銀色の魔物

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55話

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 森の中はもちろん村よりもかなり気温は低い。それでも木陰ではないところに差し込む日の光は十二分に強い。

「暑い」

 思わず漏らしていたらしい。カジャックがサファルをじっと見てきた。

「そんなに薄着なのにな」
「……憐れむような顔はやめてください。あと俺、そんなに薄着じゃないですよ?」

 洗濯物を干し終え、サファルは洗濯物を入れていたかごを持ち上げた。ちなみに干していたのはほぼカジャックだ。最初にサファルが「俺が干します」と布を一枚干そうとした時点で「しわ、伸ばさないと……」とダメ出しを食らった。教えてもらった通りにサファルが布をぱんぱんと振るようにしてから干している間にカジャックがほぼ干し終えていた。

「そんなに後ろ、開いてるのにか」
「これ、風入ってきて気持ちいいんですよ。それに俺の村の男は日中ずっと上半身裸ですよ下手すりゃ」

 むしろカジャックのようにがっちりと着こんでいる者のほうが珍しいし眠る時も裸で眠る者が多い。皆、朝は早くて下手をすれば夜明け前から起きていたりするのだが、起きて服を着ても顔や手を洗うだけではなく、またすぐに脱いで上半身裸になって桶の水で身体を拭ったりする。サファルの村やクラフォンの町では公衆浴場があるので入浴は朝にそこでする。他所では知らないが、サファルの周辺では混浴ではなく男女の使用時間は分けられている。そもそも恋愛に性別がないのでその辺に意味があるのかは分からないが、とはいえ浴場では皆無邪気な様子で純粋に蒸気浴や温浴などを楽しんでいる。
 そして昼間、農作業や手工業などの仕事をする際も夏はそのまま上半身裸になっている男は少なくない。午睡ごすいを取る時は一応服を着るが、また働く時は脱いでいたりする。
 夜になると辺りはほぼ真っ暗になる。酒場はロウソクや暖炉の灯りで明るいが、他は家の中も結構暗い。ちなみにカジャックの家ではいつも蜜蝋を使っているようだが、サファルからすればかなり贅沢な気がしている。村では大抵獣脂ロウソクが使われている。
 その家の中だが、夏の暖炉は結構きついものがある。なのでロウソクだけにして薄暗い中家族との団欒を過ごすのがほとんどで、その際も上半身は脱いで過ごすことが多かったりする。どのみち眠る時は裸で寝る者が多い。昔は着物で眠るのは聖職者だけだったらしい。今は着て眠る者も増えたようでサファルたちも着て眠っているが、何はともあれ日中脱いでいる状態の者が多い。

「だから俺なんてちゃんと着てるほうですよ」

 というか何度も脱ぎ着するのが面倒なんですよねと笑いながらサファルがカジャックを見ると、ただでさえ悪い目付きが更に悪くなっている。怒っているというより恐らく引いているのだろう。

「カジャック、引いてます?」
「人前で裸……?」
「下は着てますよ。ああでも浴場では布切れだけですが」
「恐ろしい場所だな……」
「むしろカジャックは基本一人で生活されてるのにきっちり着すぎかと」

 とはいえそんなカジャックが格好いいとサファルは思っている。ただ、出来ればたまには裸とまではいかなくとも少しでいいから肌をもう少しちらりとでも拝見したい。

「ジンもこんなだったしアルゴもそうだが」
「確かにアルゴさんは涼しげな格好はしても気安く脱いでるとこは想像出来ませんね……」

 未だに少し怖い人だけに顔を青くしながらサファルが頷くと、カジャックは少し笑ってきた。

「……まぁ、サファルが服を着るタイプでよかった」
「ね? 俺はちゃんと着てるんですって。薄着じゃないです」
「いや、薄着は薄着だと思うが」
「えー」
「……俺が背中が大きく開いた服や切れ込みの入った服を着ていたら、お前はどう思う?」
「興奮します」

 即答するとまた引かれた。

「……いや、そういう答えを望んでいたのではない……。普段着こんでいるから驚くだろうと言いたかった」
「あ、そっか、そうですね……! 興奮する、は忘れてください……」
「……。俺が着ていたら薄着だなと思うだろ」
「は、はい。確かにそうですね」

 ワンテンポ遅れて、即答してしまった言葉が恥ずかしくなってきた。

「だから……お前のも……というかほんと、調子狂わされる……お前相手に注意は難しいな」

 途中からカジャックは笑っていた。そんなカジャックが嬉しくて、サファルもニコニコしてしまう。

「まぁ、俺は冷気まとってる分、お前の格好に意見する資格はないな」
「いえ、言ってください。俺も中々納得したり理解したりしないかもですが、ないがしろにしてるつもりはないんです。出来る範囲でカジャックの望むようにしたいし……」
「俺が望むから、よりは出来ればお前自身が意識してくれるのが一番なんだけどな。でもまぁ、ありがとう」

 すみません、と申し訳ない気持ちにもなるが、カジャックからの礼の言葉が嬉しくてサファルは顔が熱くなる。

「何かますます暑くなってきました」
「……俺にくっつくか? 冷気少しはそれで……」
「だ、駄目ですよ。そんなの俺の理性飛んじゃいそう」

 カジャックの提案に慌てて両手を横に振れば苦笑された。

「飛んだらどうなるんだ?」
「……ひょっとして俺に何も出来ないと決めつけてますね?」
「そんなことはない」
「笑ってるくせに」
「そんなことはない。……むしろそうだな、サファルから、何かしてくれるのか?」
「うっ」
「こんな明るいうちから?」

 完全にからかわれている。もしくは絶対何も出来ないと舐められている。──もちろんその通りだ。

「そ、それに関しては昼関係ないですよっ? 夜は雑魚寝が多いですしね。お貴族様は知りませんが、昼間に外で愛の営みをする人、結構いるんですから!」
「……本当に村や町は凄いところだな。俺はここで一人での生活でよかった」

 また引かれてしまった。
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