銀色の魔物

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23話

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「いい加減起きろ」

 その声にサファルはハッとした。慌てて体を起こすと「殺すぞ」とばかりに恐ろしげな目がすぐそばにある。
 いや、実際のところ、正確にはサファル的に愛しい目や顔だ。今や寝ぼけていてもカジャックの顔や目を恐ろしいとは思わない。
 というか大好きな人の顔がこんな近くにあることに、サファルはうっとりとした。何となく今までもっとドキドキすることをカジャックとしていた気がするのはもしかしたら幻かもしれないが、今は本当にこのままキス出来るのではないだろうか。

「……おい、まだ寝ぼけてるのか」
「寝ぼけ……、……、……ん?」

 そうだ、俺、寝てた。

 当たり前のことを当たり前のように思った後にじわじわと今の状況が浸透してきた。それでもカジャックの顔はもちろん怖くない。ただ心理的には愛しいよりも恐ろしい、いや、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「お、俺……寝てた」
「そうだな」

 目付きは相変わらずだが、カジャックの口調や様子は淡々としている。呆れてもいないようだ。

「ま、まさか朝まで寝るなんて……!」
「まあ普通は朝まで寝るしな」
「ぅあ……。カジャック、すみません……、ごめんなさい……。ほんとは俺、途中で起きてあんたと交代するつもりだった……」
「構わない」
「しかもコート、がっつりつかんで離さない勢いで俺……」

 だからカジャックに包まれているような錯覚をし、恐らく都合のいい夢を見ていたようだ。そう、ドキドキすることをしていたのは幻ではなく、夢だ。まぁどちらにしても現実ではない訳だが。

「そうだな」

 カジャックが少し笑う。最近、比較的笑ってくれるようになった気がする。という事実を幸せな気持ちでしみじみ噛み締めるよりも何よりも、今は「朝まで寝ていた俺」という事実がサファルにずっしりと覆い被さっている。

「本当にごめんなさい……」
「俺が寝ろと言ったし、お前が謝る必要はないだろう?」
「いやだって! 普通は途中で起きて交代するでしょ……」
「本当に交代して欲しい時は起こしてる。だから気にするな」

 カジャックの優しさが染み入る、とサファルは泣きそうなほど感動しつつまたハッとなった。

「俺のせいであんた、寝てないんじゃ」
「いや、明け方周りが少し明るくなってから多少は寝た。問題ない」
「多少って……。少しだとキツいでしょ? 今から俺が見張りますんで、改めてぐっすり寝てください」
「……あと数時間もしないうちに太陽が頭上へ来るぞ。むしろもっと早くに発つつもりだったのにこんな時間になった程度に俺は十分寝た」
「俺はもっと寝てた……っていうかこんな時間になったのは俺が原因ですよね?」
「寝汚いんだろ、自分でも言ってた。俺も知ってるって言ったし今さらだろ。それにお前、野宿は慣れてないだろ、だから疲れたんだと思う。とりあえず軽く飯食ったら行くぞ」
「わ、分かりました。すみません、とありがとうございます」

 この人をますます好きにならずにはいられない。というか、好きにならない人なんていないのではないだろうかとサファルは思った。
 カジャックには少し申し訳ない考えだが、引きこもってくれていてよかったとさえ思ってしまう。

 だって……村にこんな人がいたらきっと周りもほっとかないよ。カジャックだって、綺麗で可愛い、何よりちんこのついてないカジャックに相応しい女性と既に一緒になってるんじゃない?

 確かに見た目というか目が一見ものすごく怖いが、慣れたらきっと気にならなくなる。そうなると男らしい、色素の薄いひたすら美形にしか見えないはずだ。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

 顔を覗き込むようにしてカジャックが静かに聞いてくる。

「だ、大丈夫! 俺、元気だよ。よし、じゃあ肉でも食いますか!」
「……朝から……? 確かに元気だな……さすがに朝からは勘弁してくれ」

 ようやく目的地に到着したのは昼過ぎのことだった。

「……こ、れは」

 開墾集落跡地と聞いていたのである程度廃れた建物か何かがある、基本的にはただの土地をサファルは思っていた。
 だが目の前にあるのはまるで遺跡だった。農民たちが寄り集まったというよりは大きな町でも作ろうとしていたのか、石やレンガ、木材で造られた建物たちの跡地だった。
しかも相当前に廃れてしまったのだろう。あらゆるところに蔦が絡まったり苔が生えている。

「……い、せき?」
「……いや……。はっきりジンに聞いたことはなかったが、確かに一度、開墾集落の跡地やそこの教会へ行くだのと言っていたんだが……」

 眺めていても仕方がない、とカジャックは歩き出した。サファルも後に続く。森の延長のような雰囲気はあるが、廃れた建物が残っているため、木は少ない。だが時折のどかにも小さな鳥の鳴く声が聴こえてくる。

「……これが教会だろうか……」

 カジャックが呟きながら見上げた建物の頭上には、確かに神の象徴である水晶を象ったらしきものが見える。だが崩れてしまっていて、かろうじて水晶だったかもしれないと分かる程度の状態だった。

「もしかしたら立派な建物が多かったのかもですが……ここ、相当昔に完全に無人になったんじゃないですか?」

 サファルは辺りを見渡しながら口にした。何故ジンという人はこんなところへわざわざ来ていたのだろうかと、ほぼというか全く関係のないサファルですら疑問に思った。
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