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54話
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一瞬軽く触れる程度ではあった。間違いかと思いそうなほど、軽くだった。だがカジャックの唇がサファルの唇を掠めたのは間違いない。
サファルの顔はあり得ないほど熱くなった。これではまるで生まれて初めてキスをしたみたいだと自分でも情けなく思うが、勝手になるのだ、どうしようもない。
体の経験がないだけで、サファルも少し深めのキスならしたことはある。それだというのに、この体たらくだ。一瞬掠めただけのキスにとてつもなく感極まっていた。
「う、わ……俺、泣きそう」
「……大げさだな」
カジャックが苦笑している。確かに喜び過ぎかもしれないとはさすがにサファルも思うが、嬉しいものは嬉しい。
「……っていうか……カジャックはキス、もしかしてしたことあるんですか?」
動揺まではいかなくとも、多少照れるくらいはしてくれてもいいと思うのだが、サファルが見る限りカジャックは普段と変わらない。むしろキスの経験があるはずのサファルのほうがよほど初めてのようだ。
ずっと人付き合いをしていなかったとはいえ、カジャックも男だ。もしかしたら行きずりの関係とか……? などとサファルがどんどん妄想を膨らませてほんのり青くなっていると「いや」と首を振られた。
「初めてだよ」
「は、ごっ」
「……? サファル、落ち着け」
怪訝な顔をした後でカジャックがまた苦笑してきた。本当に恰好の悪いところしか見せていない気がして、先ほどとは違う意味で顔が熱くなる。
「すみません……。あの、カジャックのファーストキスが俺でめちゃくちゃ嬉しくて……。それと、初めてなのに何で慣れてるっていうか挙動不審にならないんですか?」
「……今の程度で慣れているも何もないと思うが……。あと挙動不審って何だ。お前はキスをすると挙動不審になるのか」
また怪訝な顔をした後に、今度はおかしそうに小さく笑ってきた。そんなカジャックを見てほんわかと頬を赤らめつつ、サファルも苦笑した。
「いえ……挙動不審はおかしいですよね。でも俺は少なくとも感極まって落ち着かなくなります」
「じゃあ少しずつ慣れてくれ」
「え?」
「今のお前に俺は何かするつもりはない。だが少しずつは何かするかもしれない。ゆっくり慣れてくれたらいい」
「……っ」
またいくつかの感情が交差する。やはり今は何もしてくれないということだ。というかはっきり言われた。だがそれはカジャックがサファルを思ってそう言ってくれているのが分かっただけでも大きい。もしかしたら「好き」の種類が違うのかもと勝手に心を痛めていただけにホッとした。しかも少しずつはするかもしれないという言葉に、はっきり言って悶え死にそうだ。
あと、本当にカジャックはキスすら経験がない人なのだろうかと改めて思った。何故そんなに堂々としていられるのだろう。爪の垢を煎じて飲みたいとサファルはわりと本気で思う。
それにプラス、ゆっくりかぁという残念な気持ちも否めない。掠めるようなキスで動揺しまくっている自覚がある上で、それでもゆっくりではなく早急に進んで欲しさはとてもある。
多分、俺死ぬけど。カジャックと濃厚なキスとかエッチなことしたら絶対死ねるけど。
それでも男としては好きな相手と色々したいに決まっている。
「ヘタレな俺に合わせないでいいです……」
「ん?」
「俺、早くカジャックとイチャイチャしたい」
爽やかにサラリと欲望を言うつもりが、頭悪げにしかもまた顔を赤くしてしまいながら言ってしまい、穴があったらほんのりと入りたい。
ただ、何故かカジャックも少しだけ動揺してきた。いや、動揺というよりは困惑なのだろうとサファルはひっそり頷いた。
「……そうだな。でも焦りたくはない」
今度は額にそっとキスをしながら、カジャックは囁いてきた。そしてポンポンと頭を撫でられる。一つ一つにいちいち反応しそうになって、サファルは何とか堪えた。でないと先は遠退くばかりだろう。
「カジャック……」
「あと、今みたいな雰囲気ややり取りでも俺は結構甘い気分になれるが」
「は……」
軽いキスだけでなく、言葉だけでも殺されそうになった。サファルは空気が漏れたような音を口から出しながら、ますます熱くなる顔を手で覆った。
「サファル?」
「……俺も……」
「ん?」
「俺も……めちゃくちゃ甘いです……」
このままキュン死してしまうかもしれない。とりあえず呼吸するのも一苦労な気がする。ついでに油断すると自分のものが勃ちそうになるので無駄に力を入れた。
「とにかく、俺の話を聞いてくれてありがとう」
そろそろ夕食の準備でもするか、とカジャックが立ち上がりながら礼を言ってきた。
「え、話……?」
って何だっけ、とサファルはきょとんとした顔をカジャックへ向けた。
「……もしかして、もう忘れたのか?」
「え……っ? あ、えっと……」
ふわふわとし過ぎてか、頭の中が少々まとまっていない。何の話だっけと少し焦りながら記憶を辿った。そして思い出す。
「……あっ。すみません、ふわふわしてて。覚えてます。俺、無防備にならないよう気をつけます……!」
