銀色の魔物

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46話

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 何か違う?

 サファルはそっと首を傾げた。もちろん、晴れてカジャックと両思いになったのは未だに意識を失いそうなほど嬉しい。言われた日も、その後もしばらくはだが実感出来なくて度々カジャックに「あの、本当に?」と聞いてしまっていた。その度にカジャックは苦笑しながらも「ああ」と頷いてくれた。
 ようやくそろそろ実感してきたところで、今度はそう、贅沢にも「何か違う?」と思うようになった。
 不満があるのではない。カジャックといるだけで相変わらず幸せでふわふわとしてしまいそうなのだ。不満がある訳がない。ただ、両思いとなり付き合うというのはこういうのだっけか? と首を傾げたくなる。

「サファルは相変わらず童貞処女だろ」
「よし、お前は呪われろ」
「おーい、サファルやっぱまっさらだってよー」
「わはは」
「お前らほんっと呪われろよ……!」

 この間また何人かの友人と飲んだ時に言われた通り、確かにサファルは相変わらず新品の体のままだ。別に焦りはない。周りに何故かからかわれるのはいただけないが、だからといって誰とでもいいから済ませたいとは思ったことがない。

 でも今はカジャックがいる──

 そのカジャックが、なんというか一切何もしてこない。というか、付き合う前と変わらない。とはいえ付き合う前からカジャックはサファルにとってとても格好がよくて優しかったため、付き合っても変わらない気がするという可能性もある。
 いや、それでも何もしてこない気がするのは気のせいではないように思う。
 ただ、そう思うのならまず自分からしてみろという話だが、今まで何人かと付き合ったこともあるというのにまだ童貞、ついでに男とは付き合ったことがないのもあるが処女だということを忘れてはならない。そもそも気軽に何かをカジャックに対して出来るくらいなら両思いということで付き合った時点で即刻している。
 カジャックのことが大好き過ぎて下手なことが出来ないのだ。キスどころか、手を握りに行くことすら緊張してしまう。かろうじて手を握るくらい出来るにしても、この間実際に手を握ろうとして変に構え過ぎてかなり緊張してしまい、結局不審がられて終わった。大人としてどうなのかと自分でも思うのだが、どうしようもない。
 以前何人かと付き合っていた時はもう少し自分から何やら出来ていたというのにと微妙になる。確かに好きだと思って付き合ってきたはずなのだが、前に取引相手にも言われた通り、友だち感覚が抜けてなかったのだろうか。だからむしろキスくらいは出来ていたのだろうか。

 頬にキスくらいなら友だち同士でもする人もいるもんなぁ。

「はぁ……」
「どうかしたのか、サファル」

 思わずため息が出てしまい、一緒に染色作業をしていたカジャックがじっとサファルを見てきた。ちなみに二人はカジャックの家で使っている布を、大青の葉を使って青く染めているところだった。

「いえ」
「でもため息を吐いていたぞ。具合でも悪いのか? だったら手伝いはいいから休んでおけ」
「……優しい」
「は?」
「いえ。具合悪くないです」

 井戸から汲み上げた水で何度かすすぐと、布は淡い綺麗な色になった。カジャックはそれを干すとサファルの額にそっと手を当ててきた。先ほどまで水に触れていたからだろう、そろそろ季節は本格的に夏へなろうとしているが手はひやりと気持ちがいい。

「熱はなさそうだな」
「具合悪くないですって」
「じゃあ暑さにやられたか? とりあえずここだと日差しもある。家に入ろう」

 カジャックに促され、サファルは言われるままに家の中に入った。とはいえまだ暑さにやられるほどの気温でもない。それに具合は悪くない。ただ、カジャックのことで気持ちやら体やらが熱くなるのは間違っていない。

「……まぁ、ある意味そうかもですが──」

 あはは、と冗談のつもりで言いかけるとカジャックがふわりと抱きしめてきた。

「え、な、何」
「冷気」
「え?」
「少し、涼しくならないか?」

 いや、むしろ興奮して熱くなりそうですが、と思った後にサファルは気づいた。確かに、抱きしめられているというのに少し冷たい気が漂っているように感じる。

「あれ?」
「抱きしめることで冷気を、少しお前にも送れているかなと」
「何で?」
「俺は夏でも露出の少ない服を好んで着る。だから熱にやられないよう、冷気を体に纏うようにしている。なるべく生活の中に魔法は取り込まないようにはしているんだが、健康第一だしな。ただ水属性魔法は俺も得意ではない。せいぜい自分にするくらいで、人にしてやることは出来ない。だから抱きしめて少しでも分けてやれたらとな」

 何から言えば……!

 サファルはまた新たなカジャック情報を本人から得られて興奮した。

「って、得意じゃない人はそんな気軽に冷気を纏えませんよっ?」
「気軽? 自分に纏う程度でお前にはかけてやれないのだが」
「いえ、十分凄いですけど……」

 改めてカジャックの魔力に感嘆する。普通は自分の属性魔法であってもそんな風にさりげなく取り込めない気がする。ましてや、自分の属性でない魔法など何か媒体なくしては使うことすら出来ないはずだ。

 ──まぁ、俺は自分の属性魔法であっても何も使えないけどさ。

 サファルは自分の魔力のなさを微妙に思いつつ、まだ抱きしめられたままのためにますますドキドキと落ち着かない気持ちになっていった。
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