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47話
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「本当に具合は悪くないのか?」
声が近い。低く落ち着いた声にサファルは蕩けそうな気持ちになる。と同時に、複数な気持ちにもなる。
自分は抱きしめられただけで心拍上昇し乱れに乱れそうな息を何とか整えようとしているというのに、カジャックは何故こんなに落ち着いた声なのだろうか。そう、背中に当てられた手だって──
「手だって汗ばんでない……」
「は?」
思わず口に出ていたようだ。サファルは慌ててカジャックを引き離した。
「手?」
素直に引き離されてきたカジャックは怪訝そうな顔で自分の手を見ている。
「え、あ、っと」
「ああ、手、な。冷気を纏っているから汗も出ないんだろう」
そういう意味で口に出たんじゃないんだよなぁ。
そっと微妙に思った。自分なら例え冬でもカジャックのそばにいるだけで手汗がびっしょりになりそうだ。
とはいえ確かに、とサファルはカジャックを見た。初めて出会ったのはまだ肌寒ささえ残っていた春だった。今のカジャックはその頃のままだ。雰囲気がという意味ではなく、本当に汗を全くかいてなさそうだ。
「俺一人汗ばんでるとか何か嫌……」
「すまない、お前に冷気を纏わせてやれなくて」
「えっ? いえ、そんな! カジャックが謝ることじゃないですよ? ただ、俺だけ汗臭いとかちょっと落ち着かないな、って」
カジャックの汗ならエロさすら感じられそうだが、それが自分の汗となると一気に汚い恥ずかしいものに感じてしまう。
「汗臭いなんて思わないぞ。問題ない。サファルの匂いだ」
カジャックはまた少し近づいてから言ってきた。
「か、嗅がないでください」
この人は天然なのだろうか、とサファルは顔が熱くなるのを感じながら思う。それとも「好き」という気持ちにやはり相違があるのだろうか。サファルならカジャックの匂いなら、それが汗の匂いであっても興奮材料でしかないし、自分の汗だと恥ずかしさしかないというのに。
「……にしても、サファルはちょっと露出が過ぎないか?」
「え?」
露出?
言われてサファルは自分の姿を見下ろした。短めのズボンは確かに膝下だったふわりとした春のズボンに比べて膝上でタイトだが短パンという程ではない。上着も春の時より背中は出ていて袖も短くはなっているが、袖に切り込みが入っているのは春の時もスリットが入っていたことを思うとさほど変わりない気がする。足も素足なのは春も変わらない。怪訝に思い足元まで見てサファルは納得した。
「ああ、サンダルですか。確かに春の頃は足首も覆うタイプのサンダルでしたけど、今はほぼ裸足みたいなもんですもんね」
「何故そこだと思ったんだ。……そこじゃない」
だがカジャックには呆れたように即答された。
「ええ?」
「……サファル」
「は、はい」
「同性だろうと恋愛は普通なのだろう?」
「はい」
「……だったらお前を性的に見る男もいるということになる」
「俺ですか? まぁ、そういう希有な人も探しまくれば中にはいるかもしれませんね」
現実は、めったに付き合ったことがないし、幾人か付き合ったのは皆女だった上に付き合っても続かなかったくらいだが。
「希有……俺もその一人という訳だな」
「カジャックも……、……え?」
「?」
「え、カジャックも?」
「……まだ好きだと言った言葉を信じてもらえていないのか、俺は」
カジャックが呆れた微妙な顔をする。今さらカジャックの目を怖いとサファルは思わないが、知らない人が見たらサファルの命が危ないのではと見られそうだ。
「し、信じてます! でも、でも性的に見る……?」
「? 何かおかしいか?」
「え、いや、だって……性的?」
「……? そういう意味で好きな相手を性的に見ないやつなんているのか?」
「っ」
サファルは思い切り前のめりになって顔を覆った。顔が熱い。しかもそれ以上カジャックを見ていたら、それだけで危うくサファルのものが勃つところだった。
「……サファル? おい、やはり具合が……」
「悪くないですから! 俺を性的に見てもらえてるんだって知って、ちょっと興奮してるだけです」
「ええ……?」
カジャックが「理解出来ない」といった風な声を漏らしてきた。引かれたのかもしれない。
引くのはやめて……というか、性的に見てくれてんなら尚更なんで俺を襲ってこないんだよ?
ここでまた、「何か違う?」と思った気持ちがぶり返した。それについて聞こうとする前に、だがカジャックが口を開いてきた。
「とにかく、お前が同性同士も関係ないと言ったくせに、その自覚がないのはどうにかしたほうがいい」
「え?」
怪訝に思ったおかげでサファルの危うい所有物事情は治まったようだ。何の話だと、前のめりのまま顔を覆っていた手を離してサファルはカジャックを見た。
「あまり露出しないほうがいい」
「し、してませんよ?」
露出が高いなど、まるで欲求不満の変態みたいで嫌だとサファルは微妙な気持ちになった。改めて自分の格好を見直す。涼しげな格好だとは思うが、性的に誘おうとしている格好ではない。
またカジャックをちらりと見た。確かにカジャックは夏だというのに春よりは多少薄手になったのかも、くらいしか変化はない。フード付きの上着も健在だ。冷気を纏っているにしても、きっちりとした着こなしだと感心する。サファルなら汗まみれになるか鬱陶しくなってすぐにそれこそ全部脱ぎたくなるだろう。
「してません、よ?」
だが自分の格好は露出しているつもりはない。サファルはもう一度繰り返した。
「……なら仕方ないが……油断はするなよ」
何の?
