銀色の魔物

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52話

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 目が覚めるとそこは家の中だった。そういえばカジャックの家に突然来ていて、そしてあろうことか二人でこれでもかとイチャイチャしていた気がする。

 ──いやいや。ない。ないよ。間違いなくそれ夢だわ。夢以外の何物でもないわ。

 ほわんとした後にサファルはすぐ我に返った。だが、周りを窺うように見て、今自分がいるのはそれこそ間違いなくカジャックの家だと気づく。

「……、……あれ? 夢の続き?」
「おはよう。目が覚めたようだな。どんな夢を見ていたんだ」

 背後からカジャックの声がしてサファルはいそいそと振り返った。

「えっとですね、カジャックと家でその、仲良くする夢ですよー、……あれ? っていうかカジャック? あの、もしかして……えっと、機嫌、悪い、です?」

 確かに普段もカジャックの目付きは悪いし寡黙だ。知らない人が見れば普段から機嫌悪そうにしか見えないだろう。それでもサファルの目にはとてつもなく優しくて格好がいい人にしか見えない。
 だが今目の前にいるカジャックからは、説明は出来ないのだか何となく苛立ちにも似た負の雰囲気を感じた。
 カジャックを怖いとは思わない。だがもし自分が何かをしてしまって機嫌を悪くしてしまったとすれば、その事実は怖い。目付きは悪くともカジャックはとても人間が出来ていて温厚だ。そんなカジャックを自分が怒らせたり不機嫌にもしさせてしまったのなら、それが辛いし怖い。

「俺が不機嫌なのは間違いないな」

 怖いのだが、ここで「気のせいだ」とも「何故そう見えた?」とも言ってこないところを何気にサファルは好きだと思った。嘘が必要でない時は決して嘘は吐かない。そしてサファルが商売をしているとたまに味わうことがあるのだが、こちらの反応を窺うような思わせ振りな態度も取らない。ちょっとしたことなのだが、こういうところもサファルが好きなところだ。とはいえ、さすがのサファルも今は「カジャック好き……」などと口走らない。それくらいの空気は読める。

「何で不機嫌なのか聞いても……? 俺のせい……? 俺、寝ちゃったから、とか?」

 おずおず聞くと、この時ばかりはカジャックも少し口元を綻ばせてきた。

「ふ……」

 笑った……!

 些細なことに一喜一憂している自分を感じながら、サファルはカジャックの言葉を待つ。

「お前が寝たくらいで不機嫌になっていたら今頃俺は怒ってばかりで既にお前に愛想を尽かされてそうだ」
「そ、そんなことないです。カジャックに愛想尽かすなんて、この世が終わってもあり得ない」
「ふ……、凄いな」

 また少し笑ってくれた。
 サファルはドキドキしながら胸に温かいものが広がる。と同時に、では何故不機嫌にと不思議に思った。

「俺、何かしました、か……?」

 カジャックは一人で暮らしている。日々の暮らしは多少の変化はあるものの安定している。アルゴは帰っているのでサファル以外は今日ルーカスと会った以外誰とも接触がない。そしてルーカスを相手にカジャックが不機嫌になる要素や可能性が全く感じられない。となるとサファルが原因でしかないような気がする。

「そうだな。というか、何かしたんじゃなくてしなかったと言ったほうが近い」

 カジャックは淡々と口にしながらサファルに近づいた。そして「しなかった?」と怪訝に思っているサファルを押し倒してきた。

「……っ? カ、カ、カジャック?」

 いきなりのことに驚いたのもあるが、何よりカジャックの行動とは思えない構図にサファルは大いに動揺した。

 あのカジャックが?
 一体今、何が起きて──

「サファル……」

 名前を囁くように呼びながら、カジャックの顔が近づいてくる。

 無理。
 なにこれ。
 俺、今日死ぬの?

 顔が熱い。そして全く動けなかった。だが身をこわばらせているサファルに、カジャックはそのままキスをするのではなく質問をしてきた。

「何故抵抗しない?」
「……へっ?」

 抵抗?
 何で?

「え、えっと、だってカジャックですよ……? 俺押し倒してんの、カジャックなんです。何で俺が抵抗すんの? する訳ないっていうか、むしろ待ちかねてたっていうか……あ、いや、その、違、じゃない、違うくない、いや、だって……!」

 動揺と緊張と興奮でもはや自分でも何を言っているのか分からない。ただ、カジャックは理解したようだ。

「ああ……。……嬉しいが、これじゃあ説教にならないな」
「説教?」

 予想外過ぎる単語に、サファルの声が少し裏返った。微妙な気持ちになり、咳払いしてから続ける。

「この体勢で、その、一体どんな説教……?」

 全く予想がつかない。だが次のカジャックの言葉で何となく理解した。

「お前は無防備らしいな」
「ルーカスですね!」

 この間も何やら言っていたのを思い出す。ルーカスや他の友人は何故かたまにサファルに対して呆れたように「気をつけろ」と言ってくる。気をつけろと言われても、何に気をつけるのかよく分からない。知らない人間に警戒しろと言われるならまだしも、ルーカスたちと同じ友人に対して気をつけろと言われる。その友人がサファルの商売敵とでも言うのならまだ分からないではないが、全然異なる職種だ。サファルのような仕事をしている村人は雑貨屋の人以外、いない。その雑貨屋の店主ですら、サファルとは仕事内容が違う。

「カジャック、何を言われたか知りませんが、ルーカスたちは心配性で──」
「俺もそうだ」

 気にすることはありませんよと言いかけたところでカジャックが顔を近づけたまま囁いてきた。
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