銀色の魔物

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62話

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「ふん……なんだったら指輪を作ってやろう。特別のだ」

 アルゴが物々しい様子で言っている。それをカジャックは微妙な顔で見ていた。相手は困惑しつつ「お気持ちだけもらっておきます」と、だが笑みを浮かべた。



 夏もそろそろ終わるのか、空が少し高く感じられるようになってきたある日、カジャックは久しぶりにルーカスだけでなくリゼとも会っていた。もちろんサファルもいる。
 ルーカスとはサファル抜きでも何度か会っている。これは別に密会をしているのではない。例の手紙のやり取りを時折しつつサファルに都合がつかないといった日もあっただけだ。一緒に手合わせや食事などをすればするほど、カジャックはルーカスの人柄を更に知っていった。サファルが身内のように慕っているのもわかるとしみじみ思った。
 今回はリゼに合わせて以前と同じ場所でのんびり昼食をとっていた。それも食べ終わり、後はとりとめのない話をしていた時に、アルゴが不意にここへやって来たのだ。やって来たというか、突然現れたと言ってもいい。おそらく魔法を使ったのだろう。

「ひ……」

 気づいたサファルの口から変な音が漏れていた。それに対しアルゴがじろりとサファルを見る。

「私を見てのその態度は何だ」
「す、すみませ」
「サファル、謝る必要はない。アルゴ、あんたが今までサファルをさんざん怯えさせるからだ」
「心外だな。私がいつ怯えさせた」

 どうも自覚がないようだ。

 カジャックが呆れていると、ぽかんとしているルーカスとリゼにふと気づいた。

「アルゴがすまない。彼はエルフでそして俺の育ての親の友人だ」
「俺に紹介してきた時より親切……!」

 説明をしていると、何故かサファルが納得いき難いといった風に、よくわからないことを突っ込んできた。

「何を言っている。私もカジャックの親のようなものだ。あとジンとはただの友人なんてものでは説明がつかんぞ!」

 そしてアルゴは煩い。 

「そうなんですね、初めまして。俺はルーカスと言います」
「私はリゼ、サファルの妹です」

 アルゴの態度を意に介さず、にこやかに挨拶をする二人にカジャックは小さく笑みを浮かべた。対してアルゴはハッとしたようにリゼを見る。

「……お前がサファルの妹か」
「え? あ、はい」
「ア、アルゴ、さん! お、俺の妹には変なこと言ったりしようとしたり、し、しないでくださいね……!」

 リゼに関心を寄せたアルゴに慌てたように、サファルがアルゴとリゼの間に立ちはだかる。

「何だと。私がそんなこと、するはずがないだろう」
「お、俺に変なこと言ってました……!」
「サファル? 大丈夫?」

 先程からサファルの様子がおかしいことにリゼが怪訝に思ったようだ。後ろに隠すようにしていたサファルをリゼは心配しつつ純粋そうな表情で覗き込んでいる。

「うむ、いい子そうではないか」

 それを見ていたアルゴが満足げに頷いた。サファルは微妙な顔でアルゴを見てからリゼに「大丈夫だから」と答えている。
 人との接触はなかったので一般的な人の考えることには多分疎いかもしれない。だがカジャックにとってアルゴの考えはそこそこ分かる。
 後から知ってしまったのもあり、サファルに対しての態度を早々に変えることは出来ないくせに、初めからジンのひ孫だと分かっているリゼに対しては可愛くて仕方がないという気持ちをむしろ隠しきれないのだろう。

「リゼ、私を曾祖父のように思うがいい」

 それにしてもサファルにすらジンとの関係を告げていないというのに、いきなりのそれはないと思う。カジャックも微妙な顔でアルゴを見た。

「え?」

 現にリゼは戸惑っている。ルーカスも戸惑っているしサファルに至っては多分少し引いたようにアルゴを見ている。確かに普通に考えて、ただの変なエルフでしかない。
 だが戸惑った後に、リゼは何かに気付き納得がいったという風にニッコリとアルゴを見上げた。

「そうか、アルゴさんはカジャックの親みたいなものですもんね。サファルとカジャックが一緒になったらサファルの身内の私もアルゴさんの身内みたいなものになるんだ!」

 リゼの言葉にルーカスは「そういう意味か……?」と苦笑しているが、サファルは「なるほど」と納得してきた。カジャックはつい吹き出しそうになる。
 アルゴも無表情の中に戸惑いを見せてきた。だが今のところはそれでいいと思ったのだろうか。特に否定することもなく、リゼに「リゼは好きなやつがいると聞いたが」と続けてきた。

「っえ、な、何……、ちょっと、サファル! サファルでしょ! 余計なこと言ったの!」

 一瞬ぽかんとしてからリゼの顔がみるみるうちに赤くなっていった。サファルはまずいといった表情で顔を逸らしている。

「そうなのか? リゼ」

 サファル曰く、そういうことだけ疎いらしいルーカスが知らなかったとばかりにリゼを見ていた。これもサファルから聞いたことだがそういうことだけ素直ではないリゼからしたら今すぐにでも逃げてしまいたい状況なのだろう。黙ったままますます赤くなっている。そして基本的に空気を読んでこないアルゴが追い討ちをかけてきた。ちらりとルーカスを見る。

「相手は誰だ。こやつか? こやつだとしたら間違いないやつなのか? リゼを幸せに出来るやつなのか」

 もはやリゼは魚のようにぱくぱくと口を動かすことしか出来ないようだ。ただルーカスは間違いなくいいやつだというのに恋愛に関しては本当に木石ぼくせきらしい。ただ分かっていなくとも空気だけは読むようで「俺はこの兄妹が本当に大事ですし、当然幸せに出来るものならしたいですよ」とニコニコしながら口にしていた。



 アルゴが冒頭のように指輪を、と言い出した時にはリゼも持ち直したようで「お気持ちだけもらっておきます」と困惑しつつも笑みすら浮かべて答えていた。

「何故だ。確かに指輪は貴族の間で行われている儀式らしいが、構わんだろう」
「いえ、そういうことではなくて……」
「アルゴ。いきなり過ぎるんだよあんたは。リゼが大事ならもう少しゆっくり接したらどうだ」

 サファルほどではないが困っているリゼを見かねてカジャックが声をかけると、ようやく渋々諦めたようだ。

 指輪、か。

 一人わかっていないルーカスがそれこそ更に追い討ちをかけるが如くリゼを慰めているのを尻目にカジャックはぼんやり考えていた。
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