「……ああ。ふわふわ……そういえばお前、寝てたから何も食べてないだろう。リゼの作った黒パンのサンド、貰ってあるから食え。あと今日は泊まっていくといい」
カジャックがふわりと笑った。
サファルの顔はあり得ないほど熱くなった。これではまるで生まれて初めてキスをしたみたいだと自分でも情けなく思うが、勝手になるのだ、どうしようもない。
体の経験がないだけで、サファルも少し深めのキスならしたことはある。それだというのに、この体たらくだ。一瞬掠めただけのキスにとてつもなく感極まっていた。
「う、わ……俺、泣きそう」
「……大げさだな」
カジャックが苦笑している。確かに喜び過ぎかもしれないとはさすがにサファルも思うが、嬉しいものは嬉しい。
「……っていうか……カジャックはキス、もしかしてしたことあるんですか?」
動揺まではいかなくとも、多少照れるくらいはしてくれてもいいと思うのだが、サファルが見る限りカジャックは普段と変わらない。むしろキスの経験があるはずのサファルのほうがよほど初めてのようだ。
ずっと人付き合いをしていなかったとはいえ、カジャックも男だ。もしかしたら行きずりの関係とか……? などとサファルがどんどん妄想を膨らませてほんのり青くなっていると「いや」と首を振られた。
「初めてだよ」
「は、ごっ」
「……? サファル、落ち着け」
怪訝な顔をした後でカジャックがまた苦笑してきた。本当に恰好の悪いところしか見せていない気がして、先ほどとは違う意味で顔が熱くなる。
「すみません……。あの、カジャックのファーストキスが俺でめちゃくちゃ嬉しくて……。それと、初めてなのに何で慣れてるっていうか挙動不審にならないんですか?」
「……今の程度で慣れているも何もないと思うが……。あと挙動不審って何だ。お前はキスをすると挙動不審になるのか」
また怪訝な顔をした後に、今度はおかしそうに小さく笑ってきた。そんなカジャックを見てほんわかと頬を赤らめつつ、サファルも苦笑した。
「いえ……挙動不審はおかしいですよね。でも俺は少なくとも感極まって落ち着かなくなります」
「じゃあ少しずつ慣れてくれ」
「え?」
「今のお前に俺は何かするつもりはない。だが少しずつは何かするかもしれない。ゆっくり慣れてくれたらいい」
「……っ」
またいくつかの感情が交差する。やはり今は何もしてくれないということだ。というかはっきり言われた。だがそれはカジャックがサファルを思ってそう言ってくれているのが分かっただけでも大きい。もしかしたら「好き」の種類が違うのかもと勝手に心を痛めていただけにホッとした。しかも少しずつはするかもしれないという言葉に、はっきり言って悶え死にそうだ。
あと、本当にカジャックはキスすら経験がない人なのだろうかと改めて思った。何故そんなに堂々としていられるのだろう。爪の垢を煎じて飲みたいとサファルはわりと本気で思う。
それにプラス、ゆっくりかぁという残念な気持ちも否めない。掠めるようなキスで動揺しまくっている自覚がある上で、それでもゆっくりではなく早急に進んで欲しさはとてもある。
多分、俺死ぬけど。カジャックと濃厚なキスとかエッチなことしたら絶対死ねるけど。
それでも男としては好きな相手と色々したいに決まっている。
「ヘタレな俺に合わせないでいいです……」
「ん?」
「俺、早くカジャックとイチャイチャしたい」
爽やかにサラリと欲望を言うつもりが、頭悪げにしかもまた顔を赤くしてしまいながら言ってしまい、穴があったらほんのりと入りたい。
ただ、何故かカジャックも少しだけ動揺してきた。いや、動揺というよりは困惑なのだろうとサファルはひっそり頷いた。
「……そうだな。でも焦りたくはない」
今度は額にそっとキスをしながら、カジャックは囁いてきた。そしてポンポンと頭を撫でられる。一つ一つにいちいち反応しそうになって、サファルは何とか堪えた。でないと先は遠退くばかりだろう。
「カジャック……」
「あと、今みたいな雰囲気ややり取りでも俺は結構甘い気分になれるが」
「は……」
軽いキスだけでなく、言葉だけでも殺されそうになった。サファルは空気が漏れたような音を口から出しながら、ますます熱くなる顔を手で覆った。
「サファル?」
「……俺も……」
「ん?」
「俺も……めちゃくちゃ甘いです……」
このままキュン死してしまうかもしれない。とりあえず呼吸するのも一苦労な気がする。ついでに油断すると自分のものが勃ちそうになるので無駄に力を入れた。
「とにかく、俺の話を聞いてくれてありがとう」
そろそろ夕食の準備でもするか、とカジャックが立ち上がりながら礼を言ってきた。
「え、話……?」
って何だっけ、とサファルはきょとんとした顔をカジャックへ向けた。
「……もしかして、もう忘れたのか?」
「え……っ? あ、えっと……」
ふわふわとし過ぎてか、頭の中が少々まとまっていない。何の話だっけと少し焦りながら記憶を辿った。そして思い出す。
「……あっ。すみません、ふわふわしてて。覚えてます。俺、無防備にならないよう気をつけます……!」
「……ああ。ふわふわ……そういえばお前、寝てたから何も食べてないだろう。リゼの作った黒パンのサンド、貰ってあるから食え。あと今日は泊まっていくといい」
カジャックがふわりと笑った。
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