、多分「寝ろ」と言ったら本当に寝て欲しいのだろう。それが完全にサファルのためだけなのだとしても、カジャックがそう願うならその通りにしたいと思う。

 せめてがんばって一眠りしたら目が覚めますように。

 サファルはそう願いつつ、カジャックの匂いに包まれるようにしてありがたくカジャックのコートを羽織りながら横になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。 

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...