もし、襲われるという意味なら、目の前の男がそもそも好きだと言いつつも襲ってくれないのですがと、サファルは納得のいかない顔をカジャックへ向けた。
声が近い。低く落ち着いた声にサファルは蕩けそうな気持ちになる。と同時に、複数な気持ちにもなる。
自分は抱きしめられただけで心拍上昇し乱れに乱れそうな息を何とか整えようとしているというのに、カジャックは何故こんなに落ち着いた声なのだろうか。そう、背中に当てられた手だって──
「手だって汗ばんでない……」
「は?」
思わず口に出ていたようだ。サファルは慌ててカジャックを引き離した。
「手?」
素直に引き離されてきたカジャックは怪訝そうな顔で自分の手を見ている。
「え、あ、っと」
「ああ、手、な。冷気を纏っているから汗も出ないんだろう」
そういう意味で口に出たんじゃないんだよなぁ。
そっと微妙に思った。自分なら例え冬でもカジャックのそばにいるだけで手汗がびっしょりになりそうだ。
とはいえ確かに、とサファルはカジャックを見た。初めて出会ったのはまだ肌寒ささえ残っていた春だった。今のカジャックはその頃のままだ。雰囲気がという意味ではなく、本当に汗を全くかいてなさそうだ。
「俺一人汗ばんでるとか何か嫌……」
「すまない、お前に冷気を纏わせてやれなくて」
「えっ? いえ、そんな! カジャックが謝ることじゃないですよ? ただ、俺だけ汗臭いとかちょっと落ち着かないな、って」
カジャックの汗ならエロさすら感じられそうだが、それが自分の汗となると一気に汚い恥ずかしいものに感じてしまう。
「汗臭いなんて思わないぞ。問題ない。サファルの匂いだ」
カジャックはまた少し近づいてから言ってきた。
「か、嗅がないでください」
この人は天然なのだろうか、とサファルは顔が熱くなるのを感じながら思う。それとも「好き」という気持ちにやはり相違があるのだろうか。サファルならカジャックの匂いなら、それが汗の匂いであっても興奮材料でしかないし、自分の汗だと恥ずかしさしかないというのに。
「……にしても、サファルはちょっと露出が過ぎないか?」
「え?」
露出?
言われてサファルは自分の姿を見下ろした。短めのズボンは確かに膝下だったふわりとした春のズボンに比べて膝上でタイトだが短パンという程ではない。上着も春の時より背中は出ていて袖も短くはなっているが、袖に切り込みが入っているのは春の時もスリットが入っていたことを思うとさほど変わりない気がする。足も素足なのは春も変わらない。怪訝に思い足元まで見てサファルは納得した。
「ああ、サンダルですか。確かに春の頃は足首も覆うタイプのサンダルでしたけど、今はほぼ裸足みたいなもんですもんね」
「何故そこだと思ったんだ。……そこじゃない」
だがカジャックには呆れたように即答された。
「ええ?」
「……サファル」
「は、はい」
「同性だろうと恋愛は普通なのだろう?」
「はい」
「……だったらお前を性的に見る男もいるということになる」
「俺ですか? まぁ、そういう希有な人も探しまくれば中にはいるかもしれませんね」
現実は、めったに付き合ったことがないし、幾人か付き合ったのは皆女だった上に付き合っても続かなかったくらいだが。
「希有……俺もその一人という訳だな」
「カジャックも……、……え?」
「?」
「え、カジャックも?」
「……まだ好きだと言った言葉を信じてもらえていないのか、俺は」
カジャックが呆れた微妙な顔をする。今さらカジャックの目を怖いとサファルは思わないが、知らない人が見たらサファルの命が危ないのではと見られそうだ。
「し、信じてます! でも、でも性的に見る……?」
「? 何かおかしいか?」
「え、いや、だって……性的?」
「……? そういう意味で好きな相手を性的に見ないやつなんているのか?」
「っ」
サファルは思い切り前のめりになって顔を覆った。顔が熱い。しかもそれ以上カジャックを見ていたら、それだけで危うくサファルのものが勃つところだった。
「……サファル? おい、やはり具合が……」
「悪くないですから! 俺を性的に見てもらえてるんだって知って、ちょっと興奮してるだけです」
「ええ……?」
カジャックが「理解出来ない」といった風な声を漏らしてきた。引かれたのかもしれない。
引くのはやめて……というか、性的に見てくれてんなら尚更なんで俺を襲ってこないんだよ?
ここでまた、「何か違う?」と思った気持ちがぶり返した。それについて聞こうとする前に、だがカジャックが口を開いてきた。
「とにかく、お前が同性同士も関係ないと言ったくせに、その自覚がないのはどうにかしたほうがいい」
「え?」
怪訝に思ったおかげでサファルの危うい所有物事情は治まったようだ。何の話だと、前のめりのまま顔を覆っていた手を離してサファルはカジャックを見た。
「あまり露出しないほうがいい」
「し、してませんよ?」
露出が高いなど、まるで欲求不満の変態みたいで嫌だとサファルは微妙な気持ちになった。改めて自分の格好を見直す。涼しげな格好だとは思うが、性的に誘おうとしている格好ではない。
またカジャックをちらりと見た。確かにカジャックは夏だというのに春よりは多少薄手になったのかも、くらいしか変化はない。フード付きの上着も健在だ。冷気を纏っているにしても、きっちりとした着こなしだと感心する。サファルなら汗まみれになるか鬱陶しくなってすぐにそれこそ全部脱ぎたくなるだろう。
「してません、よ?」
だが自分の格好は露出しているつもりはない。サファルはもう一度繰り返した。
「……なら仕方ないが……油断はするなよ」
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