銀色の魔物

Guidepost

文字の大きさ
52 / 137

51話

しおりを挟む
「無防備?」

 カジャックが聞き直すとルーカスは「そう」と困惑した顔で頷いた。

「無防備過ぎるんだ。出来ればカジャックからも言ってやって欲しい」
「言う、って……」
「サファルは確かに友だちや知り合いは多いし、基本的には皆もサファルのことを親しみやすい友だち、もしくは知り合いだと思ってるんだろうけど」

 ルーカス曰く、サファルは何気にモテるのらしい。
 特に男に。

「たまに女の子にも好かれてるけどね。サファル、明るくていいやつだから女だと純情そうな子かむしろ年上のお姉さんみたいなタイプに好かれやすいかも」
「へえ」

 へえ、としか言いようがない。確かにいい気分という訳ではないが、自分の好きな相手が誰かから好ましいと思われることはカジャックからすればとてもいいことだと思える。もしかしたら、カジャックがそもそも小さな頃周りから恐れられ嫌われていたからそう思うのかもしれない。

「それはまあいいんだけど」

 ルーカスとしてもそれはいいらしい。続きがあるのか、とカジャックはとりあえず黙って頷いた。

「男から好かれる場合がな、ちょっと心配で。大抵の男はサファルのことを友人として好きだと思うんじゃないかな。だけどなんだろうな、前に知り合いが言ってたけど別に一見色気もないし妙なフェロモンを出してる訳じゃないんだけど、妙に可愛らしく見えたり性的な魅力を感じてしまったりしやすいみたいなんだ」
「……」

 今度はへえ、とも言い難い。とりあえず今もカジャックはただ頷いただけだった。

「小さな頃からずっと一緒だった俺でも確かに可愛いところはあると思う。何にでも懸命だし何より真っ直ぐだからな。人もいい」
「……ああ」
「まあ別に他の男女がサファルに対してどう思おうが、仕方がないというかそこは自由だとは俺も思ってる。ただ、男から好かれる場合に何が心配って、下手をするとサファルに無理やり何かをしようとする輩だっていると思うんだ。だというのにサファルは全然気にしない」
「気にしない?」
「俺や他の友人がサファルにもっと気を付けろと言ってもあいつは『友だちだから大丈夫』とか言って取り合わないんだ。もしくは自分はモテないからそういうことはあるはずないと思っている節がある」

 ああ、とカジャックは納得した。この間カジャックがサファルに「あまり露出しないほうがいい」と言った時もサファルはあまり真剣に捉えていなかった。恐らくルーカスに対してもあんな感じの受け答えをしているのだろう。
 確かに無防備が過ぎるのかもしれない。だがもしかしたら自分がそうである筈がないと思い込んでいるとあまり自分や自分の周りが見えないこともあるのかもしれない。

「……実際に誰かから何かされようとしていないからピンと来ていないだけではないのか?」
「それもあるか……いやでも実際何かされてもあいつは気づかないかもしれないんだ」
「?」
「この間も一応友人の一人にちょっかいをかけられ飲み屋の二階にある部屋へ誘われそうになってた」
「……は?」

 どういう状況だろうと思っているとルーカスがその時の話を自分が把握しているだけだがと説明してくれた。

「……なるほど」
「ほんとあいつは困った……、ってカジャック。元々あまり甘いマスクというタイプじゃないんだろけど、今、更になんか、こう、目付きとか諸々パワーアップしてないか?」

 ルーカスが少々苦笑しながら言ってくる。確かに今、カジャックは珍しく怒っている。だからルーカスが言うのも間違ってはいないだろう。元々悪い目つきはもしかしたら更に鋭くなってしまっているかもしれない。
 とはいえこの怒りをルーカスにぶつけるのだけは違う。むしろルーカスはサファルを心配し守ろうとしてくれている。

「……すまない、ルーカス。今俺は少し怒っているかもしれない。それが顔に出てしまっているなら申し訳ない。だがお前には当たりたくない。それだけは分かってくれ」
「いや、別に気にするな。むしろ怒っていいと思うというか、出来ればサファルに対してその怒りをぶつけてくれないか。そうすればこいつも少しはましになるかもしれない。……まあ性格なのだろうからあくまでも、かもしれない、だが」
「……ありがとう。サファルにお前のような友人がいて良かった」
「俺こそありがとう。サファルが好きな相手があなたで良かったと思っているんだ。そして俺はカジャックの友人でもあるよ」

 ルーカスは穏やかに微笑んできた。カジャックも小さく笑みを浮かべた。
 感情を思い切り出すことはしたことがなく、中でも笑うという表現をどう出せばいいのかを未だにあまり分かっていない。ただ、今とても嬉しくて仕方がないと思っている。それをルーカスに伝えられないことがもどかしいとも思う。

「とても嬉しい」

 こうして言葉にしても、自分の気持ちは全く伝えきれていないだろう。それでもルーカスは嬉しそうに笑ってきた。

「俺も、カジャックにそう言ってもらえて凄く嬉しいよ。さて、剣術の続きでもと思ったけど今日はもうやめにしようか」
「どうかしたのか?」
「いや。ここに気持ちよさそうに惰眠を貪ってるヤツがいる。カジャックならこいつくらい抱えて持って帰られるだろ。良かったらこってり絞ってやってくれ。リゼには泊まるって言っておく」
「……はは。分かった」
「打ち合いはまた改めてしよう。今日は楽しかった」
「俺もだ」
「この樹洞じゅどう、利用させてもらうよ。俺も仕事があるから頻繁には来られないがまた連絡する」
「分かった。ルーカス、気を付けて帰れ」
「おう」

 サファルを苦笑しながら見た後爽やかな笑みを浮かべ、ルーカスはそのまま立ち去っていった。

「……さて」

 カジャックは立ち上がるとまだぐっすり眠っているサファルに近づいた。完全に眠ってしまっている分抱えるには重くなっているが、小柄な筈のカジャックは難なくサファルを抱え上げた。

「帰ったら仕置きだな」

 眠って聞こえていないサファルに呟くと、カジャックもこの場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...